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『Second Earth Synchronize Online』  作者: 夢・風魔
第3エリア『混乱』
46/95

3-1:合宿の始まり。お面修復から宿無しへ

これより3章となります。

 遂にこの日がやってきた!

 といってもメンテ開けてから二日しか待ってないけども。

 流石にログインサーバーが混雑していてすんなりとはログイン出来なかったな。

 さて、溜まり場に向かうか。

 そろそろ拠点を【ルイビス】から変更したいな。


 空き地に行くと既にオリベ兄弟が居た。


「っよ」

「あ、おはようございますソーマ。体調はもういいんですか?」

「うん、バッチリ」


 具合の悪い所なんて元々無い。精神的というか、脳的に疲れているだけなんで、自覚症状と言えば悪夢ぐらいだしな。

 で、その悪夢はやっぱり見たわけで。でも合宿の為に大丈夫って事にする。


「ダメだぜー、細切れに寝たりとかしたら。VRやってる時はちゃんとまもまった時間寝たほうがいいぞ」

「オッケ。今度からそうするよ、フィン」


 心配してくれる友人がいるってのは、本当に有り難いな。いつか勇者パーティーのメンバーに入れてやろう。


「あっ。ソーマ君!」

「アデリシアさん、こんばんは」

「こんばんはー。もう大丈夫なの? 麻疹だって聞いたんだけど……。大きくなって麻疹になると、物凄く大変だって聞いたから心配しちゃったー」


 おい、誰が麻疹だって?

 オリベ兄弟を見ると、案の定フィンが笑っていた。


「あのねソーマ君。カインさん所のギルド、抜けさせてもらったの」

「え、そうなの?」

「うん。えっとね、会話がね、凄く難しくって……付いていけなかったから」

「廃人の会話について行けないし、暁のほうはもう大丈夫そうだからって抜けたんだってさ」


 フィンが掻い摘んで説明をしてくれた。

 まぁ、あのギルドの人たちも大概高レベルばっかりだしな。

 同じベータからのフェンリルが俺たちとそれほど変わらない所にいるのに、あの人たちレベル50なんてとっくに超えた存在だもんな。

 そう思ってたら今度はミケがやってきて、


「あー、ソーマだー。おたふくかぜ治ったかニャ?」

「……いや、おたふくでも麻疹でも無いから、俺」


 やっぱりフィンが笑っている。

 さっきのは前言撤回。全然心配してなかったな、こいつ。


「なんだ生きてたのか」


 溜まり場に来るなり惨い一言で現れたのはフェンリル。


「お前はフィンになんて言われたんだよ」

「末期がんだって」

「おいフィン。幾らなんでも無理あり過ぎだろ。お前も信じたのかよ」


 フィンを怒鳴りつけ、フェンリルには呆れ顔で問う。

 それぞれの反応は、フィンがニヤっと笑い、フェンリルは鼻で笑った。

 信じてないのに生存確認したのかよ。っくそ。


 まぁいいや。残るは百花さんだな。


「百花さんは――あれ、ログインしてないんだな」


 フレンドリストを見るとログインの有無は解る。しかも町の中にいるじゃないか。


「あー、百花なら寝落ちだ」

「え、寝落ち?」


 ゲームにログインしたまま、現実の肉体が眠ってしまう状況。それが寝落ち。ゲーム内でも眠った状態になるが、こっちでも普通に寝れるので、寝落ちかどうかの判断は容易じゃない。

 が、百花さんは別だな。


「また酔ってログインしてたのか……」

「んむ。さっき強制ログアウトされてお帰りになった」


 脳が寝たと判断されると、ゲームから強制的に接続を切られる。まぁそうしないと、眠った相手に悪戯する馬鹿もいるからな。

 にしても百花さん。知り合ってから何度目の寝落ちだろうか……。


「せっかくの合宿だってのに、勿体ないなー」

「だよなー」

「まぁ、楽しみにしすぎてお酒が進んだんでしょう」


 酒なんて飲まないから、酒飲みの気持ちは解らない。

 百花さんが居ないのなら、ギルドの話はまた今度にするか。そう急ぐようなものでもないし。


 とりあえず俺たちは移動する事にした。空き地周辺はプレイヤーでごった返していてなかなかに五月蝿い。まぁこれから十日間、みっちり遊べるわけだから、騒ぎたくなる気持ちも解る。

 転送用オブジェのある町の中央へと移動しながら、どこに狩りに行くか話を切り出した。


「今日はどこ行く? 折角だからさ、次の町とかにも移動したいなって思うんだけどさ」

「だよなー。もうルイビスの周辺だと、どこも格下モンスタばっかになっちまったし」

「ログアウトしなければ十日間こっちに居られますしね。今の内に適正レベルの拠点探すのはいいと思います」


 ミケとアデリシアさんも賛成してくれた。

 が、フェンリルだけは答えを出し渋っている様子だ。


「フェンリルは、他に行きたい所があるのか?」


 尋ねると、申し訳無さそうに彼女が口を開いた。


「悪い。今回はパスするわ。せっかくレベル37になって、奴等を楽に倒せるようになったし」

「奴等?」


 また誰と戦うって言うんだ。まさか暁――な訳ないか。


「あー、お面の修復素材落とす例のトロルですか」


 カゲロウの言葉にフェンリルが頷いた。

 なるほど、鬼の面の修復素材か。って、まだ集まってなかったのか。


「トロルってレベル幾つなんだ?」

「ん、32だ」


 俺のレベルが34で他のみんなが……、俺が一日半ほど休んでる間に皆レベルあげてやがった。

 フィンたちはこぞって36になってるし、アデリシアさんは40……。なんだ、俺、底辺かよ。

 いいんだいいんだ。レベルが全てじゃない!

 この合宿ではレベル上げに終始するつもりは無かった。出来ればこの世界を冒険したいと思っていたし、まったり歩き回るのもいいかなーなんて。負け惜しみを言ってみる。


「素材集めするなら、俺も手伝うよ。俺34だし、32のトロル相手ならわりと丁度いいかもしれないしさ」


 そうすれば二人っきりにも……なっ、なんて事を考えているんだ、俺は!?

 し、下心なんて無いんだからなっ。


「あ、じゃーさ。皆で行こうぜ。その方がサクっと集まるだろ」

「いや、それはなんか申し訳ないし」

「行きましょうよ。あと『鬼の角』幾つでしたっけ?」

「あー、必要個数三十個に対して、持ってるのは二個……」


 とんとん拍子に俺のペア狩りの夢は消えていった。






 狩場転送オブジェのお陰で目的地には一瞬で到着した。狩場は大きな森の中、その一角にある古代遺跡だ。地下にはダンジョンもあるが、ターゲットのトロルは地上に居る。というかここに住んでいるみたいだ。


「よぉし、狩りまくるぜー」


 巨大戦斧を振り回してフィンが突撃していった。レベル差が四つにフル支援込みなので、トロルなんて敵じゃないんだろう。

 まぁ俺も支援が入ればソロでも余裕で倒せる敵だし。

 それぞれが離れすぎない程度に好き勝手、トロル狩りをする。


 そして小一時間もすれば目標の二十八個を大きく超えたので、次にまた壊れた時用として追加セット分も集めた。

 合計一〇〇個ほどになると街に戻って早速修復に取り掛かる。


「あんだけ素材集めに苦労していた私の立場は一体……」

「いや仕方ないんじゃね? だってフェンリルは純ヒーラーだろ。元々攻撃力なんて雀の涙みたいなもんじゃ――」


 余計な一言で聖書の角でもって殴られてしまった。

 これ、地味に痛いんだよな。

 けど――心なしか以前に比べると痛く無い気がするのは気のせいだろうか?

 なんて思っている間に修復は終わった。


「ふぅ。どうやら修復の成功判定は無いみたいです。必ず成功するみたいで、安心しましたよ」


 こんな鬼の面だって伝説級の装備だ。失敗したらどうなるんだろうと冷や汗もんだったカゲロウは、安堵した様子で直ったお面を持ってきた。

 それを愛おしそうに受け取るフェンリルは、早速お面を付けてしまう。


「あー、もう付けちまうのかよー。勿体ないー」


 フィンはいいよな。思ったことを素直に口に出来て。

 それにしても、鬼の面ってそんなに効果良いのか?


「なぁ、鬼の面ってどういう効果があるんだ? カルマが下がるってだけなら、装備するだけ意味無いように思えるけど」


 鬼の面を付けたフェンリルがこちらを振り向く。

 うーん、非常に残念な装備だな。折角薄水色の女物法衣を着ているってのに。

 今度の法衣もまた微妙にエロい仕様だ。胸元は開いていないものの、膨らみを強調するようなデザイン。下半身はエプロンを前後ろ逆に着たような感じのスカートで、前面は際どいラインのふんどしで隠している。――みたいなものだ。

 今回はスパッツじゃなく、ガーターベルトってのも……そそる。

 なんて言ったら殺されるだろうな。


 だのに――だ。

 なんでお面付けちゃうかなー。


「効果か? Atk+10、Atks+15。HP+300、SP+250だ」

「ちょ、何その鬼性能!?」

「ヒーラーにそれいるのかニャ? 寧ろ私がほしいニャ!」


 ミケじゃないけど、確かにヒーラーには要らない効果だろ……まぁHPとSPは有り難いんだろうけど。


「そう? 火力の低いヒーラーだからこそ、有効に使えるんじゃないか」


 そう言ってフェンリルは分厚い聖書を振り回す。

 ちょ、聖書の角は危ないからっ。


 フェンリルがるんるん気分になった所で――


 ぐぅーっという腹の虫が鳴る。幸い、工房はトンテンカンと音が騒がしく、きっと誰の耳にも届いてないだろう。


「ソーマ、お腹空いた?」


 あ、くそ。犬耳カゲロウには聞えやがったか。

 苦笑いを浮かべて応えると、フィンが挙手して「俺も俺も」と騒ぎ出す。


「実は俺もさっきからお腹がぐーぐー鳴ってたんですよね。なんでだろう? やけにはっきり空腹を感じてる気がする」


 言われて見れば……。

 今までは漠然とした「お腹空いたかも?」という感じだったのに、今ははっきりと「お腹空いた」と感じている。

 それに――疲労感も少しあるな。もしかしたら脳疲れが残っている影響かもしれないが、これは伏せておこう。皆に余計な心配を掛けたくないし。


 六人で食堂に移動し昼食にする。今まで軽食かおやつ程度しか注文したこと無かったけど、初めてガッツリメニューを注文した。

 食堂に入って感じたのは、流れてくる匂いが堪らなく食欲をそそるという事。お陰でお腹の虫が鳴り捲る。

 食事が出てくるまでの間、話でもして紛らわせるしかない。


「なんか急に空腹度合いが増したけど、イベントと関係あるのかな?」

「俺なんて斧振ってると疲れも出てきたぜ」

「え? フィンもか? 俺、疲れが残ってるんじゃないかと思って言わなかったけど……」

「私も手足が重くなってたニャ」

「私は時々頭痛みたいなのが。あ、でもフェンリルさんの支援魔法を貰うと治ってました」

「あー、確かに」


 ブレシングだっけ? ステータス強化の支援スキル。これを貰うとひとまず疲れも消えてたんだよな。けど、狩りが終わってスキル貰わなくなったもんだから、疲れが復活したって感じか。


「んー、公式サイトには時間の概念以外の変更は書かれてなかったが……」


 話し込む間に注文した料理が続々と運び込まれる。

 俺が肉食男子系!

 ガッツリ骨付き肉に、薄くそぎ落とした味つき肉を野菜と一緒にパンで挟んだのやら、香味料と炒めたチキンを頬張る。

 が――正直注文しすぎたと思っている。

 それはフィンやカゲロウも同じだった。


「うん、めちゃくちゃ腹が減ってる気がしたんだけどなー」

「だねー。意外と『普通』にお腹空いてただけだったね」


 そうなんだ。

 たぶん、初めてゲーム内で感じたはっきりとした空腹だったから勘違いしたのかもしれない。

 その点女性陣は相変わらず質素だ。


「女の子連中はお腹とか空いてなかったのか?」


 尋ねてみたが


「空いてたけど?」


 と普通に返事が返ってくる。

 じゃーなんでそれっぽっちなのか。


「え? だっていっぱい食べたら太るニャ」


 ゲーム内で太るのか?


「お友達とご飯食べに行っても、いつもこんな感じですよぉ」

「あれだ。いっぱい注文すると『そんなに食べるのー?』みたいな目で見るんだよ、女子ってのは。だから人前ではあまり食べないようにしてるのが多い」

「面倒くさいんだな、女子って」

「うニャ」「うむ」


 ミケとフェンリルがハモる中、アデリシアさんだけが状況を解らずにサンドイッチを食べていた。






 昼食の最中に話し合ったこと。


「夜はどうする?」


 ――だ。


「この疲労感って、寝ないと取れないなんてオチがあったりして?」

「うーん。空腹感は確かに食べる事で消えたしなー。支援スキル貰っても一時凌ぎっぽいし。やっぱ睡眠って必要かもな」


 という結論に達し、俺たちは少し早めに宿を借りる事にしたんだが……。


「生憎部屋はもういっぱいでして……」


【ルイビス】の全宿屋でこの調子だ。

 まさか最高級の宿屋もだめとわな。


「移動するぞ」


 と言ってフェンリルが帰還魔法を唱える。

 魔法陣の先は【ファーノーブル】。だがここでも同じ結果だった。

 続いて【ファーイースト】。流石に初期の町だし、大丈夫だよな?


「いやー、今日は随分客の入りが良くってねー。申し訳ないが……」


 なんてこった。まさかこの町まで宿が埋まってるとは。


「どうする?」

「どうしよっか?」

「そもそも宿の数に対してプレイヤー数のほうが多いニャ」


 まったくだ。

 一つの町に対して宿屋は五、六軒ある。それぞれが一〇から二〇部屋ぐらいあるけど、プレイヤーの人数は一万人はいるだろう。絶対的に足りないんだ。


「ほむ。そう言えばね、雑貨屋に簡易テントなんてものが売ってあるんだけど……何の為に売ってるのかと思ったけど、もしかしてこの為だったりとか?」

「まじっすかフェンちゃん」

「ちゃん付けで呼ぶな」


 そんな訳で早速雑貨屋に向った。

 つまり――


「えー、野宿なんてヤダニャー」

「キャンプですか? 私、キャンプなんて初めてですっ」

「やるならこの辺りのフィールドがいいだろう。圧倒的な格下ばかりだし」


 女子グループの三者三様のご意見。

 そう、野宿だ。というか宿が空いてないんだから、これしか方法は無い。まぁ、もう一つあるにはあるけど、夜通し狩りってのは遠慮したい。


「簡易テントくださ〜い」


 アデリシアさんが元気よく雑貨屋の扉を開けると――


「はーい。今日はテントが良く売れるわねぇ。残り二つなんだけど、足りる?」


 と首を傾げる店員さんが居た。

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