間話2-2
ログイン早々に男から声を掛けられてしまった。
ウザいな――そう思いながら振り向くと、声を掛けてきたのはまさかのNPC。しかも見覚えがある?
「はぁはぁ、医者センセーから聞いたんだが、あんたをこの空き地でよく見かけるって。居てよかったよ」
「医者センセー……あぁ、ソドスの」
御者だ。
ルイビスに居るって、まさかまた襲撃イベント?
「覚えててくれたかい。あぁ、良かった」
「あの、私に何かご用で?」
大分息を切らせてるなぁ。探してたのか、私を。
「あぁ、ほら。私を魔物から助けてくれた若者。蒼い髪と目のあの子だよ」
「ソーマ? 彼がどうかしたんですか?」
「倒れちゃったんだよ。そのまま目を覚まさなくって、それで、寝言で名前を呼んでてね」
倒れた? モンスターに攻撃でもされた? いや、そもそも目を覚まさないって……まさか死んだとか。いやそれなら復活地点に戻って来るだろうし。
何をやっているんだか。
「名前って、誰の名を?」
「あぁ。フェンリルって。お前さん、知ってるかい?」
……。
な、何故私……。
「とにかく必死でその名前を呼んでいるから、探しているんだが」
「あー、あぁ……。と、とりあえず迎えに行きます。転送魔法陣、出すので――あ、馬車ですか?」
おじさんが頷く。
うーん、馬車も送れるんだろうか?
魔法陣が大きくなれば送れそうだけども……まぁやってみよう。
おじさんに案内されて馬車の所まで行く。町の中央広場で人も多いから、まずは町の外まで行こう。
門を出てから人の邪魔にならない所で魔法の詠唱開始。
いつもより大きな魔法陣をイメージして……大きくなれっ。
ぞわっとして力が吸い取られたような感覚に襲われる。なんだろう、これ。今までこんな事、無かったのに。
まぁ無事に大きな魔法陣出てきたから、いいや。
「ほほう、これが転送魔法陣か。はじめて乗るなぁ」
「はいはい、さくっと乗ってください。一定時間経つと消えちゃうんで、無駄にエス、精神力失うだけだから」
「おお、そうか。じ、じゃー早速」
馬の手綱を操っておじさんと馬車が魔法陣に乗る。案外、馬のほうは怯えもせずに乗ってくれてよかった。
後を追うように私も魔法陣に乗った。
村までは一瞬。
さて、ソーマを起こしにいくか。
御者のおじさん宅に案内され、そこで眠っていたソーマの容態をまず確認。
うーん、HPは減っていないし、SPもマックスだし。どうして眠っているんだろう?
いや、ただ眠っているだけとか?
「急に倒れたんですか?」
「あぁ、そうだよ。倒れる前に様子はおかしかったけどね。声を掛けても無反応だったし、目の焦点が合ってないというか……」
うーん。モンスターの仕業と考えるのが妥当なんだろうけど……。でも村の様子を見ても、襲撃って感じでもないし。
はぁ、まったく。なんだろうね、この子は――って、一歳しか変わらないんだった……。
「とりあえずリカバリーして見ます。それでダメなら……暫く寝かせておいてくれませんか?」
「あぁ、それは構わないよ。いつまででも休ませてやってくれ。なんたって命の恩人だからね、彼は」
命の恩人――か。
まぁ確かにそうかも。NPC、御者のおじさんにとって、そしてこの村にとってソーマは英雄と言ってもいいぐらいなんだろう。
これがゲームじゃなければ、ね。
さて、それじゃーまず、
「汚れし気の浄化。リカバリー」
後ろで部屋の扉が閉まる音が聞こえる中、ソーマの反応を待つ。
うん。効果無し。
まぁそうだよね。デバフアイコンだって付いてないんだし。
一応念のため……
「生命の奇跡を……ヒール」
うん、当然反応なしっと。
次――
「継続的な癒しの力よ……コンティニュアリ・ヒール」
んー、次。
「聖域にして癒しの泉、サンクチュアリ」
おぉ!
ベッドが光ってるわ。
無駄なSPを消費してしまった……。次。
「神よりの祝福を与えよう。ブレシング」
お?
……。ピクっとしただけか。
こうなるとアレね。
エスペランダで攻撃してみようか?
「うぅ……う」
「ソーマ?」
寝汗?
んー、よっぽど怖い夢でも見てる? 随分苦悶してるけど……。起こしてあげた方がいいんだろうか。
「おい、君。起きなさい」
揺すってみても起きない。
ステータス的な意味あいの気絶や昏睡と違うなら……無理に起こさない方がいいかも?
「うぅ……」
汗が凄い……熱は――うん、大丈夫。
とりあえず、汗を拭かないと。
「待ってなさい」
言った所で聞えてないか。
確か向こうの部屋に奥さんがいたはず。タオルでも借りてこよ――。
「ん? またノイズ? ……治まった?」
んー、最近ちょくちょく入るなー、ノイズ。そろそろヘッドギアの寿命かなぁ。壊れる前に新しいのポチんなきゃ。
寝言でうなされているソーマをもう一度見る。やっぱり、起きる気配はないな。
「君――どうして私なんかの名前を……。はぁ、どうせ聞えてないか。まったく君は……、はじめて会ったときもそうだったけど、なんたってこんなに長く気絶するんだか」
毛むくじゃらのネームドに殴られて気絶したあの時も、普通なら数秒で意識が戻るシステムになってるってのに。君ってば全然起きないんだから。
泉の温泉の時もそうだ。果物を投げつけて目潰しして、その隙にスタン鈍器で軽く殴ったのは私だけども――起きないんだもんなぁ。
やたらシステムからずれた症状を見せるもんだから、心配するじゃないか。
「あーくそ。なんでこんな男の事を気にしてしまうんだ。もうっ……ばか……」
タオル。そうだタオル。
さっさと借りて来よう。




