間話2-1
土曜日の夜からゲーム合宿!
やー、高校ではバイトするために帰宅部だったから、部活合宿なんか経験したことないし。すっげー楽しみだなー。
ばーちゃんに徹夜でゲームするって言ったら心配されたけど、その分、金曜日の今日はログインしないで休む事にした。
っというより、合宿中に幻覚でまた倒れたら勿体無いしな。
あー、それにしても……。
俺、押し倒されちゃった。っきゃ。
……。
…………。
「はぁ、虚しい」
何一人でアホな事考えてるんだろうか。
けどやっぱ、あのシチュエーションは……燃える。
「だぁー! どこが燃えてんだよ! 落ち着け俺っ」
一人ベッドで悶々とする俺。最高に間抜けだな。
なんかすること無いと変な妄想ばっかりしてしまうな。
……。
…………。
よし、寝よう。
うん、それがいい。頭休めて幻覚対策だ。
布団を被って寝る体勢――まぁ、なかなか眠れないけどその内眠くなるだろう。
土曜日にログインしたら、ギルドの事とか話してみるかなー。製造が楽になるように――ってだけじゃないけど、折角出会えたんだ、ヒヒを倒してバイバイじゃ、なんか寂しいもんな。
一緒にいられる理由を――こじつけみたいなもんでいいからさ、なんかあればこれからも一緒に遊べる。そんな気がするんだ。
その為のギルドっていうんじゃ、ダメだろうか。
俺、まだMMOの常識とか傾向とか解んないから、皆がギルドってのに対してどう考えてるのか解らないけど。
その辺、皆と今度、話して、みよう……
足元に広がる血の海。
あー、またあの夢か。
いや、違う。
小高い丘と、そして幾つも並ぶ墓標。
ソドス……か?
丘から見下ろすそこには、確かに村があった。
じゃー、この血は?
足元を見ると、今度は地面から腕が伸びてきて俺の足首を掴んだ。
「ちょ、なんだよっ!?」
白骨化しているその手を振りほどくが、次の瞬間にはスケルトンの群に囲まれていた。
モンスター襲撃か!?
舌の無い口で奴等が叫ぶ。
『何故もっと早くに来なかったのか』
『何故私たちを救ってくれなかったのか』
『せめて子供だけでも助けてくれればよかったのに』
『パパ、ママ。痛いよ、怖いよ』
これは、
この人たちは、
ソドスの村人!?
『お前は』
『お前が』
「俺が……俺のせいなのか?」
震える声で問う。
俺が村に到着するのが遅かったから。あの時、御者がルイビスに到着して直ぐに村に向っていれば、救えた命はもっと多かったはず。
だから、俺のせいなんだ。そうだろう?
『お前は――』
目を閉じ項垂れる俺の耳に、どこかで聞いたような声が届く。
優しくて穏やかで、それでいて力強い意思すら感じる男の声が。
男の蒼い髪が俺の鼻先をくすぐる。優しく微笑む蒼い瞳はじっと俺を見つめていた。
『お前には不思議と運が付きまとうようだ。魔物に襲われた村で唯一の生き残りでもあり、私たちと旅を共にしていても常に生き残り続けた――』
『多くの仲間を失った私たちだけど、貴方だけは失わなかったわ。それだけが、私たちの喜び』
銀髪のエルフも居る。
二人とも、どうしてそんなに――
『心残りは、お前を置いて逝かねばならない事』
『せめて……貴方を安全な場所に――魔物のいない安全な世界に――』
どうしてそんなに、死にそうなんだ?
蹂躙する魔物達。
血を吐き、今にも倒れそうな二人の体には無数の傷が刻まれている。
「……さん。とーさん、かーさんっ」
そう言うのが精一杯だった。
けれど、それが二人にとっては喜びだったのか。
満面の笑みを浮かべた二人は、最後の力を振り絞ってある呪文を唱えた。
『『空間転移』』
血の繋がりなんて無い。本物の両親はあの日、村を襲った魔物によって殺された。
唯一人生き残った俺を救ってくれたのがこの二人だ。
そして俺を養ってくれる人を見つけるまで、ずっと守ってくれてた――
この世界の勇者と謳われた二人。
「とーさん、かーさん! 死なないで、死なないでっ」
魔法が完成し、俺の足元に魔法陣が現れる。
抗う事の出来ない魔法によって、俺は遠いどこかに飛ばされた。
二人がその後どうなったか解らない。
解っているのは、知らない世界で出会った老夫婦の事だけ――。
「うわぁぁぁぁぁっ」
な、なんだ今の夢?
あの夢の続きなのか? それとも――。最後のじーちゃんばーちゃんのことろが妙にリアルだったぞ。
うーん、疲れを取るつもりで寝たのに、余計に疲れたな。
もうなんつーか、汗びっしょり。
こうなったら着替えて、漫画でも読んでよう。
そういや俺……。
死んだ両親と写った写真、一枚も無かったな……。
場繋ぎ話その1