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『Second Earth Synchronize Online』  作者: 夢・風魔
第2エリア『予兆』
38/95

2-16:閻障のマンドラゴラヒヒ

 地獄の底。

 誰だよそんな事言ったの。

 終着点はそんなに遠くも無かったぞっと。


 けどその光景は確かに地獄っぽくも見える。

 土ではなく、むき出しの岩盤からは白い蒸気があちこちから立ち上っている。それに熱い。まさかこの山って、火山だったりしないだろうな。

 溶岩みたいなものが見えないだけ、まだ精神的にもいい。これで溶岩なんてあった日には、戦闘どころじゃないからな。


 岩盤構造の広いその空間の奥に奴は居た。


---------------------------------------------------------------------


 モンスター名:【閻障のマンドラゴラヒヒ】

    レベル:36

     種族:動物

     属性:火

     備考:マンドラゴラヒヒの首領。

        その声には様々なデバフ効果がある。

        

---------------------------------------------------------------------



 レベル36のこいつの周囲には、二十匹ほどのマンドラゴラヒヒが居る。

 流石に二十匹のタゲを抱えるのは無理か? そう思ってフィンを見たとき、後ろから突然人影が躍り出た。


「案内、ご苦労さんっ」

「ヒャッハー! ネームド頂きぃー!!」


 誰だよ!

 そう思ったが、彼らの顔に見覚えもあれば、その後ろにいたレスターを見て思い出した。


 暁だ。


 取られて堪るか!

 そう思って走り出そうとする俺の前に、大量のネズミ捕りの罠がばら撒かれる。

 罠を置いたのはレスターだった。

 っておい、俺はネズミじゃねーぞ!

 罠に気を取られている間に彼らがボスヒヒに攻撃を開始した。


「不味い。あいつら全員レベル40超えだぜ? 即効で片付けられちまう!」


 悲痛に叫ぶフィンを尻目に、彼らは次々に攻撃を繰り出していく。


 が――

 もちろん奴も――【閻障のマンドラゴラヒヒ】だって即座に反撃する。


『ゴルアアァアァァァァァッ』


 奴が吼え、その太い腕でもって暁のメンバーをぶん殴る。

 ぶん殴ってぶん殴って――そして、

 ばったばったと倒れていく暁の前衛陣。獲物が居なくなれば後衛に襲い掛かるヒヒ。

 どうなってんだ?

 なんで一方的に暁がやられてんだ?


「ッ糞。装備破壊とか聞いてねーし!」

「なんで装備破壊攻撃しかしてこねーんだろ! コーティングなんて持ってきてねーってのにっ。ぴぎゃー!」


 あ、痛々しい名前のルシファーも逝った。残ったレスターは逃げようとしてるが、自分がばら撒いた罠のせいで逃げられなくなってやんの。


 そして遂にレスターも逝った。

 最後に「アデリシア、逃げよ!」なんてかっこつけて叫んでたけど、全然かっこよくねーから。


 あまりにも見事な雑魚っぷりに唖然としてしまう。

 まぁ武器が破壊されれば攻撃は素手になるか予備の武器を出さなきゃいけないし、それも壊されれば――いつかは素手になる。

 防具が破壊されれば防御力も紙と通り越してティッシュ装甲になるだろうし、防具にあるHP補正値も無くなるから瞬殺されるのも納得できる。

 装備破壊――恐ろしいスキルだ。


 唖然と見つめる中、暁の面々は消えていった。たぶん復活地点で喚いてるんだろうなぁ。


 暁メンバーを全員ぶっ倒しても満足しないヒヒは、次の獲物とばかり俺達の方を向く。

 まず動いたのは取り巻きのヒヒたち。

 俺たちを襲おうとやってくるヒヒの群れは、設置されたネズミ捕りに次々と掛かっていった。


「レスター、ナイスな奴だな」


 フィンがそう言って一匹に切りかかっていく。


「じゃ、俺はコーティング剤塗って……これでよしっと。行くぜーっ!」


 フェンリルが事前に用意してくれた、一定時間装備破壊スキルを防ぐっていう『コーティング剤』を装備に振り掛けていざ出陣!






 取り巻きが罠にかかったことで、単騎となった【閻障のマンドラゴラヒヒ】に俺とミケが挑む。


「来てやったぞサルっ! フェンリルの仇だ、覚悟しろ!」

「勝手に殺すな!」


 俺の『挑発』文句に後ろから抗議の声が上がる。

 だってこれしか言いようがなかったんだから、仕方ないじゃん。


 無属性の強力なスキルを持つミケに、ダメージヘイトで持っていかれまいと必死に俺もスキルを打つ。

 火はダメだ――そう念じながら『バッシュ』や『シールドスタン』で堅実にダメージを与えていく。雷属性は――ダメージ少ないだろうなぁ。

 そう思ったところへ


「水属性付与、いくで〜」


 という声が。

 ぽちゃんという音が頭上でしたかと思うと、うっすらと剣が青く光りだした。


「エンチャント持ってるなら先に使ってニャ!」

「あはは〜ん。ごめんねぇ。お酒が足りなくって、頭がよー周らへんのよぉ」


 酒入ってるからじゃないのか!?


 けど助かった。これで『ヒートスラッシュ』も撃てる。CT短いから、スキル回しには欠かせないんだよなぁ。


「よぉし、行くぜ!」


 剣を引き、その手に力を込める。――と、ジュワァーッという音を立てて水付与が消えてしまったしーっ!


「ちょ! なんで!?」

「あは〜、相性悪い属性スキル使うと、消えてまうんやで〜。ソーマん、あとで罰ゲームな」


 なにその理屈! 罰ゲームって何!?

 再度付与された水付与で、今度は『ライジング・インパクト』を決める。

 これはこれで、水は雷に弱いという相性だけど、どうなる?


『ギャギャッギャー』


 お? 効いてる?

 どうやら水に含まれた雷もろともダメージになったみたいだな。

 よし、行ける。

 行けるうえに、奴の攻撃はさっきから装備破壊しかやってこない。今この瞬間も、奴の太い腕が俺を捉えようと振り下ろされている。


「くぅーっ。素殴りだから一応ダメージは来るけど、ネームドのスキル攻撃としては甘い部類だな」


 盾で防ぎダメージを半減させれば、通常モンスターの攻撃を素で受けた程度にしかならない。しかも振りが大きいので、素早いミケなんかは軽く躱してるぐらいだ。


「だからってコーティングが切れたらお仕舞いだぞ。さっきの雑魚暁みたいになるからなっ」


 後ろからフェンリルの声が飛ぶ。それを聞いてさっきの光景を思い出した。

 勝ち誇ったように吼えながら、次々に駆逐されていった暁の面々。あれは、かなりかっこ悪かったな。

 たしかにあんな風にはなりたくない。


 簡易ステータス欄に出ているコーティングの効果アイコンを見ると、それが点滅している事に気づいて慌てて二本目を飲んだ。


「やっべー。効果時間一分って、すぐだな」

「ニャ。気づいた方が声掛けるほうがいいニャね」

「あぁ、そうしよう」


 装備破壊を一定時間防ぐ効果のあるコーティング剤。

 まさかこんな所で役に立つとはなぁー。【恐水のアクアドラ】やそのミニサイズから出た『硬質粘液』が、コーティング剤の素材だったんだからラッキーだぜ。

 これがなかったら暁みたいになるんだから、本当、アクアドラ様様だぜ。

 

 だが油断は禁物だ。余裕ぶっこいてて何度も痛い目にあってるからな。だから今日は終始真面目に気合入れて慎重に戦うことにする。

 取り巻きは常に一定数を維持するかのように召喚されていた。よって、フィンもアデリシアさんもこちらの戦力としてはカウントできない。

 時々後ろの方で悲鳴が聞えてくるが、それはアデリシアさんの声じゃなくってヒヒだったり、時にはフィンだったりしている。簡易ステータスには変なデバフが掛かってるがそれもすぐに消えてるし、フェンリルが頑張ってるんだろう。 

 俺も頑張らないとな。






 しかし、まさか自分のHPが三割減るまで攻撃パターンを変えない奴だとは……。


『フゴォォォォォォォォォッ!』


 いや、今更怒ったって仕方ないだろ?

 寧ろ今まで装備破壊が効果無いってのを理解しないで、ずっとワンパターン攻撃しかして来なかったお前が悪い。


「俺、猿ってもう少し頭のいい動物だと思ってたんだけど、違うんだな」

「それは現実での常識であって、こっちにもそれが適応されてるとは限らないニャ。少なくとも、あいつは馬鹿ニャ」


 言えてる。


『フッゴアァァァァァッ!!』


 あ、ミケの言葉は理解できたみたいだ。

 怒りをあらわにしたヒヒが暴れだした。

 拳でもって地面を叩き、真下にいた俺やミケが振動で姿勢を崩す。崩した所へ、奴の足が振り下ろされる。

 それを盾で弾き返そうとするが……


「ぬあぁー! 重いっ」

「ソーマ!? ――これでもくらえっ」


 カゲロウの声が聞こえたかと思ったらヒヒの足に矢が命中して、今度は奴の姿勢が崩れた。


「隙ありニャー!」


 立ち上がった俺の背後からミケが跳躍した。俺の頭を踏み台にして……。

 えーぃ、くそ。俺だって多段攻撃してやるっ!


 水付与を貰った『ソードダンス』はなかなか爽快だな。武器のCT半減効果もあるし、『バッシュ』と『ライジング・インパクト』の三つで常にフルスキル攻撃も可能だ。

 もちろん、SP付与とポーションがぶ飲み前提だけどな。

 今回の俺は火力職にも匹敵する活躍が出来ている。フィンとアデリシアさんという二大火力が居ないものの、なかなか順調に奴のHPが削れて行く。

 ほとんど通常攻撃ばかりなので、フェンリルのヒールが飛んでくる回数も少ない。それだけ楽な戦闘が続いているって訳だな。


 時折思い出したかのように飛んでくる装備破壊に備え、コーティング剤だけは常に欠かさないでおく。

 奴のHPがまもなく残り三割になる。いつものパターンならここから召喚がわんさか出てきたり、攻撃力がランクアップしたりするが……取り巻きは常に召喚され続けている訳で。

 となると――


 固唾を呑んで警戒する。


 奴のHPが――残り三割ジャスト。

 それまで真っ白だった奴の毛が突然、漆黒色に変色してゆく。

 何の効果だ? 何をする気だ?

 奴の足元からその表情を見逃すまいと見上げる。

 黒目の無い、赤一色だった瞳が――何故か俺を見下ろしているように見えた。

 視線が合った瞬間、


『ガアアアァァァァァァァァーッ』


 劈くような咆哮が洞窟内に響き渡った。

 同時に俺の心を恐怖が支配していく。その恐怖によって足が竦み、一歩も動けなくなった。

 糞っ、デバフかよ。しかも視界まで奪われて、何にも見えやしねーっ。

 奴は目の前に居るはずだ。とにかく盾を構えて――


「っがはっ!?」


 みぞおちに一発、モロに食らった。しかも下から突き上げるような攻撃に体が吹っ飛んだ。

 頼む、尖った岩の上とかに落下しないでくれよっ。


 落下したのは誰かの上。


「んんーっ」

「っつー。だ。誰だ? 悪い、暗黒状態で何も見えないんだ。ついでに恐怖にも掛かってて足が動かない。フェンリルは!?」

「んんんーっ」


 誰だよさっきからんんばっかりで。声からしてカゲロウじゃないな。女声だし。ミケ? 百花さん?

 まさか――


「フェンリルが沈黙と麻痺ニャ!」


 最悪な状況をミケが伝えてくれる。そして俺がぶつかった相手がフェンリルである事を知る。


 ヒーラーが沈黙って……スキル使えないじゃねーか! しかも麻痺で行動そのものが出来ない状態だから、ポーションも飲めない……。

 絶対、不味い。


「ソーマ、盾を構えるんだ!!」

「え――ぐあっ」

「んぐっ」


 カゲロウの声が聞こえた。けど、ほぼ同時に全身に衝撃が走る。そして再び吹っ飛んだ。今度はフェンリルもろとも。

 背中に彼女の温もりを感じながら、俺たちは壁に叩きつけられる。

 彼女がクッションになって俺への衝撃は和らいだが――


「フェンリル!?」


 返事が返ってこない。

 視界はまだ暗いまま。今どういう状況なんだ? フェンリルはどうなっているんだ?

 せめて簡易ステータスが見えれば。っくそ、なんでこんな時に限ってゲームらしくないんだよ。UIぐらい見えたっていいだろ?

 そう思った時、ようやく視界が薄ぼんやりと見えてきた。デバフ効果時間の終了か?


 フェンリルは?

 いや先にヒヒだ。奴のヘイトを取ったままだし、また俺が攻撃されれば巻き込んでしまう。

 必死に目を凝らす中、ミケがヒヒと対峙しているのが見えた。カゲロウと百花さんも援護している。三人はなんとか自力でデバフを解除したのか。

 次、フェンリル!?


「おい、フェンリル。しっかりしろっ」


 やはり返事は無い。

 視界もはっきりしてきた。簡易ステータスを確認すると、俺の恐怖はまだ持続中だ。彼女のデバフは――沈黙が残っているが麻痺は無い。なのに動かないのは――


「気絶? でもデバフアイコンは無いぞ。おい、フェンリル!?」


 横たわる彼女の体を抱き起こすが、それでも反応は無い。

 支える俺の手に、生暖かい、ぬるっとした感触が伝わってきた。

 その手を見ると、真っ赤な液体が――

 一瞬、視界にノイズが走ったが直ぐに戻った。


「――フェンリルッ!?」


 システムには無い状況で彼女の意識が途切れてしまった――。

 どういう事なんだ?

 HPも十分残っている。

 にも関わらず、今俺の目の前で彼女は意識を失っていた。


「フェンリル!!」


 何度呼んでも意識を戻そうとはしない。もう一度揺すってみるか?

 俺は右手を見た。

 真っ赤な血がこびりついた右手――彼女の血だ。

 頭を切ってるな……揺するのは不味い。この場合、どうしたほうがいいんだ? 傷口を心臓より高くするとかだっけ? けど頭だし……動かさないのが一番だよな。

 だからってこのままにする訳にもいかないだろ?

 あー、くそっ。

 こんな時回復魔法とか使えりゃーいいのに!


 勇者だったら回復魔法使えたりするじゃねーかっ!


「ソーマっ! ランタゲがそっちに行きよるでっ」


 誰かの声が聞こえた。

 顔を上げると、猛然とこちらに向って来る【閻障のマンドラゴラヒヒ】が見えた。


最近PVが増えてきました。

お読みいただいている皆様。本当にありがとうございます。

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