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『Second Earth Synchronize Online』  作者: 夢・風魔
第2エリア『予兆』
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2-14:不敗?

 ヒーソップ草は一人二〇個ずつ、五人分一〇〇個集めて【ルイビス】の町に帰還した。

 町医者のセルジュさん宅へと急ぐと、彼の家には既に冒険者=プレイヤーが何人か来ていた。他の薬草を集めた人達だろう。


「やぁ、ヒーソップも届いたか。これでとりあえず薬の調合は出来そうだ。周辺の村に届ける分は間に合いそうにもないがね……」


 他の薬草は比較的【ルイビス】の周辺で見つかるらしい。

 クエストを完了させに来たプレイヤーは「ヒーソップが何処にあるか解らない」という理由で、他の薬草集めをしたとか。


「他のプレイヤーに場所教えたほうが良さそうだよな?」

「だな。君たち三人はアイテム清算してて。プチレアとかは任せるよ。その間に私たちは薬草の事を触れ回ってこよう」


 俺とフェンリルが走り回る事になった。が――


「クエストは酒場の貼り紙から受けたからさ、そっち行けばほしい奴いるんじゃないか?」


 とクエスト完了者からアドバイスを貰って酒場へと移動。

 ミケ、アデリシアさん、百花さんの三人がアイテム清算をする為に溜まり場へと向った。


 いるいる。貼り紙に群がるプレイヤーがわらわら。

 何人かに話をすると喜んでそっちに向かってくれる事になった。フェンリルが帰還魔法陣で【ファーイースト】行きを出すと、何人ものプレイヤーが入っていく。自前の魔法で向う人たちも居た。

 これで薬草も安泰だな。






 ヒーソップ草の群生地を教えると、俺とフェンリルはいつもの溜まり場へとやってきた。


「ボスから出た素材は、一応とっといてあるけど。どないする?」

「30武器の素材も入ってるし、これは残しておきたいニャ」


 既に店じまいをした三人が俺たちを出迎える。

 素材は確かに残しておきたい。

 今回は装備類が一切無く、伝説素材と一般素材がメインだ。いつもに比べるとかなり見劣りするが、フェンリル曰く「これが普通だ」との事。


 いらないものはNPCや露店販売して、ドロップ金も含めると一人頭七五ゴールドとちょっと。懐が肥えてきたぜ。


 清算も終わり、それぞれが休憩だのログアウトだのの話に入ると、途端にアデリシアさんの表情が曇る。

 この後、彼女は暁に戻る事になる。それが嫌なんだろうな。


「なぁ、このまま暁を脱退するんじゃダメなのか?」

「ん? あー、その話ね。ちょい君、こっち来なさい」


 そう言ってフェンリルがアデリシアさんを連れて物陰に隠れてしまった。何をする気なんだ……。

 暫くして戻ってくると、アデリシアさんの表情が明るくなっているのが見えた。何の話をしたんだ……気になる。

 だがアデリシアさんはパーティーを抜け、一旦暁に戻ると言い出した。


「レスターがログインして来たから、私、戻りますね。ソーマ君、誘ってくれてありがとう。すっごく楽しかった。新しいスキルも久々に増えたし、ほんと、よかったー」

「そ、そう。誘ってよかったよ。また機会があったら――」

「うん。また皆と一緒に遊ぼうね。じゃーねー」


 満面の笑みで手を振るアデリシアさんを見て、少しほっとする。

 けど、フェンリルと何を話していたんだろうか。

 気になる――


「なぁフェンリル。アデリシアさんと何話したんだ?」


 分配されたアイテムを倉庫にしまいに行く途中、彼女に尋ねる。

 素材とは言え、中には伝説級のものもあった。これで30伝説武器も作れるはずだ。本来なら喜ぶべき所なんだけど、アデリシアさんの事が心配でそういう気分にはなれなかった。


「んー。どうせ暁抜けるなら、他に抜けたがってるのも誘えって。あと、抜けるタイミングはこっちから連絡するから、それに合わせて皆連れて来いって言ったんだ」

「なんで?」

「なんでって、ただ抜けただけじゃ暁が嫌がらせ攻撃してくるだろ。それ防ぐために根回しする為だ」


 根回し?

 一体何をする気なんだ……。


「ま、その時は盛大にやるから」


 それだけ言うとフェンリルは「用事あるから」と言ってどこかへ行ってしまった。

 残された俺とミケ、百花さんの三人はする事もなく、一度ログアウトする事になった。






 再びログインしたのはリアルでの夜だ。

 オリベ兄弟もログインしていたので、さっそく溜まり場――ではなく工房へと向った。

 案の定二人はそこで生産をしていた。


「っよ。相変わらず精が出るねー」

「お、ソーマ。ちぃーっす」

「こんばんはー」


 カゲロウはレア防具の委託を受けていたみたいで、俺と同じ防具の製作をしている。フィンは別のプレイヤーから銅インゴットの加工依頼を受けていた。

 二人とも依頼が次ぎから次へと舞い込んでくるようで、町にいる時はほとんどここに居るな。

 まぁこれで次のランキングも安泰かもなー。


「あ、ソーマ。さっきフェンリルさんからささやきがあって、君の知り合いの子のギルド脱退式するから、ログインしたら連絡してくれって言付かったんだけど」

「お、さんきゅーカゲロウ。連絡してみるよ」

「ギルド脱退式って、なんだ?」

「まぁ、話はまずフェンリルに連絡してから、その後でするよ」


 フレンド一覧を開いてフェンリルがログインしているのを確認する。それからささやきチャットで、ログインしたことを伝えた。

 こっちに来るというので、その間にフィンとカゲロウにはパーティーチャットでアデリシアさんの事を伝える。

 話を聞いて二人とも、ますます暁に対する敵意が増したようだ。

 程なくしてミケと一緒にフェンリルがやってくる。百花さんは……ログインしてない所を見ると酔いつぶれているんだろうな。


「じゃ、アデリシアのギルド脱退式するけど、見にくるか?」


 とは双子への言葉らしい。

 フェンリルの言葉に頷いた二人は、やり掛けの生産を終わらせると待っている人に謝罪してからこっちに来た。

 二人が合流してからフェンリルが歩き出す。どこに向うのだろうと思ったが、向う先に合ったのは貸し倉庫。

 そこにはアデリシアさんの姿もあった。彼女の周りには知らないプレイヤーが数十人居る。もしかして暁を抜けたいっていう人達だろうか?


「よし。んじゃ暁のギルマスと幹部呼び出してくれ。どうせログインしているだろう」

「はい。ほとんどの人がログインしています。えっと、どうやって呼び出したらいいか……」

「そんなの簡単だろう。レアレシピ見つけたといえばすっ飛んでくるさ」

「おいおいフェンリル。そんな適当な嘘でいいのかよ。もし飛んできたとして、それでまたいちゃもん付けられたりしたら」

「あー、それは大丈夫。実際にレアレシピ持ってるから」


 え? いつの間に?

 そしてフェンリルの言葉通り、暁のメンバーが続々と倉庫までやって来た。

 なんていうか、目が逝ってる連中ばっかりだぞ。大丈夫か?


 キャラクター情報を見ると、ほとんどがレベル40を超えた高レベル者だ。

 しかし、『堕天使・ルシファー』ってどんだけ中二ネームなんだよ。


『ルシファーってのがギルマスだ』


 パーティーチャットを使ったフェンリルの言葉を聞いて、俺は思わず吹き出しそうになる。

 こ、こいつが……。


 銀色の短髪を刈り上げた、ちょっとショタにも見えるエルフ。三白眼気味の赤い目は、周囲を敵にまわすように鋭く睨んでいる。

 両手杖ってことはウィザードか?

 アデリシアさんにはソーサラーを強要しておいて、自分はウィザードとか、どんだけだよ。


「それで、なんでこんなに人が集まってるの?」


 男、ルシファーが威圧的に言う。

 怯えるようなアデリシアさんに向って、彼は一歩近づき再び問いかけた。


「で、レシピくれるんでしょ?」


 くれるんでしょって、もし彼女が持ってたとしてもお前の物じゃないだろ。何さも当たり前のように言ってんだ、こいつ。

 アデリシアさんの近くに居た他のメンバーも身をすくめて様子を伺っていた。更に見ず知らずのプレイヤーも、今から何が起こるのかと興味津々で足を止めている。


『なんでこんな人の多いところに呼び出したりしたんだよ』


 これじゃ見せしめじゃん。

 暁をよく思っていないプレイヤーは既に多い。周りからはちらほらと「暁だぜ」「消えろよ屑」という囁き声が聞えてきていた。


『大々的にやるって言っただろ。まぁ心配するな』


 ドヤ顔のフェンリルを信じて、俺は傍観することに決めた。何かあったらちゃんとアデリシアさんを守ってやらないとな。


「あ、あの。レシピの前に、これ受け取ってください」


 アデリシアさんがそう言うと、彼女の手には俺の知らないアイテムがいくつか握られていた。


「は? それ、俺が今まであげたヤツだよね。返すって事?」


 ルシファーの問いにアデリシアさんは頷いた。ってことは、課金アイテムか。

 他のメンバーも続々とアイテムを取り出す。それを暁の幹部連中へと無理やり手渡していった。


「ちょ、おまえらまさか皆で一斉に抜けるなんて言うんじゃないだろうな?」

「おい何勝手にギルド抜けてんだよっ。勝手な事して済むと思ってんのか、あぁ?」


 脅すように語気を荒げる幹部に、その場にいた脱退希望者が身を寄せ合う。

 周囲の野次馬は静かに、そして見て見ぬ振りをしている。

 皆暁と関わりたくないからか――でもこれじゃー……。


 幹部の一人が怯えるメンバーに詰め寄り、その手を取って拳を突き上げた。

 それが振り下ろされるより前に俺は動く。


 見たくない。

 こんな連中の暴挙なんて、俺は――


 今まさに殴られそうな彼の頭上にたてを突き出す。拳はその盾に振り下ろされ、殴ろうとした男の手を痛める結果になった。

 

「いい加減にしろ! なんでゲームの中だってのに、本人の自由に遊ばせてやらないんだよ!」


 語気を荒げていうが、俺の言葉を聞いて奴等は顔を歪めて笑いだす。


「は? 遊びだって? あんた、これを遊びだと思ってんの?」

「遊びな訳ないだろ。これは真剣勝負なんだよ。お前等全員敵なんだぜ?」


 ルシファーも、周辺の幹部メンバーも狂気に満ちた顔で笑い出す。

 こいつら、なんかやばそうだ……。


 幹部数人が俺に方に寄ってくる。俺は反射的に盾を構えて出方を待つ。

 相手のレベルは40だ。対する俺のレベルは31になったばかり……。対人戦で勝てるはずが無い。

 だからって今更引き下がれないし、引き下がりたくも無い。

 こんな奴らに負けたくないっ。


 そう思ったとき、ふいに俺の前を塞ぐ人物が現れた。


「あぁ? じゃー俺もてめーらの敵って事で、いいんだよなぁ?」


 そう言って現れたのは――

 黒髪と赤い目のヒューマン。

 重厚そうな銀色の鎧に蒼いマントを付け、まるで騎士のような出で立ちの――


「カインさん!?」


 ギルド【終わりなき探求者】ギルドマスターのカイン・シュバイツァーその人だった。






「なんで探求者が出てくるんだよっ」


 さっきまで威圧的だった暁の幹部が一斉にたじろぐ。

 更に――


「あーん、この子はねー。私のギルドに入ったのよぉ。ねぇ暁さん、文句、無いわよねぇ」


 真っ赤な髪をした狐耳の女性獣人が現れる。尻尾な何故か九本あって、完全に妖狐にしか見えない。

 妖艶な彼女は顔を赤らめた脱退希望の数人を手繰り寄せ、その尻尾に撒きつけてく。


「なっ。【月光の夜】のギルドマスター!?」


 幹部の驚き様からすると、やっぱり大手ギルドの人だろうか……。


「んで、こっちがー、俺ら【緑陽騎士団】に今入ったばかりのピチピチ新人君だ」


 陽気な声で新たに登場したのは、緑色の鎧を着たヒューマンの男だ。彼は、怯える暁脱退希望者の前に立ちはだかり、まるで彼らを守っているようにも見える。


「すげっ。【SESO】三大大手ギルドの登場だぞ。どうなってんだ?」

「暁とやりあうのか?」

「だったら俺も野次馬根性で参加するぜ。暁は前ゲーから嫌いだったしさ」


 そんな声が聞こえてくる。

 つまり、暁を抜けようとする、いや、もう脱退した彼らを受け入れたのが、このゲーム最大手ギルドたち?

 何故そういう事に?


 フェンリルを見ると、彼女はドヤ顔でこう言った。


『カインに話を持ちかけたらな、いつの間にかこうなった』


 いつの間にって……まぁカインさんの顔がそれだけ広いって事だよな。

 そのカインさんとも知り合いで、なのに何故あの人のギルドには入ってないんだろう?

 お面どうこうで喧嘩しただけとは思えないけど……。

 





 結局暁のギルドマスター『堕天使・ルシファー』は、ぞろぞろ出てきた大手ギルドのギルマス幹部らに気圧され、更に周辺の一般プレイヤーからの野次にもあって逃げ帰る事になった。


「なんか随分逃げ腰早かったな……」


 野次馬を避け移動しながら俺が呟くと、近くにいた【緑陽騎士団】のギルドマスターが教えてくれた。


「俺たちのギルド三つと暁と、同じゲームで顔を突き合わせてたことあるんだよ。大抵のゲームにはギルド対抗戦みたいなコンテンツあってさ。暁には一度も負けたことが無いっていうね」

「そうだよー。暁ってねー、課金アイテムに物言わせてる連中だから、実はPSプレイヤースキルは並かそれ以下なのも多いんだー」


 モグモグ氏も加わって暁のへたれさをいそいそ教えてくれる。


「装備が揃わない同レベルの一般プレイヤーだと、装備性能でやっぱ負けちまうんだけど」

「装備が半分ぐらい揃っちゃえば、そこそこ上手い人なら暁なんて怖くないんだよねー」

「暁の悪口ー? そうねー、まぁ何人か上手い人もいるけど、大部分は雑魚だものね〜」


 随分な言われ様だな……。

 まぁお陰でアデリシアさんたちも無事に脱退できたし。

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