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『Second Earth Synchronize Online』  作者: 夢・風魔
第2エリア『予兆』
34/95

2-12:牲蜷のマッドドラゴンシェル

 アデリシアさんの件は一旦保留にして、上流に進めば進むほどモンスターとの戦闘回数も増えてくる。お陰でレベルが一つ上がってラッキー。

 にしても、川には未だに水の気配が無い。


「どこかでビーバーがダムでも作ってるとか?」

「え、ビーバーって、この世界にも居るのか?」

「さぁ?」


 さぁって、言い出したのはお前だろとフェンリルに突っ込んだ辺りで、ごぉっという音が耳に入る。

 音は上流から聞こえてきた。


「水の音? 滝っぽい感じだが」

「行けば解るニャ」


 それもそうだ。

 俺を先頭にして先を急ぐ。

 生い茂る木々が途切れ、遂に拓けた場所までやってきた。

 そこにあったのは、滝ではなく湖。大きさはグランド二個分ほどで、あまり大きくは無い。

 ごぉっという音は、湖の中心の渦だろう。まるでその下に栓でもあって、その栓が開いて渦巻いてるような、そんな感じだ。


「あっ、紫色のお花。ありましたーっ」


 嬉々としたアデリシアさんの声が響く。

 ほぼそれと同時に地鳴りがした。

 アデリシアさんが悲鳴をあげ座り込み、百花さんがわざとらしく俺の首に腕を回し縋りつく。その手にミケが噛み付き、フェンリルは呪文の詠唱に入った。

 支援魔法が全て整うころには揺れも収まり、代わりに湖の上には黒い影が現れる。そこはまさに渦巻いていた場所だ。


 長く蠢く体には鱗も無ければ毛も無い。ぬるぬるしたような皮膚の先、というか根元には大きな巻貝があった。

 やどかり? いや、見た目は完全にミミズだ。ミミズが貝を背負っている、というのが正解だろうか。


「いややぁ〜、気持ち悪い〜」

「ちょ、抱きつくのやめろってっ」

「百花! 戦闘中だってのに、邪魔ニャ!」

「あらぁ、まだ戦闘始まってないしー」

「始まるから、君たちいい加減シャキっとしろっ!」


 フェンリルが叫ぶと、敵の戦闘がはじまる。

 ってか、湖の上に居る敵に、どうやって攻撃しろと?


 まずは敵の情報を――



-----------------------------------------------------------------------


 モンスター名:牲蜷のマッドドラゴンシェル

    レベル:33

     種族:ドラゴン亜種

     属性:土

     備考:水の豊富な地中に住むドラゴンの亜種。


-----------------------------------------------------------------------


「ちょ、こいつがドラゴン!? ミミズの間違いだろ?」


 この言葉が気に障ったのか、牙を剥いて奴が吼える。

 あー、うん。ミミズじゃないね。ミミズにあんな立派な、普通の口なんて無いし、まして吼えたりしないわな。


 奴が尾(?)の部分にある貝を持ち上げそのまま湖に叩き付けると、そのまま波になって俺たちを襲う。

 流石に距離があるからか、波の威力で流されることは無かった。ただ、濡れた事で体が重くなる。ダメージが無い所を見ると、ただのエフェクト効果か?

 しかし奴が動こうとしないので、こっちも攻撃が出来ない。

 正確には俺とミケが――か。


「ほなら釣るから、ヘイトとってなー」

「頼む」


 百花さんが火魔法を一発お見舞いする。属性相性がいいはず――なのにダメージが二桁しか出ていない。

 さすが低火力ソーサラー。


「えー、幾らなんでもダメージ低すぎやろ?」


 さすがって程でもなかったのか。

 まさか、水の中にいるからダメージが通らない……なんて言わないよな?

 それでもヘイトは稼げた訳で、マッドドラゴンシェルが百花さんに向って攻撃を開始する。もちろん、その場で――


「ってこいつ遠距離かよ! 百花さん、下がって!」

「いやぁ〜ん」


 緊張感の無い声が遠ざかる。すると奴の方が前進しはじめた。


「よし、もうちょい、もうちょい……」


 水から上がればこっちの物だ。タイミングを合わせて『挑発』しようと待ち構える。隣ではミケも短剣二本を握り締めて仁王立ちだ。

 俺とミケは岸で待ち構えていた。

 あと一メートル……奴が岸に上がる。

 よし、今だっ!

 そう思って叫ぼうとした瞬間、奴が踵を返して元の位置に戻っていってしまった。


「ぬあーっ。なんで引き返すんだよ!」

「あー、リセットしやがった……」

「リセット?」


 フェンリルの方を振り向いて首を傾げる。MMO専門用語か。


「モンスターってのは出現位置から一定距離を離れると、元の場所に戻るシステムになってる。その際、それまで溜めたヘイトも食らったダメージも、全部リセットしてフルパワーに戻る」


 ……。それ、戦闘中にやられると凄い凹む仕様なんだが。

 って、まさか岸に上がる距離がリセットポイントなのか?

 前衛職、詰んだ。


「仕方ない。かなり危険だが、後衛三人でタゲ回しするぞ」

「えー、難しいなぁ。うちそれ苦手やねん」

「え? え?」


 百花さんはタゲ回しって物を理解しているみたいだけど、アデリシアさんは困惑してるな。

 フェンリルが指示を出すって事で、とりあえずはやれそうだ。


 仕切りなおし。

 百花さんがもう一度タゲを取る。俺は『挑発』を封印し、タゲを取らないよう気をつけることになった。更に俺とミケは足首まで湖に入って戦うことになる。






 マッドドラゴンシェルのタゲを取った人は、奴が岸に上がらない位置をキープさせる。

 前衛の俺とミケはその位置で戦い、タゲを取らないよう注意した。尤も、俺もミケも伝説武器なのでダメージがでかく、通常攻撃だけでもダメージヘイトを取りかねない。更に後衛の三人は魔法職と言っても低火力職なので、物理のダメージヘイトを上回るのも難しいかった。


「こ、これ、かなり長期戦になりそうなんだけど?」

「はっはっは。奇遇だな、私も今そう思ったところだ」


 笑いながら攻撃と回復を使い分けるフェンリルだが、内心笑ってもいられない状況なんだろうな。


 こちらが攻撃そのものに苦戦している中でも、マッドドラゴンシェルは手加減なんかしてくれるはずも無く。

 開かれた口から炎が放出された。

 奴の狙いはアデリシアさんだ。


「きゃぁぁぁぁぁ」


 彼女の叫び声が聞えるが、実は俺も巻き添えを食らっている。直線攻撃だったか……。

 すぐにヒールが飛んできて、ついでに足元には聖域も張られた。これでHP全快だ。

 簡易パーティーステータスを見たが、アデリシアさんのダメージも大きくは無い。ヒール一発で回復している。


「ま、魔法攻撃でした。ビックリしたけど、そんなに痛くなかったです」


 なるほど、こっちにとっては痛い訳だ。魔法職だと魔法防御も高くなるもんなー。

 それでも予想よりダメージは低い気がする。濡れているおかげか? 奴も同じ理由からか、土属性の癖に火魔法のダメージ低いしな。


 しかし、火を何度も浴びていれば水も蒸発して乾くわけで……。そのうち百花さんとアデリシアさんの火魔法ダメージが増え始めた。

 お陰でこっちもスキル攻撃を始めることができる。


 火魔法ならアデリシアさんが得意だったな。俺も『ヒートスラッシュ』が使えるようになったし、ヘイト役が出来ない分ここで活躍しなきゃな。

 剣を引き力を込める。

 刀身がオレンジ色に輝くと、俺は勢い良くマッドドラゴンシェルに向って一閃させた。

 当たった――と思った次の瞬間、

 にゅるっという背筋に悪寒が走るような気色の悪い音を立てて、まさかの貝殻引篭もりっ!

 くそっ。なんとなく貝殻背負ってるって事で予想はしていたけど……勢いに乗った『ヒートスラッシュ』はキャンセルできず、そのまま貝殻を直撃した。

 鈍い音が響き、俺の腕に振動が返ってくる。

 ダメージは?


「ノーダメージなんて、酷いニャ!」

「ミケもか!?」


 前衛職、撃沈。

 後衛陣を振り返ると、魔法のほうは有効のようだ。アデリシアさんと百花さんが次々に魔法を詠唱し、フェンリルはダメージ二倍になる祝福魔法で援護していた。

 貝に引篭もってる今なら攻撃し放題か?


 が、俺の安易な考えは外れる。


 巻貝に空いた穴から、針のようなものが幾つも飛び出して行った。弧を描き、アデリシアさんに向って落下していく。


「きゃぁー」


 甲高い悲鳴と共に、何かが弾ける様な音が鳴る。ガラスに大粒の雨がぶつかって弾ける様なその音は、フェンリルのダメージ遮断魔法だ。

 途中でパリンと割れたような音に変わると、その後はアデリシアさんの苦痛に叫ぶ声に変わった。


「一発でシールドが崩れるなんて……連続で食らってたらひとたまりもないぞ」


 愚痴るフェンリルがすぐさまアデリシアさんを回復する。ダメージ遮断のお陰で、結果的にはそれほどHPは減らしていない。

 シールドの魔法のCTはそれほど短くも無く、味方単体スキルな為に多様できないのが難点だ――とフェンリルがさらに愚痴る。


「貝から出てくるのを待つしかないのか……」


 試しにアデリシアさんが再度の魔法攻撃を行った。今度は盾を構えて針にも備える。

 貝殻部分に火の球がヒット。

 すると、報復とばかりに穴から針が飛び出して行った。

 くることが予測された反撃に、アデリシアさんが慌てて盾を頭上に掲げて防御する。

 彼女の足元には回復の魔法陣が。


 シールド魔法が無いために、先ほどよりもダメージはでかい。それでも盾のお陰でダメージは半減しているはずだ。

 三分の一近く減ったHPも、ヒールで即座に全快した。


「うぅー、攻撃するとお返しが来ちゃいますね……」

「うん。アデリシアさんも攻撃しないで待ってて。そのうち出てくるはず……だよな?」


 そう言ってから数十秒後、ようやくマッドドラゴンシェルが頭を出す。ターゲットになっているのはアデリシアさん。と思いきやフェンリルか。ヒールヘイトでダメージ上回ったな。


 攻撃を再開したが、数秒後にはまた貝に引篭もられる。

 どうすりゃいいんだよ、こいつ。どんだけニートなんだ。

 貝に引篭もってしまえば、ダメージを与えれるのは魔法だけ。それも高威力の反撃が付いてくるし、下手に攻撃も出来やしない。

 長期戦になるか?


「嫌ニャっ。こんな何もできない戦い方なんて、私は嫌ニャー」


 荒れ狂うミケが短剣をがむしゃらに突き立てる。ダメージなんて通る訳が無いのに――が、

 がすっという音がして、貝の上にダメージ数字が浮かび上がった。


「あ! クリティカル入ったニャ! これ、クリだけは通るかもしれないニャ」

「え、そんな低確率な……」


 LUKが影響するクリティカル攻撃。通常攻撃の五割増しなダメージが出る急所攻撃みたいなヤツだけど……俺、LUK初期数字だからクリティカルなんて滅多に出ないよ……。

 とはいえ、何もしないよりはましか。

 がむしゃらに剣を振るうが、十回の通常攻撃ではクリティカルは発生しない。

 隣のミケは比較的出ているようだ。

 後ろからは何やらおどろしい魔法が飛んでくる。もちろんマッドドラゴンシェルが反撃したが、代わりの俺のクリティカルも入った。


「あいたたたぁ。今のスキルなぁ、悪運っていうのを付与するデバフなんよー。もしかしたら相手の運下げたら、ソーマんのクリティカル出るかなーおもて」

「出た出た。ミケのクリが出まくってる。効果あったよ!」


 俺のクリティカルは五回に一回程度だけど、ミケは五割ぐらいの確率で出せるようになっている。

 これで引篭もられても攻撃手段が出来たぞ。


 物理攻撃の場合には反撃してこないマッドドラゴンシェルは、引篭もれば物理攻撃で、出てきたらスキルと魔法攻撃でじわじわと削っていく。

 マッドドラゴンシェルもただ削られるのを待つだけじゃない。

 下半身を貝ごと振り回し、取り付いていた俺とミケに強烈なダメージを食らわせたかと思えば、全身を震わせて局地的な地震を起す。範囲がやたら広く、前衛後衛もろともダメージを受けた。

 忙しいのはフェンリルだ。

 前衛組みの俺、ミケはまとめて範囲型の回復魔法陣に収まるが、後衛の二人とフェンリル自身は離れているので範囲に収まらない。彼女のヒールは単体に有効な者と複数人指定のものとがあるようだ。後者は回復量が少ないので、追加ヒールが必ず必要になってくる。

 バフスキルの効果時間を切らさないように、合間を見て掛けなおしもしていた。

 ヒールに関してはアデリシアさんのHPが少なく、打たれ弱い職業なのでかなりギリギリ間に合ってる感もあるな。


「私たちが全力出せればいいんニャけど……タゲ取ったらまた届かない所まで行っちゃうし」

「あーん、ソーサラーの火力は低いんよー。堪忍したってー」

「いや、まぁそこは仕方無い訳だし」


 片手杖の攻撃力は高くない。同じ火魔法でも両手と片手だったら雲泥の差だよな。以前のアデリシアさんを見てるだけにそう思った。

 そのアデリシアさんがもごもごと喋る。


「あの、あの……その、両手、杖……持ってるんですけど……」


 言った途端、


「ちょ、持ってるなら火力ぶっぱしてほしいニャ!」

「アデリシアちゃん、両手持ってはるん?」


 と二人が叫ぶ。気持ちは解る。俺も叫びたい。

 今まで片手杖だったのは――本人の意思?


「えっと、ギルドの人に、ソーサラースキルを早く増やせって言われてて、その、両手は持っちゃダメだって……」


 ダメって……。そんなの他人に指図されるなんて、可笑しいだろ。

 けど、それでも今、両手杖を持っているって事は、アデリシアさんはソーサラーよりウィザードになりたかった、もしくはそっち系統に行きたかったって事か?


「君と今パーティー組んでるのは、暁のメンバーかね?」

「っというか、アデリシアさんの好きな武器で戦えばいいんだよ」


 フェンリルが言い、俺が彼女を促せる。

 その間もマッドドラゴンシェルの攻撃は続いていた。


『キシャアァァァァァッ』


 貝が光り、突然全身を震わせたかと思うと、足元の土が盛り上がり、小さな礫が飛び出す。

 咄嗟に盾でガードしたものの、魔法攻撃はほとんど防げない。食らったダメージは……、


「くそっ、HP三割持って行かれたぞっ!」

「ニャ。半分減ったニャよっ! もう一発食らったらお仕舞いニャ」

「後ろ、大丈夫かよっ!」


 一番HPのでかい俺で三割削られたとなると、後衛は――


「前、残りは自前でなんとかしてっ!」


 必死に叫ぶフェンリルが、俺たちの足元に範囲回復の『聖域』を展開。直ぐに指定してヒールを掛け、その後アデリシアさんに単体ヒール、百花さんに持続性ヒール、CTが開けた単体ヒールを自分に施す。

 その間にもマッドドラゴンシェルの攻撃は続いた。

 回復させたばかりのアデリシアさんのHPが、再びレッドゾーンに突入。

 フェンリルが駆け寄り、足元に『聖域』を展開させた。


「まずい。このままじゃ回復が追いつかなくなる。ミケ、俺とお前でなんとかタイミング合わせてタゲ回しできないか? 奴が湖の方に逃げる前に――」

「無理に決まってるニャ!」


 俺の心に焦りが生まれたとき、

 背後から膨大な量の『魔力を感じた』。

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