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『Second Earth Synchronize Online』  作者: 夢・風魔
第1エリア『初心』
3/95

1-3:勘違いの強さ

 握る剣から熱が伝わってくる。

 ……あっちぃっ! ……くない?

 思わず剣を見てみると、刃がオレンジ色に光っているのが解った。

 が、それもすぐに元に戻ってしまう。


「おいおい、消えるなよっ」


 そう言ったものの、刃の光は完全に消え、ただの剣に戻ってしまった。

 今の、絶対何かの技だよな……。見ないでそのまま振ればよかった。


 後悔するのも束の間。

 モヒカンスタイルになったズモモが、糸のような腕を振り回して攻撃してくる。

 さすがにあれは痛くないだろう。

 そう思って盾も構えず奴に突っ込む。


「ぶはぁっ!」


 なんでこんな糸が痛いんだよっ!

 ダメージ148。って、二発も受けられないじゃねーかっ。

 くそぉー、気合、もう一度気合だっ!


「ぼ、冒険者さん。あー、そこの冒険者さんも助けてください」

「だ、大丈夫! 荷馬車は俺が守りますから」


 うろたえるおじさんに、俺は安心するように促す。

 俺は大丈夫だ。なんせ気合さえあれば勝てるゲームなんだから。


「さぁ、来いっ!」


 気合を入れると、再び俺の体が光ってHPも回復した。

 ほら見ろ。やっぱり気合なんだよ。ちょっと変わったシステムだけど、VRMMOは初めてだし、こんな物なのかもしれない。


 再びズモモの腕が振り回される。

 が、俺の体に触れる直前、今度は金属音を立てて奴の腕が弾かれた。

 おぉ、シールドか。いつの間にこんな魔法を習得したんだ、俺は。

 実は俺って勇者の素質あったりして?


 まぁ冗談は置いといて、こちらも反撃しないとな。

 さぁ、行くぞっ!


 剣をしっかり握って、奴目掛けて一閃させる。

 直前で鈴の音のようなのが聞えたが、音の原因を確認している余裕は無い。

 俺が奴に与えたダメージが55。

 そうか、こいつはつまり、この辺のボスだ。うん。だから強いんだ。俺が弱い訳じゃない。そういう事にしておこう。


 しかし、奴のHPバーを見ると、ほとんど微動だにしてないっていうね。


「くそぉー、俺の人助けを邪魔する悪魔めっ! 絶対倒してやる!」


 叫んで一歩引き、勢いを付けて剣を横一閃。鈴の音が聞こえ、同時に『ピコン』という電子音も鳴った。


『ズモギャーッ』


 お、これは痛かったようだ。

 ダメージ156!

 奴のHPバーが減り、三パーセントぐらいは下がったかもしれない。

 積み重ねが大事。繰り返せば確実に仕留められる。

 よし、勝機が見えてきたぞ。


 だがズモモも黙ってはいない。

 真っ黒だった円らな瞳が真っ赤に光ると、体を丸め、初めに見た転がり攻撃を仕掛けてきた。

 盾で受け止めるか?

 いや、さっきの二の舞になるだけかもしれない。

 どうする?

 

 目前に迫ったズモモを、どうするかと考え抜いた挙句、


「とやぁーっ!」


 俺は避けた。

 右にスライディングして、ギリギリの所で攻撃を避けた。

 ふぅ。このゲームは移動回避も出来るのか。コンシューマーだとこういうのはシステムとして少ないタイプなんだよな。 

 悠長に考えている間に、ズモモが旋回して戻ってきてしまった。

 またしても俺の体の上を転がるズモモ。

 パキンッという、まるでガラスが割れるような音がしただけで、ダメージは受けなかった。

 シールドが切れたみたいだな。


 急いで立ち上がり、回転を止めたズモモに詰め寄る。

 剣を一閃させ、先ほどみたいな強烈な一撃を浴びせた。


『ズモギャーッ!』


 効果あり。

 ん? ダメージがさっきより低い。というか半分?

 そういえば、今回は鈴の音がしなかったな。


 攻防を続ける事……十分ぐらいだろうか?

 ボロボロになりながらも、辛くも俺は勝利した。


 断末魔の叫びと共に煙になっていく『怒れる大地のズモモ』。

 名前だけは立派だった。

 四散した煙の後には、大きな宝箱が出現。


「おおっ! なんだよ、ドロップもあるじゃないか」


 もしかしてボスモンスターからしかドロップが無いとか?

 まぁレアが手に入るならなんでもいいよ。


「やぁ、無事にズモモを倒せたんだねー。よかったよかった」

「いやー、ちょっと油断してたら時間かかっちゃって、すみません」


 すみません、嘘です。油断はおろか手加減すらしていません。全力で挑んでこの結果です。

 まぁ倒せたんだから、結果オーライだろう。


 どうせこの宝箱もNPCのおじさんには見えてないんだろうし、早く拾ってしまおう。


「おじさん、ちょっと待っててくださいね」


 そう言って俺は箱を回収しに向う。

 でもこんな大きい箱、どうやって鞄に入れるか……。

 触れると勝手に箱が開き、インベントリの小さいバージョンみたいなのが現れる。

 なるほど、中身だけタップしてインベントリに入れろ的なのかな。

 やったっ。装備がある!

 武器じゃないのは残念だけど、えーっと――

 タップするとついでにアイテム説明も出るな。


『大地のローブ』


 魔法使い系装備か。いらねっ。売れるかもしれないから一応取っておく。


『大地のブーツ』


 全職業向けだな。防御力が高いし地属性の耐性が付いてるとか書いてある。これは履いておこう。

 ……装備レベルが足りないというメッセージが出た。確認したらレベル7装備だった。

 今の戦闘でレベルアップしたが、まだ5だしなぁ。

 

 次、『大地のハンマー』……武器、なのか?

 装備レベルも書いてないし攻撃力の表示も無い。うーん、不明アイテムだ。でも取っておこう。いつか何かに使えるかもしれないし。


 他にはよく解らないアイテムがいくつかと、銀貨一〇〇枚があった。

 全部タップして回収終了。


 急いで荷馬車に戻って、再び俺たちは北上して町を目指す。

 荷馬車が動き始めた時、近くの木の陰に人影を見た。

 銀髪のロン毛、でも服装からすると男みたいだな。特に目を引くのが顔。というかお面。鬼みたいな角が二本付いたお面を付け、素顔はまったくわからない。

 俺と視線(?)が合うと、慌てて木の陰に隠れてしまった。

 もしかして、ボスを狙ってやってきたプレイヤーだろうか?

 それなら悪い事をしたかもしれない。

 俺が仕留めてしまったからな。






 町までの道中、おじさんにいろいろと町の情報を教えて貰った。


「あの町は、まだ駆け出しの冒険者が旅の拠点にしている所だよ。数ヶ月前は賑やかだったんだけどねー、急に冒険者の姿が消えちまって――」


 俺たちプレイヤーって、この世界では冒険者って呼ばれてるのか。まぁ無難な設定だな。

 それにしても数ヶ月間、冒険者の姿が消えたって、どういう事だろうな?


「突然また冒険者がやってきて、わしらも驚いてるが……それ以前に嬉しいよ」

「え、嬉しいって?」


 おじさんは満面の笑みで答えた。


「そりゃー、あんたらはモンスターと戦う特別な力を持ってるし、好きで退治してくれてるからこっちは大助かりなのさ」


 特別な力……気合かっ!

 いや、気合ぐらいならNPCにだって――プログラムに気合なんてあるわけ無いか。

 

 ふーん、プレイヤーはそういう位置として、このSecond Earthに存在しているっていう設定なんだな。

 でもまぁ、好きでモンスター退治っていうのも……いや、でも違ってもいないか。倒さなきゃレベル上げられないし、レベル上げたいから戦う訳だし。


 おじさんとの話しが弾む中、俺は【ファーイースト】という町に到着した。

 駆け出しプレイヤーが拠点とする町。

 町は俺の身長ほどの(ゲーム内でのな)壁で囲まれ、出入りする門には兵士が駐在していた。

 といっても、通行人を調べたりととかはしてないみたいだ。

 見知った顔なのか、おじさんと門番が言葉を交している。

 あのズモモ討伐を話しているみたいだ。

 俺を見た門番が驚き、賛辞を送ってくれた。


「いやー、当然な事をしたまでですよ。困っている人がいれば助ける。それが俺の、冒険者としての行動理念ですから」


 決まった。

 今のは上手く決まった。

 おじさんも門番も拍手を送ってくれている。

 気が付けば、周囲のプレイヤーらしき装備に身を包んだ人達も手を叩いていた。


 荷馬車の上で、俺はちょっとした見世物状態だ。

 恥ずかしくなっておじさんを市場の方へと促す。

 すぐに荷馬車は動き出し、ゆっくりと門から遠ざかって行った。


 目的地に到着し、俺の初仕事が終わる。

 ほっと胸を撫で下ろす俺に、おじさんがやってきてある物を手渡してきた。


「やー、君のその剣ねー。さっきの戦闘でボロボロだろう。初心者が使う物みたいだし、新しい物に変えたほうが良いよ。よかったらこれを使ってくれ」

「剣……あ、でもおじさんのじゃ?」


 農夫が剣を扱えるのか妖しい所だけど、別に買いに行った様子もないし、持っていたものだろう。気づかなかったけど。


「まぁその、君が頼りなかったからね……こっそり持ってきていたんだ。でも見てのとおりわしは農夫だからね、扱いも上手くない。いっそ短剣のほうがまだ扱いやすいぐらいだ」


 そういって俺の前に剣を差し出してきた。

 鞘に収まった剣は、飾り気もなく質素なものだ。でも俺が持つ剣よりは、幾分マシに見える。


「あのズモモを倒してくれたお礼だ。あいつも暫くすればまた復活してしまうが、その時は是非またお願いするよ」

「あはは、なるほど。前金みたいなものですか」


 ボスモンスターは復活するのか。その辺はコンシューマーとは違うんだな。

 でも、そういう事なら喜んで貰っておこう。次に奴がまた出てきたら……他のプレイヤーが狙ってないなら掃除してやるか。


 おじさんの手から剣を受け取ると、視界に『ショートソードを獲得しました』という吹き出しメッセージが出てきた。

 武器を確認すると、装備レベル5と俺に最適な武器なのが解った。

 攻撃力も格段に上がる。


 お礼だとばかりにおじさんがお金を差し出してきたが、それは丁重に断った。

 ズモモから得たお金もあるし、剣だって貰ってある。その上お金までは貰えない。

 ひつこく食い下がられても困るので、さっさと市場から離れて町の中心へと向った。


 実は俺にはある懸念があったのだ。

 ズモモを倒して見つけた宝箱。

 ふと思い返してみると、他の雑魚モンスターのときにも木箱みたいなものがあったような気がした。

 その木箱は掌サイズと小さなものだったし、まさかドロップ品が入っているとは思わなかったからずっとスルーしていたんだ。

 もしドロップが入った箱だったら……


 俺は来た道を引き返し、箱を確認する事にした。


 門を出て林の奥までやって来たが、木箱が見つからない。

 ズモモとの戦闘後も、何度か雑魚戦闘をやったはずなのに……。

 もしかして他のプレイヤーに拾われたかな? それならまぁ、仕方ないな。気づかなかった俺が悪いんだし。ちょっと泣けるけど、諦めよう。

 今度からは木箱の存在を忘れないぞっと。


 気を取り直して踵を返した俺の視線に、一人の少女と数匹の犬が飛び込んでくる。

 林を横断するように走っていた彼女は、突然俺のほうに向って方向転換してきた。


「あぁっ! に、にげてぇ〜」


 いや、逃げてと言われても……むしろ俺はそっちに行きたい訳で……。

 って、追われているのかっ!


『バウバウッ』


 派手なピンク色の髪から長い耳を出し、必死に駆けてくるエルフの少女。その後ろから数十匹の犬? ――が追いかけてくる。

 少女のほうは両手で杖を握っているので魔法使いだってのが解った。

 丈のながーいスカート……と呼べるのか解らないほどスリットが上のほうまであり、細い足がまる見え状態。

 胸元もあらわになっているけど、年齢的な問題なのか、膨らみはほとんど存在していない。


 いやそんな事よりも、


「にーげーてーっ!」


 だったら何故こっちに逃げてくるんだよっ!

 逃げてと言われたって……あ、女の子がこけた。

 …………。

 っだぁー!

 助けないわけにも行かないだろ!

 だって俺は勇者を以下略。


 俺は盾を前方に構えて、今まさに彼女を襲おうとしている犬に向って突進した。

 この時、『ピコン』という電子音が聞えてきたけれども、今はそれどころじゃない。


「おおおぉぉぉぉぉぉっ!」

『ギャヒンッ』


 正面から盾を食らった犬が僅かに吹っ飛び、その場で蹲った。どうやら目を回したみたいだな。

 もしかして、これって盾スキルとか? そういえばさっきの音――、いや確認してる余裕は無いか。

 俺とこけたエルフの女の子を取り巻く犬の数は、十匹。一匹は目を回しているが、それだっていつ回復するか解らない。

 なんとか彼女を狙っている犬の注意をこっちに向けられたら……。


「糞犬どもっ! こっち向きやがれ!!」


 ――ピコン。

 叫んだところで犬程度の知能が反応するわけ無いよな。

 ――と思ったら、犬が一斉に俺のほうを向いた!?


『バウウウウウウゥゥッ』

『グルルルルルッ』


 黒っぽい毛並みに真っ赤な瞳の犬が、俺だけを凝視している。

 犬というよりサイズ的には狼って感じか。

 どっちにしても、なかなか……怖いな。


 気合入れて挑発したのはいいけど、この数、どうするんだ俺……。

お読み頂きありがとうございます。

次の更新は明日になります。

ご意見ご感想ありましたが、是非よろしくお願いします。

あ、もちろんブクマ評価とかあったら――ん? 誰か来た様だ?

誰だこんな夜更けに――あーっ何をするーっ!?

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