2-1:ランキング
これより第二章の始まりです。
今日は【Second Earth of Synchronize Online】の定期メンテナンス。
明日で正式サービス開始して一週間か。まだ一週間だってのに、結構長いこと遊んでいる気がする。
そのあたりはやっぱり時間の流れが現実と、ゲーム内とで違うからってのがあるんだろうな。お陰で時差ぼけ気味でもある。
そして今日は一つ、楽しみな事があった。
定期メンテ毎にリセットされる生産ランキング。今朝のメンテ前までのポイントがリセットされるが、直前までのポイントでこれから一週間のランカーが発表される訳だ。
オリベ兄弟が五〇位内に入っていればランキングに名前が載る。まぁトップテン以下はボーナスが何も付かないけど、名前が載ることに意義があるわけで。
公式ページでもランキングは発表されるけど、今日のメンテからは各町の工房前に掲示板が立つらしく、そこにランキングが貼り出されると告知があったし、せっかくなのでゲーム内で見よう。
メンテ終了時間、一五時ジャストにヘッドギアの電源を入れる。
映像が現れ、そして眠くなった……おやすみ、俺。
ログインしたのは今朝まで居た【メルビス】の町。倉庫前だったので、急いで工房へと駆け出す。
即効! と思ったのに、掲示板の前には既に人だかりが居た。
くそっ。身長一八九センチ設定なのに、俺よりデカい奴がいっぱいいやがる! 二メートルにしておくんだった。
「あのー、すみませんーん! 誰か鍛冶ランキングを読み上げてくれませんかー?」
ダメ元で叫んでみると、意外な事に何人もが応えてくれた。
「上から読むぞー。一位モグモグ、二位バトルホーク、三位明鏡止水。この三人は前回と同じだな」
「よーん、カゲロウ・オリベ。ごー、パラドック・スタイニー。ろくー、ブランディッシュ・スクウェア。ななー、フィン・オリベ――」
え?
オリベ兄弟?
「四位と七位って同じオリベだけど兄弟とか? ってか誰こいつら」
「暁のランカーが軒並み消えてるのって、やっぱアレが原因だろうな」
「垢凍結されてるんだろ? ざまー」
え。
行き成り二人ともランカー?
いや、モグモグ氏から大量の鉱石を加工してたけども……フェンリルもバカみたいに数千個の鉄鉱石渡してたけども。
すげー、すげーよ二人とも!
「くぅー、カゲロウもフィンも、すっげー!!」
我が事の様に嬉しくなって叫んでしまった。
一瞬の内にその場にいた全員が注目する。ヤベ、ちょっと恥ずかしい。勇者ってこんな気分なのか?
だがそうじゃなかった。
「ちょ、お前オリベってのと知り合いなのか?」
「どこのギルド所属なんだよ? え、未所属? マジで?」
「な、なぁ、この二人って製造請負とかしてねーの? 紹介してくれよ」
俺人気者。でも本当はカゲロウとフィンが人気者なだけで……。
けど二人に注目するプレイヤーがいるっていうのは嬉しいものだ。そしてつい口が滑ってしまう。
「そうそう、俺知り合い。フレ登録もしてるぜ。この間、パーティー組んで鉱山いったら、そこでレアレシピやレアハンマー出たんだー。他にも緊急メンテ開けとかに――」
緊急メンテ開けは良かった。
予定より三時間早くログインできるようになってて、さっそくログインしてたオリベ兄弟と暇だからって外部支援してくれたフェンリルとでぶらぶらしてると、ネームドモンスターと遭遇しまくり。
後からミケも加わったけど、格下含めて五匹のネームドモンスターを倒せた。
戦利品はレア素材と伝説素材が結構貯まって、装備はレア両手斧にレア弓。あとレアな金型か。
レア祭りキターと思ってたが、ゲーム内で一日も経つとピタっと止まってしまった。
まぁこの辺はレア自慢になるので口を閉じていよう。
が、レアレシピとハンマーのくだりで手遅れだったかもしれない。
一斉に目の色を変える野次馬達。
「レアレシピって、おい! 何持ってるんだよ!」
「ぼ、防具……」
「マジか! 素材は?」
「いや、俺じゃないから知らないよ」
「頼む! 聞いてくれ! 金払うから!!」
「え、いや、その……」
レシピの内容は後日公開するってカゲロウは言っていた。公式サイトの掲示板に書き込むんだとか。その点についてはモグモグ氏とも相談して決めたみたいだ。
ちなみに既にレベル23から装備できる勇猛シリーズの防具は、全身揃って今俺が身に付けている。フィンも色違いだ。ミケとカゲロウが同じ勇猛シリーズの軽装で揃えていた。
詰め寄られ、息苦しくなってきた所でオリベ兄弟がやって来た。
ダメだ。今来るのは自殺行為だぞ!
といっても、既にここに居る訳で――
「ど、どうしたのソーマ。モテモテだね」
「そっちの趣味があったなんて、俺、知らなかったぜ」
「ちがっ」
逃げろ――というよりも先に二人が取り囲まれてしまった。もうダメだ……。
「なっ、レア防具作ってくれよ。いや、その前に素材内容教えてくれよ! 金なら払う。手持ち30Gだけど、足りないか?」
「俺は100払うぞ!」
「じゃー110」
まるでオークションだ。段々と釣りあがってくる金額に、カゲロウが「わんっ!」と一声吼えて止めた。
「レシピの素材内容は、もう公式サイトの掲示板に書き込んできてますからっ。知りたいなら確認してください。防具作るのに材料ってのが二パターンあるんです。素材があれば作りますから。あ、もちろん時間があればですけどね」
「失敗しても泣くなよー。成功率結構絞られてるからなー」
カゲロウを助けるようにフィンが継ぎ足す。その横で、俺はささやきチャットを使って『余計な事いってゴメン』と伝えた。
『from.カゲロウ・オリベ:いいですよー。というかまさか四位だったとは……。でも加工や製造依頼が増えれば、ランキングにまた残れるかもしれないし、嬉しい悲鳴ってことで』
『to.カゲロウ・オリベ:マジでごめんなー。お詫びに加工素材拾ってくるよ。どうせ今のままじゃ狩りいけそうにないし』
カゲロウもフィンも、次々に依頼を受けている。
「ランカーになった途端、製造依頼が殺到するものなのか……」
呟いた俺の言葉に、近くにいた見知らぬプレイヤー達が応えてくれた。
「他の上位ランカーは皆、大手ギルド所属の専属プレイヤーなんだよ。そういった人はあまり請け負い製造はやってないし、やってても高額な依頼料を取られるんだ」
「そうそう。レベル上げもしつつ製造もしつつだからね、自分の都合が付く時間にギルメン分の製造して、あとは加工でポイント稼いで、出来上がった素材を委託露店で売る。その方が儲かるしね」
素材加工を頼む場合、材料と依頼料を払うだけだが、実際に露店で売ってる加工済み素材を買うよりは安く済むんだとか。
なるほど、装備の製造には素材が必要だ。その素材を露店で買うよりは加工してもらうところからやったほうが安上がりって事だな。
ランカー入りして尚、大手ギルドには所属しない二人なら、請負もしてくれるだろうし、安くやってくれるんじゃないかという期待で集まってきてるんだな……。
「依頼料は持ち込み素材の二パーセントでいいってよ!」
「マジかよ!? 俺、オリベ兄弟のファンになるぜ」
「俺も!」
「俺もだっ」
おい、ファンが付いたぞ。
しかもヤローばっかだ。
よかったなフィン。もてもてになって。
オリベ兄弟のもてっぷりを横目に、やる事がない俺は、彼らのファンになるべく鉱石の収集でもしようかと考えた。
緊急メンテからこっち、『祝福の珠』を使ったレベリングをやってもう直ぐレベル29。ソロでも鉱山行けるかな?
秘密の横穴を使えば、ボス部屋まで直通だし、あそこの無限採取場使えば鉱石なんてあっという間だ。
そうと決まれば準備だ。
――とその時、キンコーンという電子音が鳴る。なんだろうと思ったら、吹き出しに『ミケ・ミケさんがログインしました』と出ていた。
あの音、今回のメンテで追加された機能なのか? フレンド人数多くなると五月蝿そうだ。
けど、さっそくミケを誘ってみよう。
『to.ミケ・ミケ:鉱山行って見ないか? 双子がランカーになってて鉱石貢んだ』
『from.ミケ・ミケ:公式でみたー。もうビックリニャ。貢ってw 私も貢ごうw』
こうして俺とミケはオリベ兄弟を残して鉱山へと向う事にした。
ミケから「新しい機能追加されてるニャー」と教えられ、町の中央へ。人だかりが出来ていたので、新機能とやらの場所はすぐに解った。
そこには大きなドーナツ型の円盤がオブジェとして置かれていた。
「これ、各ダンジョンへの瞬間移動用装置ニャ。一度行った事のあるダンジョンなら、次からはこれで移動できるニャ」
「ほー、そりゃいいねー。鉱山まで歩くと二時間以上かかってたし、便利じゃん」
「まぁ、二時間かけて狩場まで行かなきゃいけなかった今までがおかしかったのニャ」
そうなのか。俺は他ゲーの事を知らないから、素直に驚くだけだな。
このオブジェに触れると、行った事のあるダンジョン一覧が出てくる。鉱山ダンジョン以外だと、昨日行った湖底ダンジョンしか知らないので、表示されるのは二つだ。
鉱山のところをタップすると「100Sを支払いますか?」と出てきた。
「金取られるぞ!?」
ミケにそう叫んだが、彼女は既に居なかった。もう鉱山に行ってしまったのか……。仕方ないので100S払う。
すると一瞬の内にして視界が切り替わり、目の前には洞窟が口を開いていた。
「さ、行くニャ」
前回フェンリルと来た時に、レスターへの嫌がらせって事でプレイヤー、主にフェンリルが開けた穴という穴を塞いで回った。だがボス部屋のキラキラし過ぎた壁は魅力的だ。だから穴に印を付けて直通コースを作ったんだ。
土で埋まった穴を掘り起こし、向こう側に出たらまた穴を塞ぐ。印も念のためダミーをいっぱい用意していた。正解の印は俺たちしか知らない。
掘っては埋め、掘っては埋め、そして進むとボス部屋に到着。
「うーん、レベル29にもなるとここのモンスターも雑魚いな」
「ニャーね。これならソロでも余裕で行けそうニャ」
俺とミケはツルハシに持ち替え、その辺のキラキラして見える壁を掘っていく。
採取レベルも30近くなってくると、一度に拾える鉱石の数も増える。しかも鉄鉱石という最下位な鉱石はもう出てこなくなり、最低でも鉄が出てくる。
そして上位鉱石の銅鉱石や銀鉱石が出る確率も増えてくる。
ざっくざっくと楽しいほど出てくる採取ポイントに夢中になっていたが、ある事をふと思い出した。
「なぁミケ」
ツルハシを振り下ろしながら声を掛ける。少し離れた所で「ニャー」という声が聞こえた。
出来るだけ大きな声で言う。
「ネームドって、倒されてからゲーム内の十八日目に復活するんだっけ?」
「そーニャーよー」
「今日ってさ、あれから何日目だっけ?」
「んーとねー……」
ミケが振るうツルハシの音が止んだ。
俺も手を止めて指折り数えてみる。
確か月曜日の昼過ぎから鉱山に入ったから……あれ? 凄く妖しい時間帯じゃね?
『ゴフ』
そんな声のような音のようなものが聞こえて振り向くと、俺が掘った穴の向こうに太くて汚い足が見えた。
「ミ、ミケー! でたあぁぁぁっ!!」
「んなの解ってるニャ。ど、どうすんの!?」
「どうするって……」
俺、穴の入り口をホブゴブリンに塞がれちゃってるんですけど?
このままダンジョン脱出用アイテム使ってもいいけど、でもなぁー。折角目の前にネームドが居て、格下だし、倒せるんじゃないだろうか?
そんな軽い気持ちでホブゴブリンと対決。
『猛症ホブゴブリン』は相変わらず同じ名前か。肩書きみたいなのは固定されてるのか。そういえば、前回は余裕無かったし見れてなかったけど、取り巻きとして出てくるホブゴブリンの中に『勇猛な』ってのが付いてるのが居るな。
俺たちが今来ている防具って、こいつらが出したレシピなんだな。
しかし、流石レア防具だ。実際レベル28なんだから23装備なんて格下……になるはずが、普通の製造防具の27と比べてもまだ防御力は勝っている。更に各部の防具に付属されているHP補正値もかなりでかい。HP5000も余裕で超えちゃってますー。
今回はボスの攻撃もそれほど痛くない。これなら特殊攻撃だけ盾でダメージ半減させれば十分だな。
ミケは強力な範囲攻撃は無いので、毒瓶での持続ダメージ範囲とたまーにやって、ボス単体に向けて猛アタックを掛ける。
俺は範囲を入れつつ、召喚される取り巻きを『挑発』で集めミケの邪魔にならないよう位置取りを変えつつたまにボス。
こんな感じで十分後には『猛症ホブゴブリン』が倒れた。
まだ取り巻きはぞろぞろ居る。ぞろぞろいすぎて宝箱が見えない。
「ソーマ! トレインして向こうに行ってニャ」
「とれいん?」
「あーもうっ。そのまま走って向こうに!」
よく解らないが走る。もちろんぞろぞろと後ろから雑魚が付いてくる。
あ、なるほど。電車ごっこみたいなこれを、トレインっていうんだな。
上手く誘導できたので、ミケが宝箱の中身を確認しに行った。その間に俺も雑魚の殲滅を繰り返す。でも範囲攻撃少ないから、ちょっと時間掛かるんだよなー。
通常攻撃を挟みつつ、単体スキルも挟みつつ、そして俺のスキルが不発した。
――SPが、無かった。
「おいミケ! 何してんだよ。SP無くなっちまった。手伝ってくれ!」
叫べど返事は来ない。
トレインしたままミケのほうへと向う。くそ、邪魔だなこいつら。
「ミケ!」
ミケの傍まで行ってもう一度呼ぶ。
くるっと振り向いたミケの表情は、これでもかというぐらい緩かった。
1/25:オリベ兄弟の製造請負あたりのシーンを少し改稿いたしました。
二人に製造請負が集中する理由などが少しでも伝えられれば幸いです。




