間話-2
「な、なんて神々しいんだっ」
今俺とフェンリルは猛症ホブゴブリン】がいた場所にやってきている。
壁一面と言っていいほど、ここは採取ポイントで溢れかえっていた。
「落盤させる」それを実行する為に鉱山に入ったんだが、ついでだし鉱石採取もしようって事でここまでやって来た。
道中の横穴をすいすい進むフェンリルに、道を知っているのかと尋ねたら
「あー、ここの穴、ほとんど私が開けたから。印もつけてるんだ」
――お前かっ! お前がこの横穴を……。全部ベータテストの時のものらしかった。
そして到着したボス部屋で、俺たちがぽろぽろ出る鉱石に夢中になり、気づけば一時間以上掘りまくっていた。
「もう無理。インベントリに入らない。なんで生産素材は一枠一〇〇個までしかストックできないんだ」
「っていうか、巾着二つも持ってるのに入らないって、どんだけ拾ったんだよ」
「いや、採取するとは思わなかったから、アイテム整理しないまま来たんだ」
生産で製薬をやっているフェンリルは、常に草や瓶なんかを大量に持ち歩いている。倉庫もいっぱいいっぱいなんだとか。
だから常にもてる数は少ない、と。
「君、まだ余裕あるなら鉄鉱石と鉄持ってくれないか?」
「あぁ、いいよ」
アイテムの受け渡しを終え、本題の穴埋め作業に取り掛かる。
「横穴は脆いんだ。だから天井をあちこち叩けば、落盤の警告メッセージが出てくる」
「ほー、……あ、本当だ」
「そのまま叩けば土が落ちてきて穴が塞がる」
「って、それは俺たちまで生き埋めになりゃしないか?」
「警告メッセージ出るまで叩いて、その後は私が魔法で止め刺すから」
止めって……さいしょっから魔法使えばいいんじゃないか? と思ったらフェンリルは杖を装備して魔法で穴を塞いでいた。
つまり俺は別の穴を叩いて落盤寸前までもっていけって事ね。
「そういや、杖も装備できたんだなー」
「君と違って、初心者武器は全部一通り装備したからねー」
胸を抉る様な彼女の一言で、俺のHPはもうゼロだ。
くそっ、反撃だ。
「なぁ、お面はもうつけないのか?」
返事が無い。
変わりに土が崩れる音が響いた。
振り返ると、土を被ったフェンリルの姿が見えた。崩した場所が近すぎたのか。
動揺しているな。よし、止めだ。
「割れたお面、修復困難か?」
俺はニヤっと笑って見せた。
目尻をピクつかせてはいるが、綺麗な顔は見劣りしない。
「うぅ、五月蝿い! 修復は出来るんだ!」
「え、出来るのか?」
内心ちょっと残念だとも思う。治ればまたどうせお面を付けるんだろうしな。そうすれば、この顔は見れなくなるわけだ。
けど、修復出来るといいつつやってないのは、何故だ?
「じゃーなんで割れたままなんだよ」
「……が無い」
ボソリと呟くのでもう一度聞いた。
「素材がレア過ぎて手に入らないんだよっ!!」
「っぷは。もう諦めろよ」
「だが断るっ!」
フェンリルは杖を振り上げて俺の真後ろにあった穴を攻撃した。
爆風と土煙に煽られ、俺は頭から埃を被った。
「よし、塞いだ穴にこうして印を付けていけば、あの部屋までの最短ルートが完成だ」
「……印の意味がさっぱり解らないんだけど」
横穴があった場所の天井近くに、文字だったり絵だったりを書き残していた彼女が得意気にしている。
それらの意味する所を俺は理解できなかった。正解のルートへと導く繋がりが、一体何なのか。
「これがスタートだ。○△□を三つの穴にそれぞれ描いた。ひとつは正解、残りはダミー」
「うん、それで。正解は□だったよな」
彼女が頷く。
この穴の先に、今度は四つの横穴がある。わざわざダミーの穴を二つ掘った。
「次の正解は栗の絵だ。その次がリス、その後はスルメ」
「おい、待て。まさかしりとりかよ!?」
こんな子供ばましのような印で大丈夫なのか?
いやむしろしりとりだと思う奴も居ないか……。特にあのレスターなんかだと、もっと深く考えて絶対に解らないだろうな。
ま、その前に穴を塞いでしまってるし、逆にダミーの穴を幾つか開けてまったく違う方向に誘導してるのもあるから、印の存在に気づかない限りボス部屋には辿り着かないだろう。
「ふっふっふ。あとは君たちがさっさとレベルを上げれば、あの山猿は我等の物!」
「いや、物ってうか……」
「ふっふっふ。さぁ、きびきび働くのだぞ!」
「え、そういうノリなのか?」
「働けーっ。働くのだーっ!」
「ちょ、女王様モードかよ!?」
いつの間にか鞭を取り出して装備していたフェンリルに、俺は追い立てられるようにして坑道を後にした。
こちらのお話は完全に「繋ぎ」ですね。
前話といい「くだらないやりとり」を書きたかった的な奴です。