間話-1
本編との直接的な関係はありません。
ただ書きたかっただけ……。
『それではキャラクター作成を行ってください』
「じゃーまず、私をベースに作成してほしい。そこから弄るから」
狐耳の受付嬢にそう伝えてから私は目を閉じた。ついでに自らの手で目を隠す。これでバッチリ。
『あの、それではキャラメイクの画面がお見えにならないと思いますが?』
人工知能なのによく気づいたな。
「これでいい。適当に作ったらどんな風になるか、やってみたいだけだから」
『はぁ……そ、それではどういたしましょうか?』
人工知能が溜息まで……よく出来てるなぁ。
「まず髪の色、銀で。白髪じゃないから、そこ大事」
『了解いたしました。ハイライトはどういたしますか?』
ハイライト――天使の話の部分で光って見えるところの事かな?
んー……
「緑とかって選択可能?」
『はい。明るめになりますが』
「じゃ、それで――目は金色でお願いするよ。あ、忘れてた。種族はエルフで」
『かしこまりました』
それから目尻を少し吊り上げ、1から100の数字を要求されたので20と答える。どうせ100なんかにしたら、とんでもない目になるのは解っているから。
遊びで目隠しキャラメイクしているけど、トンデモキャラを作る気は無い。
まぁ、サクっとキャラメイク終わらせてログインしてしまうと、どうせ初期ポップ位置がごったがえしてるだろうからね。ここでちょっと暇つぶししてログインしたいだけだから、適当に笑えればそれでいいの。
そして大事な事を受付嬢に伝える。
「男装、出来る設定だったよね? 装備とか男物に出来るの?」
『可能です。ドロップ装備の設定を、男女七対三の確率にいたします。生産装備は元より男女で分けて作れますから、お好きな方をお召しになってください』
「なんで十割ドロップにしない……」
『そういう規則ですから』
面倒臭い所でお役所仕事になるんだから……。まぁいいや。
『それでは最後にお名前の方をお願いします』
「名前――、フェンリル……んー、ネタが無いなー。じゃ、フェンリル・クォーツでいいや」
水晶だったか時計だったか、たしかクォーツってのがあった気がする。まぁ適当てきとー。
『確認いたしました。それではセカンド・アースへと移動なさいますか?』
「あー、ちょっと待って――」
目を開いて自分のキャラクターがどうなってるか見てみようとしたけど、その前にくしゃみが……
「は、っくちゅん」
『かしこまりました。それでは良い旅を――』
え?
いやちょっと待って。今くしゃみしただけだからっ。誰も「はい」なんて言ってないからっ!
顔を確認出来ないままログインさせられてしまった……。どうすんの、トンデモキャラになってたら。
あー、どことなく人目が集まってる気がする。これ絶対トンデモキャラだわ。どっかに鏡は無いのか。
きょろきょろしている間に、鎧を付けた男が近寄ってきた。
まだレベル1の初期装備軍団の中にあった、一人だけ浮いた重厚装備。ってことはNPCな訳ね。
「あー、君。何かお探しかね?」
そういう質問もしてくるか。うーん、最新の技術云々とか言ってたけど、かなりAIの性能良いなぁ。
物は試しに聞いてみようかな。
「あー、鏡は無いだろうかと思って」
男の顔はぱぁっと明るくなる。犬みたいだ。
「こちらにっ!」
案内されたのは直ぐ近くの天幕。このNPCの寝床ってヤツだろうね。うん。
天幕を開いて中を指差すから覗いてみると、頭身大サイズの大きな鏡が合った。そこに映っていたのは――
「っぶ。何この完成しすぎた顔っ!」
トンデモ所か、トンデモ無いほど非の打ち所が無いキャラメイク……。なんで目隠ししてたのに、ここまで完璧に仕上がってるかなー。
うん。これキャラデリ決定ね。
こんな男の視線集めるようなキャラは嫌だ。
とりあえず鎧男にお礼を言ってさっさとキャラデリしに行こう。
天幕を出てすぐ別の男に声を掛けられる。
「あー、フェンちゃんだー。たぶんそうだよねー?」
この間延びした口調。黒い髪に黒い目の糸目エルフ……。キャラクター情報で確認すると、モグモグだ。また同じ名前使ってるし。まぁ、人の事言えないけど。
「わー、見事な美人さんだねー。どうしたのフェンちゃん。女に目覚めたの?」
「違う。目を閉じて適当にやったらこうなったんだ」
「わー、すごーい。ある種の才能だねー」
「今からキャラデリする」
「えー、辞めよーよ。勿体無いー。目の保養になるのにー」
「デリるわぁー!」
「あー、そりゃマジで辞めた方がいいぞ」
「カインやっと来たぁー。ほらほら、フェンちゃんだよー。美人さんだねー」
っち。やっぱりこいつも居たか。黒髪赤目のヒューマン……こいつも相変わらず同じキャラメイクに名前か。いや人の事は言えないけど。
「キャラデリ自体が申請式で、デリートされるまで一週間かかるらしい。で、デリート後一ヶ月はキャラ作成禁止だとさ」
「つまりキャラデリさせませんってのと同じじゃん」
「まぁ最初からキャラデリ出来ませんのほうが、まだ納得できる仕様だけどな」
はぁ……どうしてこうなった……。
あ、そうだ。男装設定にしているんだから、装備さえすれば目を引かずに済むかも?
どうせこのウエストポーチ辺りがインベントリに――ポーチの口を開くと案の定インベントリウィンドウが出てくる。装備も各種全部入ってるわね。
法衣は無しかー。じゃローブでいいや。
タップすれば勝手に服装が変わる。
よし、男物だ。
女性プレイヤーのローブはスカート仕様。私のはズボン仕様。完璧だ。ちょっとデザインださいけど。
「あー、またフェンちゃん男装設定だー」
「またか……たまには素でやればいいんじゃないか?」
「だが断る!」
「あははー、まぁ散々直結男に追い掛け回されたフェンちゃんだから、仕方ないよねー」
「モグ、サラっと嫌な事思い出させんな」
「あははー、ごめんねー。でもフェンちゃんってネナベプレイ楽しそうだよねー」
「んむ。楽しい!」
カインの目が同情しているのが解る。ネナベをしている事に対してなのか、男に追い掛け回された私の過去を同情してなのか、それとも痛々しいヤツめという意味での同情なのか。
まぁ全部だろうな。
とりあえずこの二人に寄生してレベル上げしよう。どうせ二人とも廃人プレイするだろうから、初日で脱落しそうだけど。
ベータテストも終盤に差し掛かった今日。
運営からの告知でネームドモンスター祭りが開催される事になった。
これまではネームドからのレア以上のドロップは設定ゼロ確率になっていたが、今日のこのイベントでのみサービス開始時の半分に設定するとある。
レアや伝説アイテムを求めて群がってくる亡者ども。
もちろん私も参加する。
お祭り会場は【メルビス】の町の外。
「フェンちゃん、支援お願いねー」
「うぃよー。お前等はしっかり働けー」
連中とパーティー組むのも久々だねぇ。
初日は頑張って廃狩りに付き合ったけど、やっぱり翌日からはリタイア。時間の余す限りモンスター狩りか生産しかしないっていうね。
私はもっとこう、秘境探検とかのんびり草むしりとか、ぼぉーっとしたりとかしていたい。
まぁ今日はお祭りだし、顔装備でも出たらラッキーだして参加してるけどね。
「お、出て来たみたいだそ」
「ばっちこーいっ」
パーティーリーダーのカインの号令で、周囲にいたヒーラーが一斉に詠唱を開始する。
支援スキルの数なら負けやしない。むしろ他のヒーラーよりも多い。その分攻撃魔法が少ないけど……。
【メルビス】の町の郊外を襲撃したのは、レベル20から30までの全ネームドモンスターだった。
そのうちの一体から、念願の超かっこいいお面装備をゲットしたのは言うまでも無い。
もう一話ほど間話を挟みます。