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『Second Earth Synchronize Online』  作者: 夢・風魔
第1エリア『初心』
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1-2:初めての戦闘と初めての人助け

 再び目を覚ました俺。今度は小鳥のさえずりで目覚めた。

 もう朝か?

 とは思ったがそうじゃないらしい。いや、朝ではあるんだけど、やっぱり夢の中だ。


 俺が寝ていたのは大木の根元だし、周りは草原だ。空はもちろん青く、白い雲も漂っている。

 ここが現実とは違う所は、俺の目の前に糸みたいな手足の生えた巨大マリモが居ることか。


「っでー! なんだお前! や、やるのか?」


 慌てて立ち上がって構えてみたが、向って来る気配は無い。むしろ、つぶらな瞳でじっと見つめてくる。

 ……ちょっと可愛いじゃないか。

 このまま視線を合わせていると愛着が沸いてしまうんじゃないかと思い、とりあえず視線を背けて周囲の状況を確認した。

 正面は草原。背の高い木もちらほらとは立っている。ポツポツと見える緑色の物体は、足元に居るマリモの親戚だろう。

 地平線まで広がる草原から視界を左側に向ける。

 っお、建物発見。

 藁葺き屋根が幾つも見えるのは、町というよりは村か。

 そんなに遠くも無い。行ってみよう。


 じっと俺を見つめるマリモに別れを告げようと、頭に触れた瞬間――


『ズモピシャーッ!』

「ちょ、なんだよ急にっ!」


 ふさふさだった毛が逆立ち、まるで全体がモヒカンカットのようになってしまった。

 もう可愛いなんて思えない。

 そして奴が俺に頭突きをかまして来る。

 地味に痛い……。

 不思議な事に、漫画のようなギザギザ吹き出しと数字が出てきた。

 数字は24……なるほど、24ダメージって事ね。

 ……。

 ってどうするよこれ。

 俺、戦闘の仕方なんて教わってないぞ。こういうのって普通はチュートリアルとかあるよな?

 あ、もしかしてあのエルフがチュートリアル専用NPCだったりとか?

 そんな訳は無いか。


 そうこうしている間に俺の視界が赤く点滅しだした。

 うぉぉぉぉぉい、まさか瀕死状態とかじゃないだろうな?


「くそぉ、マリモなんかにやられる俺じゃないぞっ!!」


 こうなったら素手でやっつけるっ。

 気合を入れると、突然足元が光り、今度は緑色で書かれた数字の吹き出しが現れた。視界の点滅も消え、どことなくからだが軽くなった気もする。

 なんかすげー。よく解らないけどすげー。

 これならマリモにも余裕で勝てるっ!






 予想以上に激闘だった。

 勝利を手にした俺の足元に転がるマリモは、息絶えた後には黒い煙になって四散した。

 やっぱ素手じゃダメだ。

 VRMMOと言ってもRPGなんだし、武器ぐらいあったっていいだろ?

 なのに俺の持ち物と言えば、グレーの上下の服と……あーっと、腰にウエストポーチか。上から触ってみても、何も入ってないのが解る。

 もしかして、あの村がゲーム最初の目的地で、あそこでチュートリアルが発生するとかなのかな?

 解らないからとにかく行ってみよう。

 そこかしこにいるマリモには触らないようにして……。


 数分ほどで到着した村には、こじんまりした家が何件か見える。村人NPCもしっかり居た。

 よし、まずは――


「あのー、すみません」

「はい? なんでしょうか」


 手近にいた村人Aこと、中年男性に声を掛けた。

 俺は息を吸い込み、このゲームを始めると決めたときから考えていたセリフを口にする。


「お困りな事はありませんか? 何かあれば俺がお手伝いしますよ」


 よ、よし。噛まずに言えたぞ。

 ちょっと恥ずかしい気もするが、相手はNPCだ。誰も気に知る事は無いだろう。

 残念ながらこの村人は、困った事は別に無いとの返事だった。

 よし、ならば次だ。


 こうして尋ねまわる事九人目。ようやく困っている人を発見。

 困っていたのは五十代ぐらいの農夫で、近くの町まで野菜を届けなきゃいけないんだけど、最近はモンスターが増えて困っているんだとか。

 ならば俺が護衛しましょう!

 と気合十分に言うと。


「え……君は冒険者なのかね? しかし、武器も防具も身につけてないし……」


 と不信そうな目で見られてしまった。

 そうだ、チュートリアルがまだだった。


「あのぉ、チュートリアルはどこで受けれますか?」

「は? チュートリアル? なんだね、それは……」


 尋ねたら余計に不信な目で見られるはめに。

 うーん、困ったぞ。戦闘の仕方は……まぁさっきの素手殴りのマリモ戦でなんとなく解った。というか、普通に体を動かせばいいだけだった。

 でも装備類はなぁー。まさか店で買うとか? お金は?

 自問自答している間に、農夫が俺のウエストポーチを指差して言う。


「その鞄に入っているんじゃないかね?」

「いやいや、こんな小さい物に武器とか入ってる訳――」


 答えながら何も入ってないのを見せるために、ポーチの口を開いた。

 すると、俺の視界に半透明な枠付きウィンドウが出てきた。インベントリだな、これ。


「おおぅ……こんな仕掛けがあったのか」

「どうしたのかね?」


 農夫のおじさんが訪ねてくる。


「いやー、ここにアイテム一覧がですねー」


 そう言って俺は自分が見えているものを指差した。

 首を傾げて困っている農夫のおじさん。もしや、NPCには見えないのか。

 そうだよな。NPCってコンシューマーゲームでも、その世界の住人だからゲームのシステムの事なんて知らない訳だし。

 俺は適当にはぐらかして装備を取り出した。

 まぁどう装備するかってのは、コンシューマーゲームと同じな訳で。

 見えている装備アイコンをタップすれば、武器はウエストポーチから出てくるし、防具はタップするだけで着る事が出来た。


「おぉ、見違えるほど立派な冒険者になったなぁ」

「いやー、おじさんが鞄の事教えてくれたお陰ですよー」

「あっはっは。面白い事を言う子だね。冒険者なら知ってて当たり前の事だろう? それとも、どこかで頭でも打って記憶を無くしたとかかい?」


 最後のは冗談だと言わんばかりに、おじさんが盛大に笑い出す。

 でも、俺は笑えない。

 実のところ両親の記憶が無いのは、事故の影響で記憶を失っているからなんじゃないかと思っている。

 亡くなったのは両親だけで、俺は奇跡的に助かって祖父母に引き取られたのだ。

 まぁ悲しいっていう気持ちは無い。そもそも記憶が無いから。

 優しい祖父母に育てられて、俺は十分幸せを感じている。まー、じーちゃんは一昨年亡くなってるけど、ばーちゃんは健在だ。


 まぁそんな事は置いといて――

 装備も揃ったし、勇者ジョブ目指して初の人助けを開始する。






「やぁー、いい天気ですねー」

「そうだねー」


 のんびりと進む荷馬車に乗って草原を北上する俺たち。

 荷台には採れたて新鮮野菜がぎっしり乗っていた。これを町の市場まで運ぶ間、この荷馬車を守るのが仕事だ。

 といっても、出会うモンスターといえばさっきのマリモと、その色違いだったり、子犬みたいなのだったり。まったく襲ってくる気配もないし、平穏そのものだ。

 時々走って荷馬車を追い越し、モンスターと戦ってみたりもする。

 一匹倒せば体が光り、『LVUP』の派手派手しいエフェクトが現れた。

 どこがどう変化したのかはまったく解らない。どうやってステータスを開けばいいのやら……。

 まぁ、ステータスなんて勝手に上がるんだし、解るまで放置してても大丈夫か。


 そう思って何度目かの戦闘が終わる頃には、合計で三回もレベルが上がっていた。つまり今のレベルは4だな。

 結構簡単にレベルが上がるもんだな。

 さくさく戦う俺の姿を見て、おじさんも安心した様子だ。


 戦いを続けていて解ったのは、この辺の敵はこちらが攻撃しない限り襲ってこないという事。

 戦闘状態になると、モンスターの頭上にHPバーみたいなのが出てくるという事。

 同じように、視界の下ら辺にもHPバーが出てくる。これはどうも自分のみたいだ。

 まぁ解ったからと言って、戦闘が優位になるわけじゃないけど。


 北上し続ける事数十分。

 段々と敵が強くなってきている気がする。モンスターのHPバーを見ていると、一回の攻撃で減る量が少なくなっているのが解った。

 逆に俺のHPバーの減りは大きくなっている。

 こういう場合、やっぱ装備だよな。今の装備は初めから配布されてたものだし、きっと最底辺な装備だろう。町に着いたら買い替えないとな。

 そういや、モンスターからのドロップってどうなってるんだろう。

 俺は荷馬車に乗り込んで、ポーチの口に手を掛けた。荷馬車に乗ったのは歩いている最中に開くと、足を動かした瞬間にウィンドウが閉じてしまうからだ。


 出てきたウィンドウは、回復ポーションが二種類。青とピンク色のやつ。それに状態異常を解除するって書いてある緑色のポーションと、各種武器。

 武器の組み合わせは自由らしいから、一通りの武器が配布されているんだろうな。

 俺は勇者っぽく、剣と盾。残りは売ってしまおうと考えている。

 しかし、ドロップ品が無いなんて……VRMMOってなんか味気ないな。

 

 こんなに綺麗な景色があって、まさにファンタジーな世界観をかもし出しているけど……肝心なところはゲームらしく、レア装備ゲット目指したり出来るほうが楽しいのになぁー。

 なーんてぼんやり考えていると、


「そろそろ、この辺に出没するらしいんだ」


 神妙な面持ちのおじさん。

 何が出てくるって言うんだ?


 真っ直ぐ伸びた高い木々が道の両端に並ぶその場所は、今迄通って来た道と違って薄暗さを演出している。小さな森を突っ切って作ってます的な林の中の道だ。

 それなりに太陽の日差しも届いてはいるが、それでもやっぱり暗く感じてしまう。

 

 そんな場所に、一体何が出るって言うんだ?


 俺は注意して周辺を見渡し、そして見つけてしまった。

 木々の間から、巨大なもふもふがこちらをじっと見つめている姿を。

 あれは……


「マリモのお父さんっ!?」


 土色ではあるが、巨大な丸にもふもふ毛並み、糸のような手足は紛れも無くマリモだ。


「ひぃっ。怒れる大地のズモモだ!」

「怒れる……なんかかっこいい名前だな」


 そんな事を言っている間にも、その怒れる大地のズモモがゴロゴロ転がってやってくる。

 でかい……直径三メートルぐらいありそうだ。通れる隙間の無い木々の間では、薙ぎ倒しながら転がってきている。パワーも相当ありそうだ。

 だがしかし、レベルアップしている俺だって負けてはいないぞ。


 荷馬車から降り、剣を構えてズモモを待ち構える。

 止まる気配の無いズモモを、盾で弾き返す事にした。

 正面から見据え、ズモモへと体当たり。


「ごふっ」


 お、押し負けてしまった。

 仰向けに倒れた所へ、ズモモが俺の体を轢いて行く。

 痛いけど、モフモフしていた。

 ダメージは225。

 っおい!

 俺のHP、マックスで259なんですけど?


 行き成り瀕死状態の俺。視界が赤く点滅し、絶体絶命のピンチ。

 もうダメなのか?


 いや――

 勇者であれば、こんなピンチだって切り抜けられるはず。

 そうだ、

 勇者たるものがこんな所で諦める訳には行かないんだ!


「負けて堪るかぁーっ!」


 俺は剣を突き上げ、自らを奮い立たせた。


 俺の気合がゲームに影響したのか、力が湧き起こり、HPが一気に回復する。


 すげー。

 このゲームの謳い文句にあった――貴方の行動が――っていうのは、職業だけじゃなく、こういう場面でも影響するのか。

 よぉし!


「だったら、やってやるぜ!」


 俺は剣を握る右手に力を加え、ズモモへと挑んだ。

お読み頂きありがとうございます。

本日はもう一話UPいたします。

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