1-15:鉱山でワッショイ
【ファーノーブル】から北北西の小さな山を目指す。
そういえば、巾着おじさんから北西の山には気をつけろって言われてたけど……。今回は山の中、いや地面の中だし大丈夫だよな。
目的の鉱山まではそれほど時間も掛からず到着した。麓に小さな村もあって、ひとまず休憩兼ログアウト。六時間制限に引っかからないようにだ。
集合時間を決め、再びその時間に集まったらいざ出発っ!
意気揚々と山道を登る間に、こっちでは夜になってしまった。
鉱山に入ればどうせ暗いんだ、外が暗くなったって関係ないねっ。
先頭を歩く俺が二人を振り向くと――
「うぉっ! カゲロウの目が光ってる!」
茶色の毛並みで瞳は水色。その水色の目が、爛々と輝いているのだ。これはちょっと……怖い。
「あっはっは。獣人は種族特性で夜目が効くんだぜ。だから鉱山まではこいつが先頭な」
「流石に真っ暗だと何も見えませんが、月や星が出ていればそこそこ見えるんです」
うーん、羨ましい。プレイヤーの多くが夜間、レベル上げをしないのは暗くてよく見えないから。って理由だし。じゃー獣人は二十四時間フル稼働できるじゃん?
と思ったが、世の中そう上手くはいかないらしい。
「この夜目ってスキル扱いなんですよ。夜目発動中はSPが減るし、それに、犬や猫って実は人間より視力が悪いんですよ。その辺りも再現されてて、結構微妙なんです。まぁメガネが必要無い程度の視力は確保されてますけどね」
苦笑いを浮かべてカゲロウが説明してくれた。
へぇ、犬猫って視力良いんだと思ってたよ。
ただ動体視力、特に暗い所では犬のほうが圧倒的に優れているってことで、何かが居たらすぐに気づける。そのぐらいの夜目らしい。
足元を照らすのはカゲロウと俺の腰にぶら下げたランタンと、夜空の星。整地されてない山道の両端には背の高い木が立並び、奥には深い闇が広がっていた。
そんな闇から……。
「右側、妖魔系モンスターです! あー、こいつゴブリンだ」
「ファンタジーの王道やられキャラと、初ご対面!」
「やられキャラなわりに、このレベル帯で初対面って、結構出世モンスター?」
闇から現れた小柄な妖魔。特徴的な緑色の肌と醜い顔をそいつは、徒党を組んで襲い掛かって来た。
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モンスター名:ゴブリン
レベル:18
種族:妖魔
属性:闇
備考:集団で行動する事が多く、洞窟などを住処にしている事が多い。
大多数は低い知能しか有していないが、極僅かだが魔法を習得した
ゴブリンも存在する。
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モンスターの説明も、どこかで見たような内容だな。ただレベル18っていうのが意外だった。もっとレベル低いモンスターだと思うんだけど、逆にレベル18なんてのは低レベルに入るんだろうか?
無駄に考えている間にも、五匹のゴブリンは武器を構えて近づいてくる。
後ろから弓弦を引く音が聞こえ、カゲロウが戦闘態勢になっているのが解った。
「戦士系四と、ゴブリンアーチャーが一です。アーチャーが面倒なのでスキルで俺が先に倒しちゃうから、戦士系はお願い」
「オッケー。お兄さんに任せておけ」
「了解」
敵の接近まで距離二十メートル。ゴブリンアーチャーの攻撃射程は解らないが、先にカゲロウの攻撃が始まった。
引き絞った弓弦が唸り、青白い閃光を帯びた矢が俺にも見えた。
ゴブリンアーチャーに刺さったのとほぼ同時に、ヒュンッという音が後ろからまた聞こえる。カゲロウの攻撃速度はかなり速いみたいだな。
ようやくゴブリンアーチャーが動く。たぶんカゲロウと奴の距離は十五メートルぐらいか。
ゴブリンアーチャーが放った矢は、俺が盾で受け止め、肩越しにカゲロウが矢を撃つ。
近づいてきたゴブリンにフィンが『火炎斬』をお見舞いし、俺が『シールドスタン』で一匹を昏倒させ、『ライジングインパクト』で一匹を痺れさせる。
数時間、一緒に狩りをしていた程度だけど、なかなか良い連携が取れてる気がする。
五匹全てのゴブリンを倒し終わるのにそれほど時間は掛からなかった。
戦利品に鉄が混じってたあたり、こいつ等もしかして鉱山を住処にしているとか?
「どう思う?」
俺の考えを二人に話してみた。
恒例行事のように二人は顔を見合わせ、神妙な顔でこちらに視線を戻した。
「そうかもしれねーな」
「うん。ゴブリンは洞窟を住処にしているって、書いてましたしね」
まぁゴブリン相手なら、今みたいに手こずることなく対処できそうだ。
改めて気合を入れ、俺たちは鉱山入り口を目指す。
ほどなくして入り口に辿り着いたが、ここまで来る間にゴブリンの襲撃が二回あった。やっぱりここに住んでるんだろう。
坑道は横幅四メートル前後、天井高二メートル半ほど。広くは無いが、狭いというほどでもない。
ただ、フィンの『火炎斬』とカゲロウの一部スキルに使用制限がかかる。
「ったくよー。変なところでリアルな制限かかるよなー」
「本当に。まさか天井の低い場所では使えないスキルがあるなんて」
「今後覚えるスキルに、ジャンプ系がない事を俺は祈ってるよ」
落ち込む二人を尻目に俺はお祈りポーズをしてみせた。
スキルに使用制限があったせいで、ちょっと慎重にならざるを得なくなる。範囲攻撃の手数が減っているから、殲滅速度が落ちてしまうだろう。
まぁ俺の『ソードダンス』が火を噴いて大活躍すれば問題ない。
俺たち三人は、ほぼ横並びで坑道を進む。一〇〇メートルも進むと分岐点があった。
正面と左右に伸びる道。当然どれも真っ暗闇だ。
「そういえば鉱石ザックザックって言ってたけど、採取ポイントが全然見あたらないんだが?」
採取ポイントはうっすら光って見える。ダンジョンに入って直ぐではあるけど、そういった箇所は見あたら無い。まして中は暗いし、光ってたらすぐ見つかるはず。
鉱山ダンジョンっていうぐらいだし、かなりの高確率で光ってるもんだと思ってた。
「鉱石が採れるのは、ある程度進んでからですね。採取ポイント以外でも掘れるのが鉱山なんですが、どこでもここでも掘ってたら崩落しまするんですよ」
「崩落って……そんなものまで再現されてるのか……生産の道は厳しいな」
生き埋めなんてまっぴら御免だ。HPが減るのかどうか解らないけど、兎に角想像しただけで背筋がひんやりしてしまう。
まぁ採取ポイントなら確実に鉱石も取れるし、崩落もしないから安心だろう。
そこを目指して、とりあえず右の坑道から攻略する事に。念のため、進む道に印を付けて行った。
暫く進むと道は蛇行しはじめ、見通しの悪い場所でゴブリンの気配を察知。察知したのはカゲロウだ。流石犬。足音が聞え、それが三匹のゴブリンだって事も知らせてくれる。
俺たちは待ち構えて迎撃する事にした。
俺が中央、フィンが左端、カゲロウは右端から既に矢を番えている。
ゴブリンの姿が見えた瞬間、カゲロウの矢が飛んだ。
「流石に三匹だと楽勝だな」
戦闘は割りとあっさり終わった。三匹とも普通のゴブリンだったのが幸いだったんだな。
ドロップも回収し、俺たちは先を進みだす。
何度か戦闘を繰り返したが、ゴブリンは常に三匹セットで現れ、たまにアーチャーが混じっていたがなんとかなっている。
ゴブリン以外が見当たらないのは不思議ではあるものの、毎回同じモンスターなら戦略もたて易い。まぁ馬鹿の一つ覚えみたいに、ただ突っ込んでくるだけの敵なんだけどな。
何度も分岐点に差し掛かり、その都度右側を選んだ進んだが、時々印の付いた元の道に戻ってくる事があった。
俺たち以外にも迷子になってるような他プレイヤーの姿も見かける。声を掛けると、元気無さそうに手を振る人もいた。
「うーん、かなりぐねぐねしてるから、ある程度の道は繋がってるなー」
溜息混じりに俺が言うと、二人もげんなりした顔で印の付いた分岐点を見つめる。
とりあえず、印の無い道に進むしかない。帰りが迷わない事を祈ろう。
そして遂に俺たちは……。
「上り階段?」
「階段だね。登る?」
「いや、登るしかねーだろ?」
目の前には上の階に続く階段があった。道幅いっぱいの階段で、もう奥に通路は無い。
「登るよな?」
フィンの声が聞こえた。
「敵のレベル、きっと上がってますね」
カゲロウの声も聞える。その声に不安は無さそうだ。どちらかと言えば、興味津々といった感じに聞える。
「ゴブリンは、正直飽きた。でもまたゴブリンかも?」
俺の声に二人が笑う。きっと同じ事を考えているんだろう。
上りたい。
ただそう思った。
互いに視線を交し、上へと登る決意する。
「ぼ、冒険らしくなってきましたね」
「ワクワクするなっ」
二人が囁きあうようにして言う。その声に、俺は小さな笑いを漏らした。ほんと、ネームドモンスター目的で来たのに、今じゃすっかり冒険するのが目的みたいだ。
三人同時に階段への第一歩を踏み出す。
自然と顔が緩み、笑みが零れる。緊張しすぎているからとかじゃない。なんていうか、今この瞬間に解ったんだ。
これが仲間なんだって。
これが仲間との冒険なんだって。
物理職ばかりだけど、今だけ勇者パーティーの誕生だっ。
俺の興奮が絶頂に達しようとした瞬間、坑道に響き渡る悲鳴が木霊した。
「女の子の声だっ!」
「カゲロウ、どっちから聞えたか解るか!?」
「もちろん上の階。正面からだよ」
俺たちはいつでも戦闘態勢になれるよう、武器を構えて階段を駆け登った。
登りながら、聞えてきた悲鳴がどこかで聞いたような気になる。しかも演出的にも似たような状況だ。まさか――。
階段を登りきり、一本道だった正面の道を少し進めば現場へと到着した。
九匹のゴブリンと一人の獣人女の子が戦っている場面に遭遇。
走り様、『挑発』でゴブリンの気を惹くと七匹が向きを変え、こちらへと駆け出す。
フィンはそのまま真っ直ぐ進み、女の子の救出へ。カゲロウは俺と協力して七匹の一掃に取り掛かる。
行き成り『ソードダンス』で一体に四段切り込み、そして地面に突き刺した検圧で集まっていたゴブリン七匹全部にダメージを与える。
僅かに吹っ飛んだゴブリンが体勢を整え再び集まろうとする。その内の一匹が、俺の背後から飛んで来た矢に打たれ更に吹っ飛ぶ。貫通タイプの矢は、背後にいた別のゴブリンも巻き込んでいった。
他のゴブリンに『ヒートスラッシュ」を浴びせ、『バッシュ』も叩き込む。これで一匹が四散。
カゲロウの通常攻撃も飛び、次々に敵を倒していった。
チラっとフィンに視線を送ったけど、上手く女の子と連携してゴブリンを葬っていた。直ぐにあっちは片付き、俺達の方へと駆けて来る。
この時には四対四になっていて、勝負はあっという間だった。
フィンと一緒に駆けつけてくれた獣人の女の子を改めて確認。
三毛模様の耳、栗色のボリュームのあるミディアムヘアー。水色の目と真っ白な長い尻尾――は、やっぱりミケか。
「ミケ、加勢してくれてサンキューな」
「そうそう、あんがと猫ちゃんって、ソーマ知りあい!?」
勢いよく叫んだフィンに驚いたのか、ミケは耳を伏せて俺の後ろに隠れてしまった。そして隠れたまま、
「あ、あんた達が先に助けてくれたニャないの!」
とフィンをまるで威嚇するようにして叫んでいた。
フィンが危害を加えるような奴じゃないってのを説明する間、彼女の頭を撫でてやる。
――が、直ぐに叩かれる。真っ赤な顔で「子供じゃニャいっ」と抗議されてしまった。
うーん、どう見ても十四、五歳にしか見えないしなー。まぁ見た目=実際の年齢じゃないってのは解ってるつもりだけど……。
「そういやミケはここに何をしに?」
フィンとカゲロウの二人に軽くミケを紹介してから、彼女の目的を尋ねた。もしかしてまたネームド?
「こ、鉱石を集めに……」
「え、一人で?」
女の子の一人歩きなんて危険――あ、ここはゲームなんだった。
頷いたミケは、スキルを使ってここまで安全に来た事を教えてくれた。
「シーフ系の職業には、姿を消して歩けるスキルがあるニャ。でも動物系や悪魔系モンスターには見破られてしまうんだニャ」
「ってことは、このフロアに動物か悪魔系がいたんですか?」
同じ獣人でも犬のカゲロウが丁寧な口調で尋ねる。それにもミケは頷いて応えた。そして「動物ニャ」と付け加える。
その言葉を聞いて、やっとゴブリン以外が見れると俺たち三人は歓喜した。それを冷たい視線で見つめるミケ。
そして直ぐにゴブリン以外と出会う事になる。
バサバサという羽音が聞えたかと思うと、全長一メートルほどの黒い物体が飛行してきた。数は二。
蝙蝠だってのは直ぐ解るんだけど、何故か尻尾がある。しかも尻尾は蛇だった。
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モンスター名:バットスナイプ
レベル:19
種族:動物
属性:闇
備考:尾の蛇には猛毒の牙がある。超音波による混乱攻撃には要注意。
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毒あり混乱ありの状態異常が厄介な敵か。二匹しか居ないのが幸いだな。
うわぁー
晩御飯の事ばっかり考えてたら更新するの忘れてたぁー!
ってことで更新時間は不定期ってことにしておこう。