村長のもとへ
村長の元へと僕はやってきた。
「村長! 聞いて! この子、言い伝えの人かもしれない!」
僕とリーニャの前には白いひげを伸ばした威厳がありそうな人がいた。
「ほう、リーニャが見つけたのか?」
見つけたって言い方、これじゃまるで僕が魚みたいだな。海から来てるから否定できないが。
「浜辺に倒れていたんだ。それで、私が助けてあげたんだ」
「なるほど。・・・海から来た者に問う。お前、何故ここへ来た」
話をいきなり僕に振られて少し頭がパニックになるが、冷静を装う。
「ええっと、僕の祖父が地上へ来たって、本を書いていて、それを信じていて」
しかし、緊張してうまく話せない。
「それでは、どうやって地上へ来た? 海底の世界の文明は地上より優れているのか?」
「い、いえ、地上の方が、優れていると思います・・・万能な四角いものがあるのは、地上だけですから」
「万能な四角いものって何?」
リーニャが話に割って入ってくる。
「僕の祖父が書いた本には、四角い高い山、箱の中に動く絵が表示されるもの、模様の出る箱があるって書かれていたけど、分かる?」
「うーん、何のことなのかなあ。全然分かんないや」
「リーニャ、お前は少し黙っていてくれ。なら海から来た者、お前はどうやって地上へやってきたのだ?」
「それが、僕もよく分からないんです。周りが大きく揺れ動いて、地面が裂けて、気付くと地上へ来ていました」
村長は黙って聞いていた。が、すぐに言った。
「そのようなことがあったのか。しかし、先ほど言った万能な四角いものは、残念ながらここにはない。しかし、お前の言っているものの想像はつく」
僕はすぐに身を乗り出して村長に聞く。
「分かるのですか!?」
「ああ、お前の言っているものは、高層ビル、テレビジョン、携帯電話のことだろう。かつて、この世界に存在していたものだ」
どうして過去形なのだろうか。もう存在はしていないのか。
「ひょっとすると、もう、そのビルって言うものは・・・?」
「残念だが、もう存在はしていない」
どういう事だろうか。何故ないのだ?
「すまない。また日を変えて来てくれないか? お前に聞きたいこともたくさんあるが、今日はこれまでにしてくれ。リーニャ、悪いがしばらくこの子を泊まらせてあげてくれ」
村長は、辛そうな声でそう言って、緑色のワカメのようなものの奥へと消えていった。
「私たちも帰ろっか! 何か食べたいものとかある?」
「特には、ない・・・かな」
食欲がわかない。
じいちゃんの見てきたものは、全てなくなっているって、どういうことなのだろうか。
今まであったものがなくなることなんてあり得るのか?
いや、現にありえている。
「大丈夫だよ! きっと、エリアスの故郷へ帰れるよ!」
「エリアス?」
「あなたの名前。海から来たから、水の意味を持つ星座の名前から取ってみたんだ。明日から、エリアスって、呼ぶね」
「あの、僕の名前は」
「よろしくね、エリアス!」
つづく
あまりトリートーン(トリトン)と言う名前は使いたくなかったのですが、使ってしまいました。
本名思いつくまでトリートーンにしておきます。
今後は地上世界の過去話とかも書いて行こうと思っています。
※追記
主人公のトリトンと言う名前がどうしても違和感があるので水に関係のあるアクエリアスから取って、エリアスに変更します。