下世界
いつでも人々は夢をあざ笑う。
「夢を持て」と言った人まで「諦めろ」「現実を見ろ」と言う始末。
この年になって、僕のように何時までも夢を見ている者は少ない。
「また考え込んでる。今日は逃走術のテストなんだから、頑張らなきゃ」
ウロ子は僕の顔を覗き込んで話してくる。
「分かってるけど、やっぱり」
「夢を持つのは良いことだと思うけど、現実を見ようよ。私たちは『強者』が来たら逃げるしか方法はないんだよ。カースト制度で言うと私たちは下の存在なんだから」
「・・・」
僕は何も言い返せなかった。
彼女のように現実を受け止められるようになりたいと思った時期もあった。
でも、僕には無理だった。現実を受け止める現実が想像できなかった。
行動に移したとしても、頭のどこかには上世界に行きたいと言う気持ちがどうしても捨てられなかった。
「やっぱりお前、もう死ぬしかないかもな」
逃走場で、逃走術のテストが終わり、教師が真っ先に言った言葉だった。
「先生、それはいくらなんでも言い過ぎですよ!」
ウロ子が反論する。
「でも、ここまで酷いんじゃもうどうしようもないわ。大人しく死ぬしか道はねえな」
僕は何も言えなかった。
逃げ足は確かに遅い。『強者』が来ると真っ先に死ぬのは僕だろう。
「ウロ子、もう良いよ」
「でも!」
「良いって」
そう言って僕は教室へ戻った。
「待ってよ! あの人の言い方が悪いだけだよ!」
「良いんだよ。どうせ、僕は『強者』に殺される運命なんだ。それを受け止めてこれから生きていくよ」
「・・・現実も、まともに受け止められないあんたに! そんなの受け止められるわけないよ!!」
ウロ子が今までにないくらい強く言い返してきた。
「ウロ子?」
「私たちは確かに弱い存在だよ。ただ逃げるだけ。強いなんてお世辞にも言えない。でもね、簡単に殺される運命を受け止めないでよ!」
目に涙を溜めて、懸命に言葉を紡いでいく。
「だって、私」
その直後、轟音があたりに響き渡り、空間が大きく揺れ動く。
「な、何?」
「ウロ子、こっち来い!」
揺れ動く空間に体が上手く動かない。ウロ子は必死に僕に手を伸ばしているが、全く届かない。
地面が裂けて、僕とウロ子は完全に引き離された。
泣きながら必死に僕の名を呼んでいるが、ウロ子は轟音の中へと消えていった。
僕のいた地面は、大きく隆起して、僕は大きく飛ばされた。
そこから先は僕も詳しくは覚えていない。
つづく
久々の更新になってしまいました。
早めに次の話を更新しようとは思っています。