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上世界への思い

この世界には、まだまだ知らないことが溢れている。

こんな小さな世界で終わりたくはない。

もっと、たくさんの、世界を見たい。

そんなことを思いながら、僕は寝転がりながら、僕の前にそびえる高い山を見上げる。

「またここにいた」

そう言って僕に近付いてくる一人の女の子がいる。

「相変わらずだね」

「ああ。前にも言っただろ。僕の夢は、この山頂に登り詰めることだ」

「そんなの無理だよ」

否定されて、少しだけムッとする。

「やってみないと、分から」

「分かるよ。第一、ここは立入禁止区域だよ? 大人が来る前に帰ろう」

僕の返事も聞かないで、彼女は僕の手を引っ張ってその場を去る。


彼女の名前は佐奏さかな ウロ子。僕の幼なじみだ。

いつでも僕のことを気にかけて、自分のことよりも、僕のことを優先しようとする。

「ねえ、何であの山に登りたいの?」

「別に。理由なんてないよ」

そう言って僕はお茶を濁す。

本当の理由は、誰に言っても笑われると分かっているから、言わない。

それに、僕が登りたいのは先ほどいた山だけじゃない。高い山なら何でも良いんだ。

登山が目的、と言えば嘘になるが、僕の本当の目的は。

「言わなくても、分かるよ。上世界へ行きたいんでしょ」

「んなっ! 何で、それを・・・?!」

ため息を吐きながら、ウロ子は言う。

「そんなの、部屋の本、日記を見れば分かるよ。それに、何年一緒にいると思ってるの?」

「お前、また勝手に僕の部屋入ったのか! て言うか人の日記を読むな!!」

そんなやり取りをしていると、僕の家とウロ子の家に着いた。

そう、僕たちは家も隣同士なのだ。

「じゃあ、いつまでも夢見ていないで、ちゃんと勉強もしなきゃダメだよ? じゃあね。おばさんによろしく」

「はいはい」

そう言って僕は家の中へ入る。僕が入るのを確認して、ウロ子も戸を閉める。

隣からバタンと言う音が聞こえると、いつも僕が入るのを確認してから入っているんだろうと思う。

「ただいま」

「おかえり。また、行ってたのかい?」

「・・・うん」

「あまりお母さんもこんなこと言いたくないけど、そろそろ本腰入れて勉強しないと、生き残れないよ? だから、いつまでもありもしない上世界のことなんか考えないで勉強して」

母親の言動に僕の頭に血が上る。

「ありもしない上世界? 上世界はあるよ! だって、じいちゃんは見たって言ってたじゃないか! お母さんは自分の父親を疑うの?」

「お父さんは嘘が上手で、話を作るのにも長けていたのよ。それに、あなたは直接会って聞いたわけじゃないんでしょう?」

何も言い返せない。そのまま、走って二階の自室へと駆けこむ。

確かに母親の言う通りだ。僕が生まれる十年前に祖父はなくなっている。

祖父の命日の十年後、僕が生まれたのだ。

親戚は、生まれ変わりだとはやし立て、上世界への夢のことも笑わなかった。

しかし、それは僕が小さかったころの話だ。

今は、みんな勉強勉強。この世界では、生きていく上で必須になる勉強。

特に学ばなければならないのが、逃走術だ。

『強者』が来たら逃げる。ただそれだけの単純なこと。

しかし、逃げ切れなかった場合、待っているのは死。そう、生きるか死ぬかの単純な二択。

今のままでは間違いなく僕は死ぬ。そう言われ続けている。

だから尚更のこと、上へのあこがれも強くなる。上には『強者』もいないから安全に暮らせる。


だが、誰も目指そうとしない。

あるのかも分からない世界を目指すのはばかだ。と、言う。

僕のじいちゃんが記した上世界伝記によると、上に『強者』はいないそうだ。

強者は大きな見えない壁の中にいるので襲ってくることはまずありえない。

そして、四角くて高い山、動く箱、模様の出る箱など、四角いもので溢れているそうだ。

四角いもので全て揃う。そう記されている。

生まれ変わりと呼ばれている僕も、じいちゃんの後を受け継いで必ず上世界へ行こうと思っている。

思っているのではなく、絶対に行く。



そしてそれは突然やってきた。

予想だにしない出来事は、僕たちに不幸をもたらす。



つづく

新作いかがだったでしょうか。

活動報告の方でも書きましたが、これからの話の中で凪のあすからと被る部分が出てくると思います。

気にしないで読んでいただければ幸いです。


この話は一応去年の夏に思い浮かんだ話です。

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