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姉と弟  作者: 深江 碧
十章 あなたの本当の気持ちを教えて下さい
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あなたの本当の気持ちを教えて下さい1

 三男は電話の前で迷っていた。

 姉の体調が安定してきた今、長兄のセルゲイに連絡を取らないといけない。

 今の財閥は長男のセルゲイと財閥の総帥に就任した四男のグレゴリーが大きな権力を握っている。

 財閥内の他の有力者たちはこぞって静観を決めて込んでいるため、彼らを止める者はいない。

 有力者たちは今のところはどちらにもつく様子は見られない。

三男自身、財閥内で一番の権力を握っている長兄のセルゲイを敵に回す覚悟はなく、彼に姉の身柄を引き渡そうと考えていた。

理由はわからないが、長男は姉とその家族を敵視している。

交通事故に見せかけて財閥の元総帥である姉の両親を殺したのも長男だ。

長男は冷徹な合理主義者で、情と言うものはほぼないように見えた。

もし彼に逆らうような素振りを見せれば、三男である彼の身にも危険が及ぶかもしれない。

穏やかな生活を好む三男は、厄介ごとには首を突っ込まないのが信条だ。

三男の兄の次男のように長男や四男を敵に回すことや、彼らに命を狙われている姉を助けるような馬鹿な真似はしない。

あくまで穏やかに日々を過ごすのが彼の望みだった。

しかし行き倒れになった姉を助けたために、彼の穏やかな日々は終わりを告げた。

今まで中立の立場を守って来た三男は選択を迫られた。

 すなわち姉の身柄を義兄のセルゲイに引き渡すか、実の兄アレクセイに保護してもらうか。

 三男は朝から電話の前でずっと迷っている。

 車椅子に乗ったまま、そこから動かないでいる。

「どうして無関係なぼくを巻き込むんだよ」

 いらいらとして悪態の一つも吐きたくなる。

 溜息ばかり吐いている三男のそばに寄り添うのは、そば仕えの老執事だった。

「フェリックス様、オリガ様は体調がずいぶんと良くなられたとはいえ、まだ万全ではありません。もう一日様子を見てはいかがでしょうか?」

「そうだね。連絡を取るのは明日でもいいよね」

 同じやり取りをここ三日ほど続けている。

 さすがの今日は、そういったやり取りも限界だった。

 日一日と姉の体調は回復に向かっている。

 そろそろ引き伸ばすのも限界だろう。

三男は電話の受話器を持ち上げ、ダイヤルに指を置く。

長男の番号をゆっくりと回す。

そんな時、部屋の扉からノックもせずに使用人が駆け込んでくる。

「フェリックス様、大変です」

 三男は思わず受話器を下す。

「な、何事だ?」

 驚いて使用人を振り返る。

 息せき切って駆け込んできた使用人は恐ろしいものでも見たかのような表情をしている。

「お義兄さまのセルゲイ様が、この屋敷にたった今到着されました」

 三男も老執事も、とっさに言葉が出なかった。

 二人は電話の前で呆然として動けなかった。

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