誰かに頼ることなしに、人は一人では生きていけない10
次男の部下の中年の男は、次男と別れた後、ある男の情報を集めていた。
姉の行方を探すには、その男と接触するのが一番いい。
部下の中年の男は男と接触できると言う話を聞いた。
次の日、とある酒場に来ていた。
酒場のテーブルの多くは客で埋まっていて、カウンターでは老年の店主が酒のグラスを磨いている。
店主は部下の姿に気付き、顔を上げる。
「ご注文は?」
部下の男はカウンターに腰かける。
「スクリュードライバーを頼む」
「アルコールの度数はどれくらいだ?」
「きっかり五十度で」
「付け合せは何にする?」
「赤狐の捕った山鳥のソテーで」
部下の男と老年の店主は淡々とやり取りする。
「ちょっと待ちな」
店主は店の奥に入っていく。
血抜きした羽の付いた山鳥を持って戻って来る。
「悪いな。おれの店ではそんな本格的な料理は出せねえんだ。これを買って、家で料理しな」
部下の男は金を払って、山鳥を受け取る。
「わかった。では酒も家で飲むことにしよう」
スクリュードライバーの元になるオレンジジュースとウォッカも一緒に買って帰る。
部下の男はいくつものタクシーを乗りかえて、次男の屋敷にたどり着く。
「ただ今戻りました」
部下の男の到着に、次男は彼を玄関で迎えた。
自室へと招く。
「それで、どうだった?」
待ちきれない様子で次男が聞いてくる。
「こちらです」
部下の男は羽の付いた山鳥と、オレンジジュースとウォッカをテーブルの上に置く。
次男は驚いた顔をする。
「これは、何だ?」
羽の付いた山鳥を指さす。
「山鳥です」
「それはわかる。どうしてオリガの行方を探すのに、山鳥が必要なんだ?」
「それは今からご説明いたします」
部下の男はテーブルの上で山鳥の羽をむしる。
テーブルの上のみならず、絨毯の上にまで山鳥の羽が落ちる。
「お、おいおい。ここでやるのか?」
次男が多少の抵抗を示す。
「若が、お急ぎの様子でしたから、真っ先にこちらにおもむいたのですが。オリガ様の件でお急ぎでなければ、厨房でさばいて参りますが?」
次男は考える素振りをする。
「いや、いい。事態は一刻を争うかもしれない。ここでやってくれ」
「承知いたしました」
山鳥の羽をむしり終わった部下は、腰からナイフを引き抜く。
山鳥の首元から腹にかけてさばいていく。
その腹の中に密封容器に入った紙片が収まっている。
山鳥の腹をかっさばいた部下は、慎重にその密封容器を手に取る。
「若、こちらです」
密封容器の中の紙片を開き、次男に見せる。
紙片には数字がいくつか書かれている。
「どこかの電話番号のようだな」
「掛けてみましょう」
次男は立ち上がり、自室にある電話に向かう。
受話器を持ち上げ、ダイヤルを回そうとする。
「若、少しお待ちください」
次男は手を止めて部下を振り返る。
「こちらの電話が盗聴されている可能性もあります。街の公衆電話を使いましょう」