誰かに頼ることなしに、人は一人では生きていけない5
温室から屋敷に戻る間に、車椅子を使用人に押されて三男は玄関にたどり着いた。
使用人たちに玄関に運ばれてきたのは、雪にまみれた帽子をかぶった少年。
白い雪が服のあちこちについたまま凍りついている。
帽子を目深にかぶっているために表情は見えないが、服の間からのぞく肌は寒さのために青白かった。
「深い雪のために、この屋敷の敷地に迷い込んだのでしょうか?」
執事が三男に尋ねる。
「凍傷にかかっているかもしれないな。顔色が良くない」
三男は車椅子で少年に近付き、彼を見下ろす。
不安そうな使用人たちを見回す。
「急いで湯の用意をしてくれ。他の者は彼を暖炉の部屋に運び、毛布の準備を。毛布で体温を逃さないようにしながら、湯で少しずつ体を温めるようにしてやってくれ。その間に医者を呼んで、彼が凍傷をしていないかの診察をしてほしい」
三男は執事をはじめ、使用人たちに命令する。
幼い頃、兄のアレクセイが池に落ちた時、彼らはそうしていた。
三男は次男が池に落ちた時の恐怖を、今でもはっきりと覚えている。
使用人たちは返事をして、それぞれに散らばっていく。
「では、私は毛布を」
「湯の準備を」
「暖炉の火にくべる薪を持ってきますね」
「医者に連絡を」
散って行った使用人たちの姿を見送り、少年の体を持ち上げる使用人たちのそばに着いている。
「彼は客間に運び込んでくれ。あそこなら暖炉の火も入っているから、部屋も温かいだろう」
三男は少年を気遣いそばについている。
じっと少年の顔を見つめる。
少年の顔をどこかで見た様な気がする。
しかしそれがどこで出会ったか思い出せない。
三男は少年をじっと見つめ、客間へと向かった。
客間では既に暖炉も、毛布も、湯も、準備が整っていた。
後は医者の到着を待って、診察してもらうだけだった。