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姉と弟  作者: 深江 碧
八章 長男と次男の、はた迷惑な兄弟喧嘩
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長男と次男の、はた迷惑な兄弟喧嘩12

 次の瞬間、車全体が大きく揺れる。

 けたたましい車のブレーキ音。

車が道路を滑る浮遊感。

ガラスや金属のひしゃげる音。

何かに激しくぶつかる衝撃が車を襲う。

姉は体をシートや壁にぶつけながらも、頭をかばい、体を丸める。

何かに叩きつけられるような音と衝撃の後、ようやく車が止まる。

車内は静まり返っている。

車の外からは断続的に銃の発砲音や物の壊れる音が響く。

目の見えない姉には、車内や車外で何が起きているのかわからなかった。

 車に乗っていた人たちが無事であるのかさえわからない。

 手探りで辺りの様子をうかがいつつあちこちに触れていると、姉の指が柔らかい何かに当たる。

 後部座席にいるのは次男だろうと姉は思い、彼の体をそっとゆする。

「あの、大丈夫ですか?」

 次男の様子を見ようと、横たわっている彼の頭にそっと手で触れる。

 ぬるりとした液体が指にまとわりつく。

 姉は驚いて手を引っ込める。

鼻に近付ける。

 指からは濃い鉄さびの匂いがする。

 ――血?

姉の全身に鳥肌が立つ。

――わたしのせいで、わたしを助けようとしたこの人たちまで傷つけてしまった。

気が付けば車外の銃の発砲音が止み、こちらに近付いてくる複数の足音が聞こえる。

姉は辺りを見回し、体を起こす。

――わたしがここにいたせいで、この人たちはこんな目に合った。わたしがここからいなくなれば、わたし一人で逃げれば、誰にも迷惑はかからない。わたしが一人でいれば、これ以上誰かを巻き込むことはない。

姉は震えながら、手探りで車の中を確認する。

何かにぶつかった時に壊れたのだろう。

壊れて開け放たれたドアへと近付く。

そろそろと車外へと降りる。

深い雪に足を取られながら、姉は風の吹きすさぶ外へと飛び出した。

複数の足音が迫ってくる音を聞きながら、姉は必死に雪の上を進む。

雪に足を取られながら、出来るだけ彼らの車から離れようとする。

――わたしが遠くに逃げれば逃げただけ、彼らに迷惑が掛からなくてすむ。わたし一人の犠牲ですむ。

雪の降りしきる中、姉は雪の中を進む。

前方に濁った大河の流れが横たわっているのにも気づかずに、姉は雪の中を進んでいった。




車から離れる姉の姿に最初に気が付いたのは、次男の護衛の責任者を任されている中年の男だった。

ついさっき大勢の部下たちと共に、車で救援に駆け付けたばかりだった。

次男の車に迫るミサイルを迎撃したものの、次男の乗っていた車は彼らの車と衝突し、停止。

追手との銃撃戦になり、つい今し方けりがついたばかりだった。

雪の中を遠ざかる姉に向かって声を張り上げる。

「オリガ様、どちらに行かれるのですか!」

 冷たい風が吹きすさび、姉を追う部下たちも雪に足を取られて、距離は縮まらない。

 姉の耳には、彼の声も届かなかった。

「オリガ様、もう大丈夫です! 追手は我々が処理しました」

声の限りに叫んでも、果たして彼女の耳に届くのだろうか。

彼は急に不安になる。

もしも彼女の身に何かあれば、冷たい河に落ちるようなことがあれば、恐らく命はないだろう。

 そんなことになれば、彼の仕えている次男に何と説明すればいいのだろうか。

「オリガ様、お戻りください! そちらは危険です!」

 彼は必死に雪の中で足を動かす。

 姉に向かって声を張り上げる。

「きゃっ」

 姉が河原へと滑り落ちるのが見える。

雪の大きな塊が河の中へと落ちる。

あっ、と思った時には遅かった。

姉は足を滑らせて河原を転げ落ちる。

彼が追いつく間もなく、濁流にのまれてしまう。

凍るような冷たい河に流されたのか、姉の姿は見えなくなった。

後には冷たい大河がとうとうと流れていた。

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