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姉と弟  作者: 深江 碧
八章 長男と次男の、はた迷惑な兄弟喧嘩
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長男と次男の、はた迷惑な兄弟喧嘩8

「後ろに追手が見えます。それも三台。先ほどの検問所から追って来た車かと思われます」

 部下の淡々とした報告に、次男は特に驚かなかった。

「兄貴の追手じゃ、やはりこれくらいじゃ巻けないか。仕方がないな。こちらで応戦するしかないみたいだね」

 次男は抱きしめていた姉の体を放し、後部座席にゆっくりと起き上がる。

 解放された姉はその隙に座席を這って逃げる。

 狭い車内の片隅で体を縮こませている。

 ――よ、良かった。と、とりあえずあの人から離れることが出来て。

 姉は次男から解放されたことにほっと安堵していた。

 次男は流れるような金髪を不機嫌そうにかき混ぜる。

「兄貴もしつこいな。そんなに財閥総帥の座が欲しいのか? そんなにおれたちが邪魔なのか? そんなものくれてやるから、おれたちのことは放っておけっての」

 ぶつぶつと文句を言いながら、次男は懐から拳銃を取り出す。

 慣れた様子で安全装置を外し、天井の窓から身を乗り出す。

後ろを追いかけてくる三台のうちの先頭車両一台に狙いを定める。

「念のため、君は耳を塞いでおいてくれないか? それからおれに万が一何かあっても、決して頭を上げちゃいけないよ? 危ないから」

 次男は姉を見下し、にっこりと笑う。

 姉は動揺しつつも、かろうじて答える。

「わ、わかりました。け、けれど、あなたも気を付けてくださいね? わたしもあなたを巻き込んでしまったことは大変申し訳ないと思っています。本当ならば、わたしが対処しなければならないことなのですが」

 姉は頭にかぶった帽子を引き寄せ、しゅんとうなだれる。

 心の底から次男に申し訳なく思う。

 次男は拳銃を構えたままの姿勢でにこにこと笑っている。

「おれのことを心配してくれるなんて君は優しいね。その優しさがおれの兄貴に小指の爪の先程でもあれば、そもそもこんな事態にはならなかったのにね」

 次男は小さく溜息を吐き、耳に耳栓をつける。

その気配を察し、姉は慌てて両手で耳を塞ぐ。

間を置かず次男は後方の車向けて数発発砲する。

 拳銃を発砲した残響が耳の奥に残る。

 ――――!

 姉は空気を震わせるようなその音に、全身の毛が逆立つ。頭がくらくらする。

 銃弾は後方を走っていた車のタイヤを打ち抜き、次いで助手席の部下が車のエンジン部分を打ち抜く。

 撃たれた車は車体を傾け、道路から傍らの雪山に突っ込む。

 雪山で止まった車の隣を、別の二台の車が通り過ぎていく。

 次男は上機嫌に口笛を吹く。

「ほ~ら、上手いこと命中しただろう? おれって射撃の才能があるよねえ」

 そこへすかさず部下の突っ込みが入る。

「最初の予定では若の方がエンジンを狙うはずだったのではないですか? それをタイヤに当てるなど、若の拳銃の腕は大したものですね」

 感心しているのか、馬鹿にしているのかわからない口調で話す。

 次男はむっとして訴える。

「要は当たればいいんだよ。結果的に後ろの車を止められたんだからいいじゃないか」

「はいはい、そうですね、そうですね。若の拳銃の腕は天才的ですね」

 助手席の部下が拳銃の弾を込めながら適当に相槌を打つ。

「少し車体が揺れます。お気を付け下さい」

運転手がハンドルを操作して、背後から迫ってくる車をかわす。

姉は車が傾き転がりそうになりつつも、座席の片隅で扉にしがみついている。

何とか次男の方へ転がるのは免れた。

「おれの腕を信用していないってのか? 失礼しちゃうなあ」

 次男は文句を言いつつも、手際よく弾倉を外し、そこに弾を込め直す。

背後から追いかけてくる二台の車に拳銃を構える。

「たとえ普段の狙撃が下手でも、本番で当たればいいんだよ。麗しい女性が見てる前で外すなんて、男の恥だからね」

 次男は続けて発砲する。

 助手席の部下もそれに続く。

 姉は一人で座席の隅で小さくなっているしかない。

 拳銃の発砲音、車に弾丸が当たる音、ブレーキを掛ける音がその後に続く。

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