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姉と弟  作者: 深江 碧
八章 長男と次男の、はた迷惑な兄弟喧嘩
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長男と次男の、はた迷惑な兄弟喧嘩5

「お、お願いします」

 姉は次男の腕の中から逃れようともがきながら、答える。

運転手は車のアクセルを思い切り踏み込む。

 体が引っ張られ、姉は強く次男にすがりつく。

「いやあ、――嬢は積極的だなあ。ようやくおれの魅力に気付いてくれたんだね」

「ち、違います!」

 次男の軽口が聞こえる。

 姉はむきになって叫ぶ。

 車は反対車線に飛び出すと、車の間を縫って検問所に突進する。

 それに気づいた検問所の係員が、必死に叫ぶ。

「止まれ! 止まらないと撃つぞ」

 車に拳銃を向けたのは一人だけで、他の者は散り散りに逃げていく。

 車の助手席の部下は窓から身を乗り出して拳銃で検問所の柵を撃つ。

「う、うわあああ」

 少し離れた柵に銃弾が当たり、拳銃を構えていた係員の男は慌てて逃げ出す。

 助手席の部下は窓から顔を引っ込め、車は検問所の柵を押し倒し、道の向こうに跳び出す。

 検問所の柵に当たった時、車全体に衝撃がくる。

後部座席にいた姉のもその衝撃は伝わる。

「きゃ」

 小さく悲鳴を上げる。

衝撃はそれほどではなかったが、外で物凄い音が聞こえるのが怖かった。

姉は体を丸め、後部座席で小さくなっている。

「怖がらなくても、大丈夫だよ。うちの部下は有能だから。任せておけば、全部大丈夫だよ」

 次男の言葉も耳に入らないほど、姉は緊張していた。

 普段ならば絶対に自分から次男にすがりついたりしなかったが、この時ばかりは別だった。

 検問所から少し離れたのも見計らってから、助手席の部下は手榴弾を取り出す。

 ピンを外し、慣れた動作で後方へ向かって投げる。

 検問所ではまだ動揺していたが、体勢を立て直しつつあった。

 車に乗り込み、検問所を突破した車を追いかけて来ようとしている。

 そんな時、手榴弾が爆発する。

 その爆発で辺りは再び騒然とする。

すぐに車で追いかけてくるのは無理そうだった。

 その間に姉たちの乗った車は猛スピードで街の外に走り抜ける。

 追手が来ないことを確認して、部下の男が後部座席に声をかける。

「若、――嬢、もう顔を上げて下さって大丈夫ですよ」

 姉はほっと息を吐き出し、座席から起き上がろうとする。

「あ、ありがとうございます」

 しかし次男に抱きすくめられたままなので、体を起こすことが出来ない。

「ちょ、ちょっと、離して下さい! もう大丈夫だと、部下の方も言っているじゃないですか」

 姉は次男の体を押し返す。

 次男は平然と応じる。

「おれは屋敷に着くまで、このままでもいいよ。――嬢は抱き心地が良いからね。特に腰から下の辺りが柔らかくて」

「ちょ、ちょっと、変なところを触らないで下さい!」

 姉は顔を赤らめ、怒鳴る。

 部下は二人のやり取りを平然と聞き流し、冷静に答える。

「では、そのままでいて下さい」

「えぇ?」

 姉は冗談かと思ったが、部下は至極真面目な口調で返す。

「後ろに追手が見えます。それも三台。先ほどの検問所から追って来た車かと思われます」

 鏡越しに追ってくる車を見て、部下は険しい表情になった。

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