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姉と弟  作者: 深江 碧
七章 姉に事情を話し、二人で逃げる
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姉に事情を話し、二人で逃げる6

 建物の陰に隠れていた姉弟は、じっと息を殺していた。

人の足音が遠ざかり、物音がまったく聞こえなくなってから建物の陰から顔をのぞかせる。

「何とか巻いたみたいだ」

弟が辺りの様子をうかがい、そこから出てくる。

 姉は建物の陰に隠れたままだ。

 少年の服を着て杖を握り、不安そうな顔をしている。

 弟はそんな姉を振り返る。

「じゃあ、姉さん。後は僕が説明した通りに、この通りの角を右に曲がって真っ直ぐ行けば、すぐに公園があるから。姉さんは一人でその道を真っ直ぐ行って、公園の噴水の前で待っていればいい。そこで待っていれば、約束の相手と落ち合える手はずになっているから」

 そこまで話して、弟は言葉を切る。

 約束の相手を思い出し、渋い顔をする。

「でも、あなたの言う約束の相手と、目の見えないわたしが本当に合流できるのかしら? わたしは約束の相手のことを何も知らないのに」

「姉さんが知らなくても、相手が姉さんのことを勝手に見つけてくれるよ。あいつは姉さんと見ると、どこからともなくやってくるから」

「え?」

 弟は軽く首を振り、姉にそれ以上追及されるのを避けた。

「とにかく、姉さんは公園の噴水の前で待っていればいいんだ。目の見えない姉さんでも、噴水の水音で大体噴水の位置は特定できるだろう? 通りに出てからの真っ直ぐな道の途中には車の通る道路もないし、ここは人の往来の多い道だから雪かきはちゃんとされているし、人にぶつかるのに注意して歩けば大丈夫だと思うよ。後は僕が追手を引きつけて、姉さんの行く方とは反対の方向に逃げれば」

「ま、待って」

 姉は弟の言葉を遮る。

「あなたはわたしから追手を引き離すために、わざと囮になるつもりなの? そんな危ないことをして、あなたは大丈夫なの?」

 姉の不安そうな顔を見て、弟は肩をすくめる。

「僕は大丈夫だよ。姉さんの護衛だから。今までだって何度となくやってきたことさ。こういった危ない場面は慣れっこだよ」

「でも」

 姉はまだ躊躇っているようだった。

 弟は明るい声で語りかける。

「姉さんが僕を心配してくれるのはうれしいよ。でも、今はそれ以外に手がないんだ。このまま二人で逃げ続ければ、いずれは二人とも捕まってしまう。そうならないためにも、一人ずつ逃げる必要があるんだ。一人ずつ逃げれば、追手の目を惑わすことができる。姉さんも、そのことはわかるだろう?」

 弟に言われ、姉は黙り込んだ。

「そうよね。あなた一人の方が色々と動きやすいわよね」

 目の見えないわたしを連れて逃げるよりも、という言葉はかろうじて飲み込んだ。

 姉は悲しげに微笑む。

「気を付けてね、――。落ち着いたら、ちゃんとわたしに連絡してね。わたし、待ってるから」

 弟も目元を緩める。

「姉さんこそ、気を付けて」

 二人は笑い合い、別れた。

 それぞれの道に向かって歩き出した。

 冷たい風が吹きすさび、二人の髪を揺らしていった。

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