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姉と弟  作者: 深江 碧
十四章 悪夢
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悪夢11

 夜の闇の中に雪が降り続いていた。

 弟は部屋の窓から降り続く雪を黙って見つめていた。

 部屋の中では暖炉にくべられた薪が勢いよく燃えている。

 赤い炎が部屋の中を明るく、暖かく保っている。

「今夜は随分と降るな」

 相棒のワタリガラスが弟のベッドに寝そべったままつぶやく。

「そうだな」

 弟はカーテンを閉め、素っ気なく答える。

 ベッドを占領したまま動こうとしないワタリガラスは街頭で買ってきたらしい雑誌を読んでいる。

 今夜も弟の部屋に泊まって行くつもりらしい。

 その場合、弟は強制的に暖炉のそばのソファの上が寝床になる。

 そこも暖炉が燃えている間は暖かいが、夜明け近く薪が燃え尽きる頃には格段に冷える。

 出来れば暖かいベッドの中で眠りたいと思うのが弟の心境だった。

 暖炉のそばのソファと仕事用の寝袋は、部屋の明け方の寒さをしのぐほどには暖かくはない。

 かろうじて凍死しないで寝られる、といった程度だ。

 こう頻繁にワタリガラスが泊まり込むようでは、もう一つ布団を用意しておいた方がいいだろうか、と弟が考えるほどだ。

「お前は戻らなくてもいいのか?」

 弟のベッドでごろごろぐだぐだと寝転がっているワタリガラスを振り返る。

 このように特に寒い夜は、ワタリガラスも面倒臭がっていつものねぐらに帰ろうとしない。

 業を煮やした弟が、ワタリガラスのベッドに近付く。

「お前、いつまでここにいるつもりだ? 用が済んだらさっさと帰れよ」

 弟がいらいらとしてワタリガラスの顔を覗き込む。

 今夜ばかりは寒さで凍えるだけでは済まないかもしれない。

 いつも暖炉の薪はぎりぎりの分しか置いていない。

 部屋を暖めるとなると、夜明け頃の分までしかない。

 二人分の暖を取るのに十分な薪はないだろう。

 ワタリガラスは弟から顔を背けるようにして寝返りを打つ。

「大ガラスの親父と喧嘩したんだよな、俺」

 情けない声でぽそりと言う。

「何でまたそんなことに」

 問うとワタリガラスは寝返りを打ってじろりと弟を見つめる。

「誰のせいだと思ってんだ。お前が勝手な事ばかりするから、相棒の俺がとばっちり食ってんだろ」

 非難するような目を弟に向ける。

「大体俺前にお前に、財閥と姉ちゃんの件には首突っ込むなって言ってあるだろう。それなのにお前ときたら、姉ちゃんの居場所突き止めるし、黒鷲に喧嘩売ろうとするしで、後始末する俺の身にもなってくれよ。そのせいで俺がどれだけ苦労しているか、わからないお前じゃないだろう?」

 そこまで言われては、弟としても謝るしかない。

 肌身離さず胸元に入れているハンカチの上に手を当てる。

 そうしていると気持ちがいつもより穏やかになってくる。

「悪かった。お前には色々と迷惑を掛けていると思う」

「ホントにか? ホントにそう思ってるのか、白犬」

 ベッドから起き上がったワタリガラスが詰め寄ってくる。

 こういう時は相手の機嫌を損ねないのが肝心だ。

 ワタリガラスに姉のことで無理を言って情報を教えてもらっていることは自覚している。

「あぁ、いつもすまないと思っている」

「そうか」

 そこでようやく納得したのか、ワタリガラスはにんまりと笑う。

「だったらこれに付き合え」

 ワタリガラスはどこに隠し持っていたのか大きな酒の瓶と小さなグラスを取り出す。

 持っている酒は市販で売られている酒ではないようだった。

 ラベルも何も無いが、ワタリガラスのことだから裏で手に入れた密造酒かもしれない。

「ほら、今夜は飲むぞ~」

 ワタリガラスは栓を開けると、かなり強い酒の匂いが部屋に広がる。

 どうやらかなり度数の高い酒らしい。

 弟にグラスを渡して、ワタリガラスはそれぞれのグラスに酒を注ぐ。

 急に上機嫌になったワタリガラスを見て、弟は複雑な気持ちになりながらも、小さく笑う。

「少しだけだぞ」

 弟は椅子をベッドのそばに持って来て、そこへ座る。

 酒の注がれたグラスを合わせる。

 かちん、と澄んだガラスの甲高い音が響く。

 そんな二人を暖炉の炎が赤く照らし、窓の外では雪が降り続いている。

 弟はどこかで夜を過ごしている姉のことを脳裏に思い浮かべていた。

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