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姉と弟  作者: 深江 碧
十四章 悪夢
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悪夢7

 男は雪の降りしきる夜の闇の中にいた。

 白い雪は音をすべて吸い込み、厚く積もった雪の森の中からは物音一つ聞こえない。

 こんな闇の深い夜は、雪の野に住む動物たちでさえ息をひそめているようで、森の中は耳が痛いくらい静まり返っている。

 黒いコートをまとった男は、まるで闇に溶け消えるかのように音も無く気配も無く、そこに佇んでいる。

 男の見つめている先、森の木々の間からは赤い炎が見える。

 夜の闇を真昼のように明るく照らしている燃え盛る建物が見える。

 元は敷地の隅にある物置としての建物だったのだろう。

 その納屋は今は見る影もなく焼け落ちて、建物の骨組みの部分が炎の中にかろうじて残っているだけだ。

 赤い炎に包まれた納屋は白い煙を立ち上らせて辺りの雪を溶かしている。

 熱と炎にあぶられ、そこだけぽっかりと雪が溶け消えている。

「そろそろ頃合いか」

 男は風にも似た低い声でつぶやく。

 今頃は男がここまで連れて来た女が屋敷に侵入している頃だろう。

 恨みに思う女性を害しようと部屋に忍び込んでいるだろう。

 男の調べでそこまでの道筋に護衛が配置されていないことは確認している。

 女がよほどのへまをしない限りは、女性の部屋に辿り着けるはずだ。

 男にとっては連れて来た女のことも、その女が恨みに思っている女性のことも、どうでも良かった。

「役割は果たした。これで依頼主も満足するだろう」

 男にとってはここまで連れて来た女、元メイドの存在も、元メイドが恨みに思う姉のこともどうでも良かった。

 生きようが死のうが、特に興味を引かれなかった。

 ただ依頼主の望み通り、この屋敷の主の勢力に波風を立てられればそれでいい。

 それ以上のことは依頼主が望まなかった。

 この屋敷の主の実力を試して来い。それが男の依頼主の命令だった。

 男は燃える納屋を視界の隅に留め置き、雪の彼方にある屋敷の方角を見上げる。

 この屋敷に勤めていた元メイドの存在で、予想よりも大きな騒ぎになりそうだ。

 今頃はどんな騒動が起こっているのか。依頼主につぶさに報告できないのが残念だ。

「さて、お手並み拝見といこうか」

 男は微かに笑って、納屋のそばの林の中に姿を消す。

 現れた時と同じように足音も立てずに、闇の中に気配も無く掻き消えた。

 後には炎に包まれた納屋と、必死に火を消そうとする人々だけが残された。

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