悪夢4
吹雪の中、納屋の炎はまったく衰えを見せなかった。
現場で指揮をしていた中年の部下もその段階になって、ようやくこれが罠だと気付き始めた。
必死に消火に当たる部下たちを眺めながら、別のことに考えを巡らす。
(もしもこれが敵の誘導であるならば、現時点で手薄になった屋敷を襲うはず。それこそが敵の真の目的かもしれない)
中年の部下は現在のこの屋敷の警備状況を確認する。
(若のそばに部下を数人残してある。もし何かあれば報告が来るはずだが、部屋にいるオリガ様の元には誰もついていない。もしも敵の目的がオリガ様の命なら、これほど好都合なことは無いだろう)
考えるが早いか、中年の部下はきびすを返す。
「後は任せた」
部下たちにそう言い置いて、自分は屋敷へと足を向ける。除雪された小道を歩いていく。
歩いているうちに自然に足が速くなる。
最悪の状況が頭をよぎる。
それは外から屋敷を眺めた時に確信に変わる。
二階にある姉の寝室のベランダの窓ガラスが割られ、開け放たれている。風で白いカーテンが幽霊のように揺れている。
「私としたことが」
中年の部下は走り出す。
胸元の拳銃を引き抜き、安全装置を外す。
すぐに撃てるように準備をし、吹雪の中を白い息を吐き出して小走りに駆け抜けた。




