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姉と弟  作者: 深江 碧
十三章 それぞれの約束
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それぞれの約束20

 弟は叔父との夕食の席で、ホテルで捕えた黒髪の女性が逃げ出したと聞いた。

 叔父は部下たちの詰めの甘さを非難しながらも、弟の活躍は手放しでほめた。

「あの女に首謀者の名前を吐かせられなかったのは残念だが、お前の活躍は大したものだ。やはり私が見込んだだけのことはあるな」

 昨夜の弟の活躍を見ていた叔父は、夕食の席でも上機嫌だった。

「お前を雇えて、私はとても幸運だ。もしもあの時お前がいなければ、私の命は無かったかもしれない。お前にはいくら感謝してもし足りない位だ」

 得意そうに話し、叔父はナイフとフォークでステーキを切り分けかぶりつく。

 向かいに座る弟は黙々とステーキの添え物の野菜を切り分け、音も立てずに口に運んでいる。

「仕事ですから」

 弟は叔父の話に淡々と応じる。

 叔父はワインを片手に上機嫌で話し続けている。

「そんなに謙遜することは無いだろう。お前の護衛の腕前は折り紙つきだ。何と言っても、あの白豹の息子だからな」

 叔父の口から白豹の名が出たことで、弟の片眉が跳ね上がる。

 弟の胸に言いようのない暗い気持ちがわだかまる。

 叔父にはそれに気付かないようだった。

「お前の面差しはどことなく白豹に似ている。その銀色の髪も、目の色も。あぁ、もちろんお前の美しい容貌は私の若い頃そっくりだがな」

 叔父は上機嫌でワインを片手に笑っている。

 弟は何も言わない。

 自分の前に並べられた料理の数々を見ながら、押し黙っている。

 叔父は弟は一言も発さなくても、気にも留めないようだった。

 赤ら顔で弟の有能さを熱弁している。

「お前の母親の白豹も、それは優秀な護衛だった」

 そして時々弟の母親である白豹を話題に出した。

 弟はそんな叔父の話を聞きながら、黙々と食事を進めていた。

 母親である白豹の名前が出される度に、弟の胸の奥をざらりとした感触がよぎる。

 弟自身もその原因がわからない。

 白豹は弟が物心つく頃にはもう亡くなっていた。

 その後、組織の姉の伯母に引き取られ、育てられた。

 そんな母親を今更話題に出されても、弟には顔さえぼんやりとしか思い出せない。

 母親について弟が知っていることも少ない。

 夕食は滞りなく終わり、それぞれの部屋へと下がって行った。

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