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姉と弟  作者: 深江 碧
十三章 それぞれの約束
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それぞれの約束19

 姉の様子を物陰から見守っていた次男は、姉が温室から去るのを見計らって執務室に戻った。

 次男はすぐに中年の部下を呼ぶ。

「と言う訳で、お前は今からオリガの元へ行って、おれの良いところを話して来るように。そして彼女からすぐにでも婚約の承諾をもらってくるように」

 執務室に呼び出された中年の部下はまだ事態がよく呑み込めないでいる。

 目を白黒させながら尋ねる。

「どうして私にそのようなことを命じられるのでしょうか? そのようなことは、本来若とオリガ様との問題だと思うのですが」

 中年の部下の問いに、次男は肩をすくめる。

「わかってないなあ。おれの口から言うよりも、お前の口から言った方がオリガに信頼されるからに決まってるからだろう? おれが言葉を尽くしてどんなに説明しても、きっとオリガは納得しないだろう。だからお前の口からおれが信用できる人間だと説明して欲しいんだ」

「なるほど」

 中年の部下は考え込むように顎に手を当てる。

「つまり若はオリガ様にまったく信用されていないと、自分で仰るのですね」

「別にそうは言ってないさ。ただ今よりオリガと親密な関係になるためには、お前の力が必要だと言っているんだ」

「では若はご自分に自信が無いと仰るのですね? ご自分の口からオリガ様の信用を勝ち取る自信が無いと」

「いや、待て待て。そうは言っていないぞ。おれは別にオリガに好かれる自信が無い訳じゃないさ。ただ、お前の口から言った方が、オリガもより信用してくれると思っただけだ」

「つまり私をだしにして、オリガ様の信頼を得ようとお考えですか」

 中年の部下は溜息を吐く。

「いや、まあ、それは、そうとも、言うな」

 次男は口ごもり、中年の部下から視線を逸らし、あさっての方を向く。

 中年の部下は淡々と話す。

「つまり若は自信たっぷりにオリガ様に婚約を申し入れたものの、なかなか返事がもらえず、このまま断られるんじゃないかと恐れていると」

 次男は肩を震わせ、引きつった笑みを浮かべる。

「別にそこまで思っていないが。そうとも、言えるかもな」

 次男は見るからに狼狽している。

「つまり若はオリガ様がすんなりと婚約を受け入れてくれると、いくらか踏んでいたのですが、見事に外れたと仰るんですね。それで今になって不安になって、オリガ様の心を自分の方に引き寄せようと、私からの口添えを望んでいると」

 次男は何も答えない。視線を逸らし黙り込んでいる。

 付き合いの長い中年に部下にとって、このような次男の姿を見るのは珍しいことでは無い。

 社交的な性格とは裏腹に、本来次男はとても慎重な性格で、無謀な賭けはしない方だった。

 今回の姉への婚約の申し出も、いくらかの勝算があってのことだと次男は踏んでいたはずだ。

 それがなかなか姉から承諾の返事がもらえず、いい加減心配になって来たと言うのだろう。

 中年の部下は溜息を吐く。

「やれやれ、わかりました。若の頼みとあらば、お引き受けいたしましょう。ただし、今日は別の屋敷へ移る準備がありますので、明日でもよろしいでしょうか」

 その一言で、次男の顔がぱっと明るくなる。

「ありがとう、イーゴリ。やっぱりお前は頼りになるなあ」

 次男は感極まった笑顔で中年の部下を見つめる。

「やれやれ、若の詰めの甘さには、いつも苦労させられますね」

 中年の部下は渋い顔で小さく溜息を吐いた。

 口元は穏やかに笑っていた。

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