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姉と弟  作者: 深江 碧
十三章 それぞれの約束
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それぞれの約束16

 姉は温室への道を人に会わないように、凍った雪に滑らないように注意しながら歩いていた。

 足音が聞えれば、道の隅の柱の影に隠れ、足音が去るまでやり過ごした。

 そんな行動は、傍から見れば物凄く怪しい行動だろう。

 幸いにして、今のところは部屋からここまで人に見咎められないでいた。

 先程は若いメイドがいて次男の話を庭師から聞くことが出来なかったが、姉はどうしても若いメイド以外から話を聞きたかった。より広い意見が聞きたかった。

(あの時はマリアさんがいたから駄目だったけど、庭師の方と一対一ならアレクセイ兄さまのことを聞くことが出来るかもしれない。一対一だったら話してくれるかもしれない)

 姉ははやる気持ちを抑え、若いメイドの目を盗んで温室に向かっている。

 姉の部屋では今頃若いメイドが姉の姿が無いことに気付き、探しているかもしれない。

 部屋には置手紙をしてきたから大丈夫、と思いつつ、あんなことがあった直後で心配しているかもしれない、と思う。

 若いメイドの立場を思いやり、次男のことを聞いたら姉はすぐに自室に戻るつもりでいた。

 温室に着くと、姉は庭師の姿を探して温室を歩き回る。

 幸いにして何度も温室内を歩き回ったおかげで、目の見えない姉でも大よその道はわかっている。

 温室の中央近くで庭師が鼻歌を歌いながら作業している物音が聞こえる。

 姉が話しかけようとした直後、温室の扉が開く音が聞こえる。

「オリガ様、どちらにいらっしゃるのですか?」

 若いメイドの声が温室内に響き渡る。

 姉は慌てて隠れる場所を探す。

 ここでメイドに見つかってしまっては、わざわざ人目を忍んで温室にやってきた意味が無くなってしまう。

(と、とりあえず、マリアさんに見つからないように、どこかに隠れなきゃ)

 姉は慌てて近くの植木の下に隠れる。

 幸いにしてそこは常緑樹の低木が生い茂り、その青々とした葉で潜り込んだ姉の姿をすっぽりと隠してくれた。

「オリガ様? オリガ様、どちらにいらっしゃるのですか?」

 足音を立てて若いメイドが温室の小道を歩いてくる物音が聞こえる。

 メイドの声に気が付いたのか、庭師の声がそれに応じる。

「おおい、どうしたんだい」

「あっ、こちらにオリガ様が来ませんでしたか? さっきからお部屋にいなくて、あちこち探しているところなんです」

「さあて、見てないねえ」

 庭師の反応に、若いメイドは落胆した声で答える。

「そうですか」

 若いメイドの足音が遠ざかっていく。

 扉から出て行く音がして、温室内は再び静まり返る。

「さて、仕事の続きをするか」

 庭師はそう言って、また土を耕す音が聞こえてくる。

 若いメイドの気配が感じられなくなったのを見計らって、姉はそろそろと低木の下から這い出す。

 コートについた土や枯草を払う。

 黒髪にも小枝や葉っぱが絡まってしまう。

(きっとこんな姿を見られたら、またマリアさんに怒られるんだろうな)

 溜息一つ。姉は気にしないようにして、庭師のいる方へと歩いていく。

 庭師はざくざくと土を耕して、姉には気付いていないようだ。

「あの、すみません。少しよろしいでしょうか」

 姉は背を向ける庭師に話しかける。

 庭師は振り返り、姉の姿に気が付くと、驚いた声を上げる。

「オリガ様、どうしてここに? 先程、あなたを探しに来ただよ?」

 驚いた様子の庭師に、姉は困ったような笑みを向ける。

「い、今はマリアさんに見つかる訳にはいかないんです。それについては後でマリアさんにわたしの方から謝っておきます。それで、実はあなたにお願いがあってですね」

「お願い? それは、いったい」

 庭師はますます驚いた声を上げる。

 その素直な反応に、姉の方が恐縮してしまう。

「そ、そんな、大したお願いでは無いんです。ただ、アレクセイ兄さまのことを教えて欲しいと思ってですね」

「アレクセイ様の?」

「はい、アレクセイ兄さまのことです。事情を詳しく話すと長くなるのですが」

 この際隠しても仕方が無いような気がして、姉は庭師に次男に婚約を申し込まれたことを包み隠さず話して聞かせた。

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