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姉と弟  作者: 深江 碧
十三章 それぞれの約束
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それぞれの約束6

 元メイドは憤慨していた。

 雪の積もった大通りを大股で歩いていく。靴が石畳に当たってかつかつと甲高い音を立てる。

(どうして私が追い出されなきゃいけないのよ。みんなあの女のせいじゃないの。どうして私がこんな目に遭うのよ。みんなあの女のせいだわ)

 元メイドが問題を起こして寄宿学校を中退になった時も、自分は悪くないと言い張った。

 自分は被害者だ。自分を貶めた周囲の人間が悪いのだと。

 しかしその言葉は誰にも聞き入れられなかった。かくして彼女は寄宿学校を後にした。

 元メイドは列車の駅へと向かう足を緩める。目の前に大きな駅の建物が見える。

(どうしていつも私ばかりこんな目に遭うの。アレクセイ様はあの女に騙されているのに。あの女がすべての元凶なのに)

 足を止め、元メイドは駅の大きな建物を見上げる。肩から下げた鞄を背負い直す。

 頭をよぎるのは、屋敷を出るときに次男が最後に言った言葉。

「紹介状を書こう。君には田舎にある屋敷に行ってもらう」

 次男はそう言って元メイドに他の屋敷への紹介状を手渡した。

 頭には白い包帯を巻いて痛々しく、その表情を暗かった。

 わずかにうつむき、金色の髪が顔に落ちて影を作っていた。深緑色の瞳は憂いに満ちていた。

 元メイドは次男のその胸中を思って、何も言わなかった。

 大人しく紹介状を受け取った。

 口に出さなくてもわかる。次男はまだ自分のことを好きなのだ。彼女のことを憐れんでいる。

 それなのにあの女のいるせいで、自分に暇を出さなくてはならない。好きな自分と別れなくてはならない。

 それもこれもみんなあの女のせいだ。あの女がいるからこんなことになるのだ。

(あの女がいなければ、私はこんな目に遭わなかったんじゃないの? あの女のせいで、私は人生を狂わされたんだわ。あの女のせいで)

 元メイドは姉を思い出すだけでもはらわたが煮えくり返る。

 決してあの時、次男が姉をかばって怪我を負ったことや、自分が怒りに駆られて殴り掛かったことなど、自分にとって都合の悪いことはきれいさっぱり忘れている。

 そんな冷静な判断が出来るくらいなら、そもそもあんな突発的な行動はしなかっただろう。

 寄宿舎を追い出されることも、次男の屋敷から去ることもなかっただろう。

(あの女がいなければ)

 元もメイドが怒りに駆られながら、列車の駅の前で立ち尽くしていると、すぐそばに音も無く男が佇んでいた。

 男は彼女に声を掛ける。

「お前はアレクセイ・ユスポフの屋敷に仕えていた者か?」

 それは次男の名前だった。

「だったら何」

 彼女は不機嫌に男を振り返る。

 男は頭からつま先まで黒一色の服装をしていた。

 気味の悪い男だ。

 元メイドは男を訝しく見つめる。

 男は口元に笑みを浮かべ、元メイドにある魅力的な提案をした。

「お前に協力を頼みたい。もしこれが成功すれば、地位も財産も想い人の愛情も、お前はすべてを手に入れることが出来るだろう」

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