過去そして現在23
彼に対してどう接すればいいのかわからなくなる。
(わたしは、どうすればいいのだろう)
いくら考えても一向に答えが出そうにない。
姉は近くのワイン樽にその身を預ける。
しかしその先にあると思われたワイン樽はそこには無かった。
「きゃ」
姉は埃っぽく冷たい石畳の上に倒れる。
両手をついて体を支える。
手を伸ばしてかろうじて体を支えたが、かじかんだ指からは何かに触れたと言う感触だけで、冷たい石畳の固さは感じられない。
「ど、どうして」
姉は石畳の上に座り込み、両手をその先に伸ばす。
驚いてワイン樽の棚に手を伸ばしたが、そこには樽一つ分の隙間が空いている。
何もない空間を手探りする。
そこまで整然と並べられていたワイン樽が、その部分だけ無い。
人一人がかろうじて通れるほどの隙間。
今まで整然と並んでいた酒樽にしては、その隙間は妙に不自然に思える。
姉は寒さも感じなくなった頭でぼんやりと考える。
(どうしてこの場所だけワインの樽が無いのかしら)
四つん這いになってワイン樽の置かれていないその空間に近寄る。
手探りにもっとよく調べてみる。
(もしかして、奥に何かあるのかしら)
姉の胸にわずかな希望が灯る。
(この先に出口があるかもしれない)
今まで諦め疲れていた気力と体を奮い起こす。
四つん這いになってさらにその先へと進んでいく。
これ以上この場所に留まっていても仕方がないと思った姉は、這うようにしてワイン樽の隙間へと入っていく。
クモの巣を掻き分け、周囲の様子を慎重に探りながら進んでいく。
しばらくして壁へとぶつかる。
その先はちょっとした空洞になっていた。
姉の望むような出口の扉は無く、三方を壁に囲まれている。
溜息が唇からもれる。
わずかな落胆が胸に押し寄せてくる。
(やっぱり出口なんて無いのかしら。わたしはここから出られないのかしら)
折角奮い立った気力が急速に萎えて行く。
姉は痛めた足首をかばうようにして座り、背中を壁にもたせ掛ける。
(それはそうよね。あの人はこの屋敷のことを、わたしよりもよく知っているはずだもの。この部屋に出口が無いから、ここにわたしを閉じ込めたのよね)
暗い気持ちがまた舞い戻ってくる。
そんな時、空気の流れを感じた。
手を置いたところ、壁のすぐそばから微かに風が吹いてくる。
(何かしら)
姉は慎重に壁に触れ、様子を確かめてみる。
すると壁に、人一人がやっと通れそうなくらいの裂け目が開いている。
(ここは、この部屋の外に通じているの?)
姉は耳を澄ましてみたが、かすかに聞こえる風の音以外、何も聞こえなかった。
(この裂け目は外に通じているかもしれない。でももしかしたら、途中で行き止まりかもしれない)
姉はしばし考え込む。
(でも、賭けてみる価値はあるわ。もしも行き止まりだった、また戻ってくればいいだけだもの。その時に考えればいいことよね)
姉は意を決して、壁の裂け目に手を差し入れる。
裂け目へと体を押し込む。
ドレスが汚れるのも構わず、すり傷が出来るのも気にせず、足首が痛むのも我慢して、壁の奥へと進んでいった。




