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姉と弟  作者: 深江 碧
十二章 過去そして現在
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過去そして現在23

 彼に対してどう接すればいいのかわからなくなる。

(わたしは、どうすればいいのだろう)

 いくら考えても一向に答えが出そうにない。

 姉は近くのワイン樽にその身を預ける。

 しかしその先にあると思われたワイン樽はそこには無かった。

「きゃ」

 姉は埃っぽく冷たい石畳の上に倒れる。

 両手をついて体を支える。

 手を伸ばしてかろうじて体を支えたが、かじかんだ指からは何かに触れたと言う感触だけで、冷たい石畳の固さは感じられない。

「ど、どうして」

 姉は石畳の上に座り込み、両手をその先に伸ばす。

 驚いてワイン樽の棚に手を伸ばしたが、そこには樽一つ分の隙間が空いている。

 何もない空間を手探りする。

 そこまで整然と並べられていたワイン樽が、その部分だけ無い。

 人一人がかろうじて通れるほどの隙間。

 今まで整然と並んでいた酒樽にしては、その隙間は妙に不自然に思える。

 姉は寒さも感じなくなった頭でぼんやりと考える。

(どうしてこの場所だけワインの樽が無いのかしら)

 四つん這いになってワイン樽の置かれていないその空間に近寄る。

 手探りにもっとよく調べてみる。

(もしかして、奥に何かあるのかしら)

 姉の胸にわずかな希望が灯る。

(この先に出口があるかもしれない)

 今まで諦め疲れていた気力と体を奮い起こす。

 四つん這いになってさらにその先へと進んでいく。

 これ以上この場所に留まっていても仕方がないと思った姉は、這うようにしてワイン樽の隙間へと入っていく。

 クモの巣を掻き分け、周囲の様子を慎重に探りながら進んでいく。

 しばらくして壁へとぶつかる。

 その先はちょっとした空洞になっていた。

 姉の望むような出口の扉は無く、三方を壁に囲まれている。

 溜息が唇からもれる。

 わずかな落胆が胸に押し寄せてくる。

(やっぱり出口なんて無いのかしら。わたしはここから出られないのかしら)

 折角奮い立った気力が急速に萎えて行く。

 姉は痛めた足首をかばうようにして座り、背中を壁にもたせ掛ける。

(それはそうよね。あの人はこの屋敷のことを、わたしよりもよく知っているはずだもの。この部屋に出口が無いから、ここにわたしを閉じ込めたのよね)

 暗い気持ちがまた舞い戻ってくる。

 そんな時、空気の流れを感じた。

 手を置いたところ、壁のすぐそばから微かに風が吹いてくる。

(何かしら)

 姉は慎重に壁に触れ、様子を確かめてみる。

 すると壁に、人一人がやっと通れそうなくらいの裂け目が開いている。

(ここは、この部屋の外に通じているの?)

 姉は耳を澄ましてみたが、かすかに聞こえる風の音以外、何も聞こえなかった。

(この裂け目は外に通じているかもしれない。でももしかしたら、途中で行き止まりかもしれない)

 姉はしばし考え込む。

(でも、賭けてみる価値はあるわ。もしも行き止まりだった、また戻ってくればいいだけだもの。その時に考えればいいことよね)

 姉は意を決して、壁の裂け目に手を差し入れる。

 裂け目へと体を押し込む。

 ドレスが汚れるのも構わず、すり傷が出来るのも気にせず、足首が痛むのも我慢して、壁の奥へと進んでいった。

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