表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姉と弟  作者: 深江 碧
十一章 あなたに出来ること、わたしに出来ること
123/228

あなたに出来ること、わたしに出来ること6

「久しぶりだね、義兄さん」

 長男の執務室を訪れたのは、財閥総帥に就任する四男だった。

 総帥就任式こそまだだったが、来月にお披露目もかねて盛大なパーティーが予定されている。

 四男の周りには黒服の男たちが数人取り囲んでいる。

 一方の長男の執務室にも、秘書の他に拳銃を腰に下げた部下たちが集まっている。

 長男は執務室の机の前で書類から目を離さずに答える。

「何の用だ」

 その口調は淡々としている。

 長男の声からは何の感情も読み取れない。

 鋭い灰色の瞳は書類の字面を追っている。

 四男は肩をすくめる。

「何の用だ、とは冷たいなあ。わざわざ義兄さんに会いに来てあげたのに」

 嫌味っぽく言う。

 長男は書類にサインをして、執務室の傍らに立っている秘書に書類の束を手渡す。

「仕事の邪魔だ。帰れ」

 秘書は長男と四男のそばをそそくさと通り抜ける。

 一礼して執務室から出て行く。

 四男は断りもせずに、机の傍らにある来客用のソファに腰かける。

 にやにやと笑っている。

「そういえば、義兄さんはアレクセイの奴を取り逃がしたようだね」

 書類に向かっていた長男は、文字を書いていた手を一瞬だけ止める。

「ボク知ってるんだよ? 義兄さんが、アレクセイの奴を目障りで仕方がないことを。あいつを何度も潰そうとしているのに、その度に失敗していることを」

 長男はさらさらと文字を書き続けている。

「何が言いたい?」

 長男は顔を上げずに問い返す。

 四男はソファにもたれかかる。

「別に。ただ義兄さんも、あいつのことであんまり失敗していると、義兄さんの面目が丸つぶれだなあ、と思って」

 にやにやと笑っている。

 長男は書類から目を離さない。

 まるで四男がそこにいないかのように仕事を続けている。

 それが気に入らなかったのか、四男はソファで大きく伸びをする。

「あ~あ、つまらないなあ、義兄さんは。からかいがいが無くて嫌になっちゃうよ」

 長男はそれさえも無視し続けている。

 四男は不機嫌そうに唇を尖らせる。

「義兄さんが何も手を出さないなら、ボクがアレクセイの奴と遊んじゃうよ? それでもいいの? ボクはね、来月の父さんの誕生パーティーとボクの財閥総帥就任式の時に、ボクの権力を使って、あいつを財閥から追放してやろうと思ってるんだよ?」

 長男の手が止まる。

 それでも書類に目を落としたままだ。

 四男は楽しそうに話し続ける。

「もちろん義兄さんが何かしたいなら、ボクは手は出さないでおいてあげるけどさ。義兄さんが何もしないというなら、ボクがあいつを殺してしまうかもしれないけれど、本当にいいの?」

 四男は長男に問い掛ける。

 長男は淡々とした口調で言う。

「勝手にしろ」

 四男は肩をすくめ、ソファから立ち上がる。

「わかった。義兄さんがそう言うなら、ボクは勝手にするよ。ただ、後で文句を言われても、ボクは知らないからね」

 四男はぺろりと舌を出して、数人の部下と共に長男の部屋から出て行く。

 長男は書類を隅に置き、机の上にある電話に手を伸ばす。

 受話器を持ち上げる。

 番号を押すと、秘書の女性が出る。

「セルゲイ様、何の御用でしょうか」

 長男は灰色の瞳に怒りを宿す。

「黒鷲をこの部屋に呼べ。頼みたいことがある」

 長男は彼にしては珍しく怒りを表に出し、押し殺した口調でつぶやいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ