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姉と弟  作者: 深江 碧
十一章 あなたに出来ること、わたしに出来ること
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あなたに出来ること、わたしに出来ること3

 叔父の屋敷に戻った弟は、姉が無事であったことにひずまず安堵した。

 病気でふせっているものの、姉の無事な姿が見られて弟は喜んだ。

 次男の元にいれば、いずれは姉の体調も回復するだろう。

 今の自分に出来ることは、他の勢力の動きを把握すること。

 もしも姉の身に危険が及びそうになれば、真っ先に危険を知らせることだった。

 組織の命令で叔父の警護から離れることは出来ないが、長男や四男の勢力には常に目を光らせていた。

 姉の無事が確認できて、肩の力が抜けたのだろう。

 弟はいつになく上機嫌で、叔父と共に朝食の席に着いた。

 叔父はそんな弟の様子を見て、目を丸くする。

 口には出さないが、弟の顔を珍しそうに眺めている。

 黙々と朝食のクロワッサンをちぎっては口に運んでいる。

「そういえば、今夜は財閥内の社長たちとの会合があって、お前にそこの警護を任せたいのだが」

 叔父は言いにくそうに弟に話す。

 弟が自分を嫌っていることを知っているため、叔父としては出来るだけ機嫌を損ねないようにするのが精一杯だった。

 かつては自分の息子達である長男と四男の指示で、姉弟の命を狙ったのだ。

 そんな簡単に自分の罪を弟が許してくれるとは思わなかった。

「出来れば、会場内で私のそばについて警護をしてもらいたいのだが」

 今までの弟の態度を考えれば、叔父のそばでの警護など、絶対に嫌だと言うに決まっている。

 下手をすれば、警護自体を拒否するかもしれない。

「どうだろうか? デニス」

 それを踏まえての頼みだった。

 叔父は恐る恐る尋ねる。

 姉の無事が確認できて上機嫌だった弟は、あっさりとそれを承諾する。

「わかった。今夜は会場内での警護だな。お前のそばで警護すればいいんだな?」

 ジャガイモのスープをスプーンですくい、静かに口に運んでいる。

 叔父は驚いた顔をする。

「い、いいのか?」

 声が裏返ってしまう。

 弟はいぶかしく思ったのか、じろりと叔父を見る。

「いいも何も、仕事なのだろう? 僕の仕事はお前の警護だからな。いいも悪いも無いだろう」

 そう言って、弟は湯気の立つジャガイモのスープを口に含む。

 なめらかな舌触りと、甘い味わいが口に広がる。

 叔父に聞こえないように心の中でつぶやく。

(良い料理人を雇っているな。このスープ、姉さんにも食べさせてあげたいな)

 姉のことを思い出すと、弟の顔に自然に笑みがこぼれる。

 穏やかな表情を浮かべる。

 そんな弟を、叔父は目を丸くして眺めている。

 弟がスープから顔を上げたのを見て、すぐに目を逸らす。

「そ、そうだな。では、頼んだぞ」

 叔父は再び朝食に戻る。

 弟の方を出来るだけ見ないようにする。

 叔父の顔にはうれしそうな笑みが浮かんでいる。

 広い食堂に二人が食事をとる、器と金属のすれる音が響く。

 二人はそのまま一言も発せず、朝食を終えた。

 それぞれの仕事へと向かった。


 *


 決まった自分の屋敷を持っている叔父の他の三人の兄弟に比べて、次男だけは定まった屋敷を持たなかった。

 財閥の管理する百近くの屋敷を、転々と移動していた。

 次男が屋敷を変える理由は、長男や四男、敵対する者たちの追手を欺くことが目的だった。

 そのため他の兄弟が自分の屋敷に大勢の使用人を雇い、屋敷を豪華に造り替えているのに対して、次男だけは最小限の使用人たちと荷物、大勢の護衛を連れて、常に屋敷を移動していた。

 特に姉の両親が亡くなり、長男と何かとぶつかることも多くなり、次男は以前よりも頻繁に屋敷を移動した。

 長男の追手を巻くために、今までも次男はそうしてやり過ごしていた。

 そのため、屋敷を引き払うのは手慣れたものだった。

 そして人目を避けるため、追手の目をそらすために、何台かの車に別れて夜のうちに移動し、時間を掛けて次の目的地へと向かう。

「今回は病気のオリガがいるから、暖房設備のしっかりした屋敷がいいね。それに庭や温室なんかもあると最高だね」

 次男はあらかじめ目を付けておいた屋敷を次の目的地とし、何度も車を乗り換え、その屋敷へと向かった。

 姉の病状を常に気にかけ、居心地の良いように心を配った。

 そのため姉の体調が悪化することは無く、目的地の屋敷に着いた。

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