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姉と弟  作者: 深江 碧
十一章 あなたに出来ること、わたしに出来ること
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あなたに出来ること、わたしに出来ること1

 白蛇に聞いた情報と、ワタリガラスに無理矢理吐かせた情報、今までに得た情報で次男の屋敷を割り出し、弟はそこにたどり着いた。

 屋敷のそばの高い建物から、そこに出入りする人の動きを観察していた。

 建物の頂上の影から、使用人たちの行動を見て、おおよその部屋の配置と人の配置を割り出す。

 車の動き、人の動きなどを見ていると、そこに住む住人の行動がわかってくる。

(姉さんは、きっとあそこにいる)

 弟は長年の経験と勘から、姉のいる部屋を割り出した。

 日が暮れるのを見計らって、雪の降り積もる門を越え、屋敷の庭に侵入する。

 音を立てないように、足跡を残さないように注意して行動する。

 長年の仕事柄、そういったことは得意だった。

 弟は姉のいると思われる部屋の下にたどり着くと、小石を拾って窓に向かって投げつける。

 もしかすると、姉が自分に気付いてくれるかもしれない。

 窓を開けて、顔を出してくれるかもしれないという、ほのかな期待もあった。

 しかし姉の部屋は厚いカーテンがかかったまま、明かりも灯らない。

 今夜は風が強く、雪も降っているため、物音に気付かなかったのかもしれない。

 眠っているのかもしれない。

 弟は姉が今現在どうしているのか、まったく知らない。

せめて姉の無事な姿を確認しようと思い、屋敷の壁をよじ登る。

 部屋のベランダにたどり着く。

 窓の扉は鍵が掛かっていたが、鍵も単純な造りだった。

 鍵を開錠し、少しだけ窓を開け、厚いカーテンの隙間から部屋の様子を探る。

 カーテンが揺れて、部屋の暖炉の赤々と燃える炎と、その光に照らされた部屋の様子がぼんやりと見える。

 部屋には天蓋付きの大きなベッドが置いてあった。

 その中央に黒髪の女性が横たわっている。

「姉さん?」

 弟は小さな声で呼びかけてみたが、彼女は反応しなかった。

 窓の扉を閉めて、部屋の物音に耳を澄ますと、暖炉の薪の燃える音に混じって、彼女の苦しげな息遣いが聞こえる。

 弟は足跡を絨毯に残さないようにして歩き、彼女のいるベッドへと近付く。

 ベッドのそばのテーブルの上には、薬の袋やタオルや水差しなどが置かれている。

 たった今まで人のいた気配がする。

 おそらくついさっきまで彼女を看病していた者がいたのだろう。

 その者が今は部屋を出ているのだろう。

 弟は部屋の様子から、そう推測する。

 ベッドに横たわる姉も、赤い顔で苦しそうにしている。

「姉さん」

 弟は眠っている姉に呼びかける。

 その額に手を伸ばす。

 姉の額に触れると、火のように熱かった。

 どうやら高熱でうなされているらしい。

 きっと弟と別れてから、姉は体調を崩してしまったのだろう。

 無理もない。

 ずっと逃げるために気を張って来たのだろうから。

 今になって疲れが出たのかもしれない。

 弟はしばらくの間、暖炉の炎に照らされる姉の寝顔を眺めていた。

 この屋敷にいる以上は、姉の身柄を預かっている次男が色々と面倒を見てくれるだろう。

 手厚い看病があれば、姉の体調もいずれ回復するだろう。

 体調の悪い姉を、今無理に連れ出すのは得策ではない。

 隣国に連れ出すのは、姉の体調が回復してからにした方がいいだろう。

 弟は姉の体調が悪いのを見て、ひとまずこの屋敷から連れ出すことを諦める。

 ひとまず姉の無事を確認して、胸のつかえが取れた様な気がする。

 弟は姉に顔を近付け、そっとささやく。

「じゃあね。また来るよ、姉さん」

 そう姉に声を掛けると、弟は部屋から出て行った。


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