バッドエンド3-7
「そう、オリガさんは死んだんだ」
老執事がようやく長男から銃で受けた傷が塞がった頃、三男はその知らせを聞いた。
「御苦労だったね、黒鷲。下がっていいよ」
「はい」
黒鷲と呼ばれた男は、部屋から出て行く。
老執事は不安そうな様子で、部屋から出て行く黒鷲を見送る。
車椅子の三男に話しかける。
「フェリックス様、今の情報をどう思われますか?」
三男は車椅子の向きを老執事のいるベッドへと向ける。
「恐らく本当のことだと思うよ?」
淡々とつぶやく。
「では、やはりオリガ様は亡くなられたのですか?」
三男は小さくうなずく。
「亡くなった原因はわからないけれど、きっとそうだろうね」
老執事は言葉を失う。
青白い顔でうつむいている。
三男は静かに息を吐き出す。
「厄介なことになったね。兄さんは、きっとオリガさんの死をきっかけに、本格的にセルゲイ義兄さんに宣戦布告をするよ。財閥の後継者争いは、ますます激化するだろうね」
その言葉に、老執事は聞き返す。
「フェリックス様は、どうしてそう思われるのですか? どうしてアレクセイ様がセルゲイ様に宣戦布告などをすると」
三男は静かに言い放つ。
「だってぼくは兄さんの性格をようく知っているからね。兄さんが、セルゲイ義兄さんとグレゴリーに並々ならぬ憎しみを抱いていることを知っているからさ」
三男の青い瞳が揺れる。
窓の外の春の穏やかな景色に目を留める。
屋敷の庭からは鳥のさえずる声が聞こえてくる。
「二人に手を出す以上は、兄さんもただで済むはずが無い。きっと財閥全体を巻き込む、ひどい争いになると思うよ」
三男はまるで他人事のようにつぶやく。
春の明るい光に青い目を細める。
明るい光の満ち溢れる空の彼方に、灰色の雲が迫っているのに気が付く。
春の嵐が迫っているのに気が付く。
「ぼくは、しばらく外国に療養に出ることにするよ。そして一年以上は戻って来ないつもりさ。そして財産も権利も、大半のものは捨てていく。人間、命あってのもの種、と言うだろう?」
車椅子の三男は窓から視線を外し、老執事を振り返る。
穏やかに笑っている。
老執事はそれを見て、打ちのめされたような面持ちで答える。
すべてを諦めきっている三男に、せめてもの言葉をかける。
「僭越ながら、わたくしめもお供いたします」
三男は笑顔のままうなずく。
「うん、そう言ってくれると助かるな」
明るい空に見る見る黒雲が広がり、春の嵐がそこまで迫っていた。
バッドエンド3 おわり




