あなたの本当の気持ちを教えて下さい11
一人の若い女性が薄暗い路地を歩いていた。
女性は人目を避けるように帽子を目深にかぶり、首に青いマフラーを巻いて、赤いコートをまとい足早に歩いている。
薄暗い路地のあちらこちらには目付きの悪い男たちが佇んでいる。
若い女性はそんな男たちには目もくれず、路地のある扉の前で立ち止まる。
それを見た路地の男が、背を向ける若い女性に声を掛ける。
「そこに何の用だい、お嬢ちゃん?」
別の男も女性に近寄ってくる。
「お嬢ちゃんみたいなのは、こんな場所には用はないはずさ。さっさとお家に帰りな」
男たちが薄ら笑いを浮かべて若い女性の周囲に集まってくる。
若い女性は帽子を目深にかぶっているために表情はわからなかったが、不機嫌そうな声で答える。
「うるさいおっさん共ね。新しい毒の実験台にされたいの? あたしは黒蛇姉様に用があるのよ。さっさと中の奴に連絡して扉を開けさせなさいよ」
帽子の奥から青い鋭い瞳がのぞく。
男たちは若い女性の冷淡な青い瞳に凍りつく。
「も、もしかして、お前、隣国の組織の人間か?」
男の一人が震える声で尋ねる。
「だったら何よ」
若い女性はぶっきらぼうに答える。
男たちはその返答は聞いて震え上がる。
お互いに顔を見合わせる。
「わ、わかった。少し待っててくれ」
男の一人が扉の前に進み出て、扉の中に向かって何事かささやく。
扉が内側から開かれる。
「これでいいだろう?」
若い女性はふんと鼻を鳴らす。
「早くそうすればいいのよ」
扉の奥の暗い階段を靴音を響かせて降りていく。
地の底まで続いていそうなその階段を、若い女性は降りていく。
やがて階段が途切れ、その先に一つの扉が見える。
若い女性はその扉の前に立ち、辺りを見回す。
扉に罠が仕掛けられていないか確認する。
「開いているよ」
中から女性の声が聞こえてくる。
「罠も扉には特に仕掛けていないから、遠慮なく入って来なさい、白蛇」
白蛇と呼ばれた若い女性は躊躇わず扉を開ける。
部屋の中は酒場のようになっていて、カウンターに年老いた男と若い女性がいるだけだった。
白蛇は扉を閉じて、目の前の若い女性、黒蛇を見据える。
二人のいるカウンターへと歩いていく。
椅子の一つを引いて、そこに腰かける。
帽子やコート、マフラーを脱いで、隣の椅子の上に置く。
次男と別れた後、白蛇も黒蛇も情報収集や陽動作戦のためにそれぞれに動いていた。
そもそも四男に長男の部下が潜り込んでいるという情報を流したのも彼女らだった。
その後、次男が姉を連れて無事に屋敷に帰りつくことが出来たのも、彼女らが動いたからと言っても良かった。
「お帰り、白蛇」
酒のグラスを傾けるに黒蛇に、白蛇は金色の長い髪をかきあげる。
「聞いてよ、姉様! 白犬の所在をようやく調べて行ったんだけど…」
白蛇は黒蛇に白犬のいる屋敷へ行った時のことを話し出す。
姉の護衛を任されていたのは、彼女の義弟である白犬だった。
白蛇は白犬にせめて姉の生存だけは知らせておこうと考えたのだ。
そのため白蛇は白犬の居場所を突き止め、彼を訪ねたのだった。




