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姉と弟  作者: 深江 碧
十章 あなたの本当の気持ちを教えて下さい
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あなたの本当の気持ちを教えて下さい7

 部下の報告を受けて、長男が向かった先は四男のいる財閥総帥の執務室だった。

 総帥の椅子には四男が座っている。

 執務室には他に四男の部下が数人、後ろ手に縛られて血まみれの男が床に座っている。

「やあ、義兄さん、久しぶりだね」

 長男が部下と共に執務室に駆け込んできたのを見た四男はにっこりと笑う。

「今日は義兄さんに確認したいことがあって呼んだんだ。この男のことだけど」

 血まみれで床に座る男をあごで示す。

「そいつがボクの周りを調べ回っているようだったから、捕まえて尋問したんだ。そうしたら義兄さん名前を出したから驚いちゃってさ。こうして忙しい義兄さんを呼んだってことさ」

 四男は人懐っこい笑みを浮かべ、面白そうに話す。

 その場にいた長男の部下たちは、血まみれの男の痛々しい様子に顔をしかめる。

 四男の話す尋問、とは、拷問と同じ意味だった。

 血まみれの男は体の至る所に傷があり、殴られたためか顔のあちこちが腫れ上がっている。

 見るからに痛ましい様子に、長男の部下たちは見ていられないようだった。

「こいつ、義兄さんの部下だろう? 義兄さんがボクの周りなんか調べさせて、どうするつもりなのかな?」

 四男は笑顔で率直に聞いてくる。

 一方の長男はいっさい表情を変えない。

 冷たく言い放つ。

「そんな男は知らないな。お前の勘違いじゃないのか」

 長男はにこりともしない。

 黒い撫でつけた髪と灰色の鋭い瞳。

きっちりと着こなしたしわ一つないスーツ姿で、微動だにしない。

血まみれの男の素性を知る長男の部下たちは、皆驚いた顔をする。

その男は、長男に長年仕えてきた男だ。

今回だって長男に命じられて四男の行動を調べて、つぶさに報告していた。

どうして長男が長年仕えてきた男を見捨てるようなことを言うのか、部下たちはその真意を測りかねているようだった。

「ふうん、そうなんだ」

 四男は面白くなさそうだった。

 勘違い、と言われたことに、多少腹を立てているようだった。

 折角、長男の鼻を明かせる貴重な機会を失ってしまった、悔しさもあるようだった。

「じゃあ、この男が出した義兄さんの名前は、まったくの出まかせなんだ」

「そう言うことだ」

 長男に淡々と言われて、四男は黙り込む。

ずっと黙っている血まみれの男を冷たく一瞥する。

 ふっと息を吐き出す。

「じゃあ、こんな嘘吐きの男、もう殺してもいいよね?」

 四男は長男に無邪気に笑いかける。

「あれだけ拷問しても、これ以上の情報は吐かなかったしね。そろそろボクも我慢の限界なんだよね。義兄さんが無関係だと言うのなら、きっとそうなんだろうね」

 恐ろしいことをさらりと口にする。

 長男は眉一つ動かさない。

「そうか。ならば、私が処理しておこう」

 長男はあくまでも冷淡だった。

 懐から拳銃を取り出し、男の頭に向ける。

 それは先程三男の屋敷で老執事を撃った拳銃だった。

 ためらうことなく引き金を引く。

 執務室に乾いた発砲音が響く。

 それは四男も予想していなかったことだった。

 男は頭を打ち抜かれ、声もなく床に倒れる。

 血を流して動かなくなる。

 周囲にいた四男の部下はおろか、長男の部下も一様に沈黙する。

 長男は拳銃を懐にしまい、驚いている四男に目を向ける。

「これ以上用がないなら、もう行くぞ?」

 驚く部下たちを残して、長男は四男の返事を待たずに執務室から出て行く。

 長男の部下たちも慌ててその後に続く。

「セルゲイ様」

 部下たちが長男に男を撃った理由を尋ねようとしたが、長男は何も言わなかった。

 何の感情も、長男の顔に浮かぶことはない。

 些細な事とばかりに、長男は表情一つ変えずに歩いている。

 まるで感情がないかのように、同じ人間ではないかのように、長男は部下の目に映った。

 彼らは長男の行動に、四男とは違う恐ろしさを感じていた。

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