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姉と弟  作者: 深江 碧
十章 あなたの本当の気持ちを教えて下さい
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あなたの本当の気持ちを教えて下さい6

 姉は壁にもたれかかったまま、周囲の物音に耳を澄ませていた。

 屋敷の中に再び静寂が戻ってくる。

(静かになった?)

 姉は見えない目で辺りを見回す。

 熱の残る体で動こうとする。

(さっきの銃声はいったい)

 姉は壁に手をついて立ち上がろうとしたが、ずるずると床に倒れ込む。

 熱のせいで思うように体に力が入らない。

 体が思うように動かない。

 床に座り込んだ姉の様々な憶測が飛び交う。

(あれは、わたしの命を狙っている人ではなかったの?)

 そんな時どこかから足音が聞こえてくる。

「おい、ゆっくりやってくれよ。傷口が開いたらどうするんだ」

「慎重に頼むぞ」

「医者が来るまでの辛抱だからな」

「もうちょっと我慢してくれよ」

 姉のしゃがみ込んでいるすぐ傍の廊下を、使用人たちが老執事をのせた担架を持って通り過ぎていく。

 姉は壁に手を置いたまま呆然として見送る。

 その後ろを三男が車椅子で通りかかる。

「ちょっと止めてくれ」

 姉の姿に気付いた三男が車椅子を押す使用人に言う。

 三男は車椅子を動かし、姉の方へやってくる。

「オリガさんが、どうしてここにいるんだい? まだ安静にしていなきゃいけないんじゃなかったのかい?」

 三男は車椅子を姉の前で止め、不機嫌そうに見下ろしている。

「あ、あの」

 姉は口ごもる。

 何と答えればいいのかわからないでいる。

 三男は早口でまくしたてる。

「まだ体調が戻っていないから、セルゲイ義兄さんへの連絡を待っていてあげたのに。体調が戻っているなら、さっさと出てってくれよ!」

 三男は感情的に叫ぶ。

「誰のせいでセルゲイ義兄さんに目をつけられたと思ってるんだ。元はと言えば、全部オリガさんのせいだ! オリガさんがいなければ、ここに来なければ、あんなことにも、銃で撃たれるなんてことはなかったかもしれないのに!」

 三男の言葉に、姉は返す言葉も見つからない。

「ごめんなさい。あなたを巻き込んでしまって、本当にごめんなさい」

 謝ることしか出来ない。

 三男は不機嫌そうに吐き捨てる。

「体調が戻ったなら、早く出てってくれよ。オリガさんがここにいると、ぼくの命まで危うくなる」

 車椅子の向きを変え、待っていた使用人の方へと戻る。

 姉は三男に向けて頭を下げる。

「フェリックス様。看病していただき、ありがとうございました。あなたに助けてもらったご恩は決して忘れません」

 姉は気力だけで立ち上がる。

 壁に手をついてふらつく足でゆっくりと歩き出す。

 熱はまだ下がっていなかったが、姉自身、これ以上三男に迷惑を掛けることは嫌だった。

 ほぼ気力だけで壁に手をついて歩いて、廊下の角を曲がる。

「おっと」

 廊下の角を曲がった途端、誰かにぶつかる。

 軽い衝撃に倒れそうになって、かろうじて踏みとどまる。

「ご、ごめんなさい」

 姉は痛む頭を押さえ、ぼんやりとした声で言う。

 慌てて謝罪する。

 ぶつかった相手は姉の肩に手を置く。

「いやいや、構わないよ? オリガ嬢となら、おれは何度ぶつかっても構わないと思ってるから」

 聞き覚えのある声に、姉はゆっくりと顔を上げる。

「あなたは」

 目の見えない姉は気付かなかったが、その人物の姿に車椅子に乗っていた三男は目を見開く。

「アレクセイ様?」

「兄さん!」

 姉の言葉は三男の声にかき消された。

 数人の黒服の男たちを連れて、そこに立っていたのは次男本人だった。

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