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姉と弟  作者: 深江 碧
十章 あなたの本当の気持ちを教えて下さい
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あなたの本当の気持ちを教えて下さい5

「財閥には逆らわないことだ」

 長男は拳銃を手に、冷ややかに三男を見下ろしている。

 その視線は氷のように冷たく、父親が同じ兄弟である三男に対して、少しの情も抱いていないように見える。

 三男は放心して動くことはおろか、声さえ出ない。

「い、医者を!」

 使用人たちが三男の背後で騒いでいる。

 三男は長男の持つ拳銃から目が離せないでいる。

 長男は拳銃をゆっくりと三男に向ける。

「それでお前はどうなんだ?」

 静かな声で問いかける。

「兄と同じように財閥の秩序を乱す者か。それとも財閥のことを第一に考え、財閥の方針に従うか」

 三男はまだ声が出なかった。

 食い入るように拳銃の銃口を見つめている。

 死に対する恐怖で体が小刻みに震えている。

 足元では老執事が血を流して倒れている。

 もしここで長男の申し出を断ったなら、玄関の石畳の上に血だまりを作る老執事と同じ運命を辿るだろう。

 財閥に逆らうと言うことは、すなわち長男に逆らうこと。

 それがわからない三男ではなかった。

 車椅子に座る三男はかろうじて喉の奥から声を絞り出す。

「ぼ、ぼくは」

 蚊の鳴くような声で言う。

 長男の灰色の鋭い目と視線がぶつかる。

 ちょうどその時、どこからか電子音が聞こえてくる。

 長男が眉をひそめ、懐から携帯電話を取り出す。

 銃を構えたまま鳴っている電話に出る。

「私だが」

 長男は淡々と答える。

 三男はぼんやりとそれを眺めている。

 長男は電話の相手と一言二言やり取りを交わすうちに、急に不機嫌になる。

 三男にとってはいつも顔色一つ変えない長男の不機嫌な表情は初めて見た様な気がする。

「わかった。すぐ戻る」

 長男は吐き捨てるように言って、携帯電話を懐にしまう。

 三男に向けていた拳銃を下す。

「忠告はした。もしこの忠告に逆らうようならば、次は命はないものと思え」

 三男に背を向け、足早に玄関の階段を降りていく。

 取り巻きの男たちも長男の後をついて門の方へと歩いて行く。

 まるで呪縛から解き放たれたかのように、三男の体が自由を取り戻す。

 傍らを見ると地面で血を流している老執事を気遣うようにして使用人たちが取り囲んでいる。

 傷口を押さえ、応急処置をほどこし、これ以上血が失われるのを止めようとしている。

「誰か、早く医者を呼んでくれ」

 半ば叫ぶように、使用人たちに指示を出す。

「は、はい」

 使用人たちが指示通りに屋敷の中へ駈け込んでいく。

 慌ただしく使用人たちが動き回る中、三男は老執事の様子を見守っている。

 三男は両手で顔を覆い、たった今長男に言われた言葉を反芻する。

 ――兄と同じように財閥の秩序を乱す者か。それとも財閥のことを第一に考え、財閥の方針に従うか。

 つまりそれは長男には逆らうな、と言うことだろう。

――忠告はした。もしこの忠告に逆らうようならば、次は命はないものと思え

 もし逆らえば、今度は自分が撃たれる番だ、と。

 長男は直々に三男を脅しに来たのだ。

「おい、ゆっくりやれ」

「乱暴にするな」

 血まみれの老執事が使用人たちの手で担架で屋敷内に運び込まれる。

 三男はまだ信じられないような面持ちでそれを見送っている。

「フェリックス様」

 使用人の一人が声を掛ける。

「お顔が真っ青ですよ? 大丈夫ですか?」

 三男は使用人に声をかけられ、ゆっくりと顔を上げる。

「あ、あぁ。ぼくは大丈夫。それよりも彼の容体は」

 老執事のことを口にすると、使用人は表情を曇らせる。

「医者に診せないことには何とも言えません。何しろ銃で撃たれて、あんなに出血しているのですから」

「そうだね」

 三男は努めて平静を装ったが、内心では長男への恐怖と不安で動揺していた。

 車椅子を使用人に押してもらい屋敷の中へ入って行った。

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