あなたの本当の気持ちを教えて下さい3
外からの物音を聞いて、姉はぼんやりと目を覚ました。
(今の音は?)
姉はベッドの上で痛む頭を動かして、音の出所を探ろうとする。
続いて聞こえてきた二発目の銃声に、姉は今度こそ聞き間違いでなかったことを悟る。
(今の音は、銃の発砲音?)
姉は頭を持ち上げ、ベッドの上に起き上がろうとする。
体は重く、思うように動かない。
それでもベッドの上に這いつくばるようにして体を起こし、周囲の物音に耳を澄ませる。
部屋の中からは燃え盛る暖炉の音が聞こえてくるばかりだ。
他は何の音も聞こえない。
(何が起こっているの? 今の音はどこから聞こえてきたの?)
目の見えない姉は不自由な体を動かし、ベッドから降りようとする。
「あっ」
足を滑らせて、絨毯の上に転げ落ちる。
体を床に打ち付ける。
「うっ」
床に敷いてあった絨毯は厚く、床に落ちてもほとんど痛みは感じない。
わずかに衝撃を受けただけだ。
姉は熱のため上手く動かない体を動かし、這うようにして部屋の扉を目指す。
(いったい、何がどうなってるの? あの銃声はどうして? 誰かが撃たれたの? まさか、またわたしのせい?)
姉は絨毯の上をじりじりと進んでいく。
見えない両目に涙がにじむ。
(もう、わたしのせいで誰かが傷付くのは嫌なのに。わたしがここにいるせいで、誰かに迷惑がかかるのは嫌なのに)
寝間着姿で必死に絨毯の上を這って進む。
体が重く、手足がうまく動かない。
両目から涙がこぼれる。
(わたしを助けてくれたフェリックスさんは、わたしを彼に引き渡すと言っていたけれど、そうじゃなかったの? どうしてこのお屋敷で銃の音が聞こえて来るの? この屋敷で今何が起こっているの?)
四つん這いになって進んでいると、指先に何かが当たる。
壁だと思われるそこに添って、姉は手探りで扉を探す。
ようやく扉らしきものを見つけ、立ち上がり取っ手を手でひねる。
扉が開き、姉は扉が開くのと一緒に外に倒れ込む。
膝を付き、かろうじて転ぶのだけはまぬがれる。
廊下にも厚い絨毯が敷かれている。
(どちらに進めばいいの?)
姉は左右を見回す。
目の見えない姉には廊下の景色はわからなかったが、物音を頼りに壁にもたれながら右側に向かって歩き出す。
熱がまた上がってきたのだろうか。
手足にうまく力が入らない。
(でも、わたしが行かないと。誰かに迷惑が掛かる前に、わたしが行かないといけない。これ以上、誰かが傷付く前に)
姉はおぼつかない足取りで少しずつ前に進み、玄関へと向かった。