今日、勇者様のハーレム要員をやめます。
私はあなたが大好きでした。
私はあなたが大好きで眠れぬ夜がどれほどあった事でしょう。
私は溢れるばかりの気持ちを何度口にしたでしょう。
私はあなたに会うまで、ただ少女でした。
私はあなたに会い、恋の美しさを知りました。
私はあなたに会い、恋の醜さを知りました。
勇者様、あなたは覚えていますか
私とあなたの初めての出会いを
道中モンスターに襲われ、殺されそうだった少女を
勇者様、あなたは知っていますか
少女があなたの勇者任命式を見に、僅かな遺産で王都へ行った事を
少女はあなたに会いたくて必死に力を求めた事を
少女にあなた以外が見えていなかった事を
少女が娘になり力も美貌もコネも手に入れ、あなたの仲間になれて嬉し泣きをした事を
勇者様、あなたは気づいていましたか
いつも暗く空虚な眼をしている事を
周りの女性が常に、あなたの心を欲しっていた事を
血が耐えぬ日常で、殺した数以上に救われた命がある事を
独りで戦うあなたに、敵もいましたが味方もいた事を
私は覚えています。
あなたが変わった時のことを。
異世界の巫女を召喚した日だったことを。
黒髪黒眼の気が強い巫女に、あなたは足手まといと呟いていたことを。
私は知ってしまいました。
あなたが私や仲間に興味の欠片もなく、便利な道具だと言って友人に話していたことを。
けれど度々喧嘩する巫女とだけは、想いが重なり合っていくことを。
巫女がライバルですら無くなっていき、あなたと巫女それぞれに変化があったことを。
いつも暗く空虚な眼が、いつの間にか輝く温かな眼になっていることを。
あなたを変えたのは巫女で、巫女に嫉妬している旅の仲間も変わっていったことを。
ごめんなさい、ごめんなさい勇者様。
私は何もしませんでした。
仲間のあの子が嫉妬に狂っていった事、もっと早く伝えていれば良かった。
私を支援する貴族が怪しいのに、確証が無いからと黙っていました。
勇者様のご家族を救出した時、これ以上苦しめないよう仲間がこっそり毒を使ったのを黙認しました。
あの子がそれを見て仲間を脅し、追い出したのをみて安心してしまいました。
巫女はあの子から嫌がらせを受けて、助けを求めていたのに我が身可愛さに見捨ててしまいました。
紅い月が出ていた日、あの子は自ら魔物と取引をしました。
そして、あの子は魔物の人形になり、勇者様は偽心によりあの子を探しつづけるばかりで、濁った瞳のあなたに仲間たちの心は離れていきました。
毎日うるさく愛を叫んでいた魔術師長、恋のカードで意思表示をしていた占い師、毒舌でもサポートが上手かった騎士、幼い容姿を利用していた腹黒ハーフ、天然ドジばかりのファイター、ナルシストな盗賊、不良シスター、酒癖の悪い鍛冶師、地味な罠師、怒ると怖い暗殺者、暴走特急ガーディアン…
みんな、みんな月日が経つにつれて絶望し、怒り、悲しみ、仲間割れをしていきました。
でも、巫女は違いました。
心が通じ合っていた分私たちより怒りも悲しみもしているはずなのに、泣きませんでした、声を荒げませんでした、絶望していませんでした。
去っていく人たち、対立が増えていく仲間、あの子ばかり探す勇者様。
なのに巫女は毎日話しかけ続けました。
元に戻る事を信じて勇者様に、罵声を跳ね返し仲間に、行く末を心配しながら去っていく人たちに話しかけ続けました。
ある日、勇者様があの子以外の名前を呼びました。
そこからはあっという間でした。
仲間は勇者様を中心に団結をして、去って行った人たちも返って来て、魔王城までは大した事ありませんでした。
魔王城についてからは、仲間たちがそれぞれ四天王の足止をしました。
私も、何もしてこなかった末の責任をとるため四天王の一人、人形師と戦いました。
虚ろな眼をしたあの子はもう、正気ではありませんでした。
私が戦う一方、勇者様は魔王に一度殺されかけたらしいのですが、真の力に目覚めた勇者様と巫女が激戦の後倒してくれました。
私も人形師を倒す事に成功しました。
人形師が息絶えるとあの子は一言つぶやき、冷たくなりました。
私は羨ましいです。
身を破滅させたとはいえ、一時でも勇者様の心を手に入れたあの子の執念。
自分の良い所をもっと知ってもらおうと、行動を起こし続けた仲間の情熱。
どんな時でも勇者様を真っすぐみつめてそのお心を差し出された巫女の気高さ。
私は何をしていたのでしょう。
自分の気持ちばかりで、あなたを理解しようとしませんでした。
悪い所を見せたくなくて、不利な情報を黙っていました。
狂ったあの子が人目を忍んで、儀式するのを止めませんでした。
あなたがあの子を探していた時、虚しくても離れることをしませんでした。
あなたが巫女とさらに絆を深めていったのに、この気持ちを諦めきれませんでした。
私は自分の罪悪感からあの子を殺してしまったのです。
勇者様、許さないでください。
何もしなかった私を。
あなたを諦めれない私を。
あなたに二つの嘘をついた私を。
好きです。
愛しています。
私を見て下さい。
ごめんなさい。
許さないでください。
私を見ないでください。
いけない女なのです。
もう、勇者様の心は巫女のものなのに、それでも欲しいのです。
このままでは何をしてしまうか自分でも分かりません。
いいえ、きっと二つの嘘の真実をあなたに話してしまうでしょう。
私しか知らない真実。
あの子が、魔物に狂わされたのではなく、恋情に狂っていたから連れて行かれたことを。
あの子が、最後にあなたへの恨みを呟いて死んだことを。
ありがとう勇者様、この気持ちに後悔はありません。
愛しています勇者様、けれど今日でお別れです。
さようなら勇者様、自分で決めた二つの嘘を使わないために。
今日、勇者様のハーレム要員をやめます。