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#5 たまごの話

「ゆずちー! あたし目玉焼き美味しく焼けるようになったよ!!」


 あたしの教室に飛び込んでからの第一声がこれ。


「おめとうございますみっちゃん!」


 ゆずちーのほっこりした笑顔は当然としても、なんだろう、それ以外の人が微妙な目であたしを見てる!? あたしは何もおかしいこと言ってませんよ!!


「待て待て、たかが目玉焼きだろう? 確かにみっちゃんは目玉焼きを丸コゲにした前科持ちだが、普通に焼けば目玉焼きくらい焼ける!」


 くーちゃんが早速イチャモンをつけてくる! でもそんなの予想通りだよ! サイダーとインサイダーが完全に無関係なくらいに予想通りだよっ、くーちゃん!!


「チッチッチ……。たまご1パックを犠牲にした結果」

「目玉焼きのためにたまご使いすぎだろう常識的に考えて」

「まあまあ、くーちゃん。どんな料理でも練習しないことには上達はありません」

「聞いてよっ! たまごをいっぱいつかった甲斐あって片手でたまごの殻が割れるようになりました!」

「すごいですね、みっちゃん。おめでとうございます」


 フッフッフ。凄いでしょう! あたしだって頑張れば新しいスキルを修得できるんだよ! この調子でたまご料理を制覇した暁には、野菜とかお肉とか使う料理にレベルアップして、その次はから揚げとか天ぷらにします!


「殻が割れるって……片手で握りつぶす的な意味で?」

「違うよっ! こうやって器用に手を汚さずに殻の中身をポンっと」

「ゆでたまごか」

「生たまごだよ! むしろゆでたまごでできるのならくーちゃんやってみてください!!」

「ゆずちー、どう思う? ゆでたまごの片手むき理論上可能だろうか?」

「えっと……ゆでたまごを急速に冷やしてからやればできるかもしれませんけど……やっぱりよくわかりません。ごめんなさい」


 ゆずちーにも分からないことはまだある、と。でも小学生の時と比べてゆずちーの知識量はどんどん増えてるんだよね。歩くインターネットと呼ばれるようになる日もあたしは近いと思う。


「ゆずちーに『ごめんなさい』させたくーちゃんの罪は重い! 重いとあたしは思うので、たまご打ちの刑に処すべきだと思います!」

「なんだその刑は!? 私はどうなるんだ!?」

「石打ちの刑のたまごバージョンです! くーちゃんに向かってたまごを投げつける!」

「たまご塗れじゃないか! 私はしゃぶしゃぶにでもなるのか?」

「くーちゃんなんて食べても美味しくなさそうです」

「なんだと……!? みっちゃんはあたしを怒らせた! たまご塗れにしてやる!」

「よろしい、ならばたまご戦争だああああああ!!」


 たまごって1パックおいくら? 戦争するにはどのくらいの弾丸が必要? お、お小遣いの1000円では限界がありすぎるのではないでしょうか!?


「ふ、2人ともやめましょう……。たまご塗れよりも先に殻がお腹とかに刺さって凄く痛いと思うんです……」


 紙で指を切り、プラスチックが肉体に刺さる現代社会なら、たまごの殻が突き刺さって死ぬ事件が起きても不思議では……! ど、どうしましょう。嫌な汗が出てきてるんですけど! それはくーちゃんも同じみたいで、変な笑い顔をしながらも、額に汗がいっぱいだよ。


「……みっちゃん。戦争はあまりにも暴力的で私達のような女子には似合わない。だからな、たまご料理で決着をつけないか」


 そうそう、あたしたちのような女の子に本場の戦いは似合わないんです!

 ……よーし、たまご戦争回避。助かった。痛みを伴うバトルにならなくてよかったです。


「だね……それがいいね。審査員はゆずちーにお願いすれば完璧!」

「よーし、じゃああたしが電子レンジでゆでたまごを作ってやろう」

「もう、くーちゃんは学習能力がないですね。この前爆発したことをもう忘れたんですかっ!」

「ふっ、昔の私と今の私を同一人物だと思ってもらっちゃ困る」

「……えっ? 同一人物ですよね?」


 というゆずちーの呟きは華麗に無視されて、くーちゃんは更なる言葉を吐き出す。


「たまごをアルミホイルでぐるぐる巻きにして、水をはったマグカップか何かに入れてから加熱すると、あら不思議。ゆでたまごのできあがりだ!」

「ゆでたまごのくせに茹でてる気がまったくしないのはどうしてなの! 茹でようよ鍋で!」

「いいんだよ過程なんて。最終的にゆでたまごができればそれでみんな幸せだろう。そうだ、ついでにたまごを使ってマヨネーズでも作るか」

「えっ!? マヨネーズってたまごから作るものだったの……!? てっきりケチャップみたいなものなんだと……」

「一体どんな果実を使ったらマヨネーズみたいな物体になるんだよ」

「だ、だって……ソースは野菜とか果物が原料だし……」


 マヨネーズもてっきり南国辺りにある謎の果物マヨネーから作るものなんだとずっと……。


「君はどうせ鍋を使ってもゆでたまご作りに失敗するんだろう?」

「茹でるだけの料理を失敗するわけないよっ!」

「ならば聞こう。綺麗なゆでたまごはどうやったら作れるんだ!」


 えっ!? ゆでたまごに綺麗とか汚いとかあるの!? お、思い出すんですあたし。ラーメン屋さんの塩ラーメンに入っていたあのゆでたまごを!

 あー、あれはとっても美味しかったです! また食べに行きたいと思います! 将来はラーメン屋さんという選択肢もありかもしれませんねっ!

 えっと、それで何の話でしたっけ?


「ゆでたまごを鍋で茹でる場合、転がすんだよ。そうしないと黄身の位置が偏って美しくないゆでたまごが出来上がってしまう」

「く……くーちゃんがレシピを記憶してるだなんて、どういうことゆずちー!?」

「あの、私に言われても困りますけど、……確かにくーちゃんがそういうことをしっかり覚えているのは珍しいですね」

「いや、だって……みっちゃんにバカにされた件はさすがにそのままにはしておけないだろう!? あたしは人間としてみっちゃん以下になりたくないんだ!」

「それって友達的にどうなの!? ねえ、くーちゃん!? あまりにも酷いことを言ってるよね!?」

「安心しろみっちゃん。みっちゃんは別に人間の底辺にいるわけじゃない。みっちゃんはかなり上の方にいる人間だ。だからあたしはみっちゃんよりも上を目指したいんだよ」

「なるほど、そうだったんですかぁ」

「……あれっ? 私にはなんだかうまい具合に丸め込まれているように聞こえるんですけど」

「なんでもいいですけど、くーちゃんがそこまでゆでたまごマスターだとは思わなかったのであたしは温泉たまごにしようと思います!」


 くーちゃんが驚愕を貼り付けた顔を見せ、ゆずちーはどうしてか喜んでいます。どういうこと!?


「できるものならやってもらおうか。家庭で温泉たまご、もとい半熟たまごを作り出すのがどれほど難しいのかを君は分かってないようだからな」


 後日、半熟たまごを余裕で生み出して圧勝するあたしがいました。えっへん。


「な、なななな……納得がいかないぞ! どういうことだ!!」

「ご、ごめんなさい……!! ゆでたまごの出来具合もいいと思うんですけど、私半熟たまごの方が好きなんです!!」

「違うっ! ゆずちーの評価じゃなくて、みっちゃんが半熟たまごをタイマーすら使わずに量産してる件だっ!! おかしいだろう常識的に考えて! たまごのサイズによって加熱時間も変わって来るんだぞ。なんでよぉ……あえりないよぉ……鍋で半熟たまごなんてあたしのレシピには……………」

「大人しく負けを認めたまえ、くーちゃん」


 それから1週間、あたしは学校でたまごマスターと呼ばれて虐められました。

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