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#4 ループの話

 ○月△日


「今日がずっと続けばいいですねー」

「いや、いずれはその考えを改めることになるぞ。なんたって、今日がずっと続いたら新しいマンガも雪花堂の新作スイーツも私達はこの手にできないってことになるんだからな」

「でもでも、くーちゃんだって時間欲しいって言ってますよね!? 24時間が192時間になったら嬉しいでしょう?」

「192にどんな意味があるのかは知らないが、確かに時間はいっぱい欲しいかもしれない」

「えっと、二人とも時間があったら何がしたいんですか?」

「寝るっ!」

「それは時間がまったくない今現在に考えることじゃないな。増えたら考えことにしよう」

「みっちゃんは今寝てないで宿題を早くなんとかしないと時間切れになります……よ?」

「ふぇええええええ……」


 宿題地獄は嫌だけど、こんな風に笑いあえる日常がずっと続けばいいのにとは本気で思うんだよね。連日ニュースで放送されている出来事がいつ我が身に起こるかなんてわからないし! あたしはさ、誰かに起こったことはいつかは自分にも起こるって考えてますから。

 交通事故に遭ったり誘拐されたり、日本人の99%は対岸の火事だと思ってるかもしれない。あたしの身にそんなことが起こるはずがないって、平和なことを考えてるかもしれれません。

 でも、誰かに起こった以上あたしに起こる可能性だって十分にあるんだよ。この世界はそういう風になっているんだよ。むしろなっていないと困るんだよ!


 だって、そうじゃなかったらあたしの送った懸賞があたしには当たらないってことになってしまいます!! 不幸、幸福この2つはね、誰にだって平等にあるんだよ!


 ○月△日 金曜日


 おかしい! 机に突っ伏しながら思いました。


「ねえ、くーちゃん。今、おかしいことに気付いたんだよ!」

「は? 何言ってるんだ? みっちゃんの頭がおかしいのは前からだろう?」

「あたしの頭じゃなくて、時間の流れがおかしいんだよ!」

「ゆずちーはまだこないか。まあいい。話を聞いてやるからあとで感謝の踊りを踊るんだぞ」

「分かりました」

「おかしいな、物分りが良すぎる……! 確かにこれはおかしい」

「あのね、くーちゃん」

「お、おう……」


 あたしの真剣な顔を見て、ちょっとは深刻さを理解してくれたみたいで無駄な話は終わりになりました。あたしの抱えてる問題、それは、


「今日は金曜日。明日は土曜日。これはあってますよね?」

「みっちゃんの大好きな休日は間違いなく明日だ」

「それがですね……なんでかあたし、今日を、金曜日を7回連続で繰り返してるみたいなんだよ!! どういうこと!! いつまで経ってもお休みがこないよ!! こんなの絶対おかしいよっ!」

「みっちゃん……ついにマジであたまがおかしくなったか?」

「酷いよくーちゃん! あたしは本気で悩んでるのに! なんで時間が戻ってるの? くーちゃんが変な儀式とかしたの!?」

「……宇宙論とか量子論とかが絡んでるのかもしれないぞ。だが、私はゆずちーじゃないから1ミリも分からん!」

「信じてませんねっ! あたしの言うこと!」

「どこにそんな妄想を信じるバカがいるんだ……?」


 もももももーう!! これだからリアリストは困るんだよ! もっと夢に希望に妄想にオカルトにロマンにといろいろそういう不可思議を持ちましょう! 勉強、説教、ぐったりのリアルだけが日常じゃないんだからね!


「分かりました、分かりましたよ! じゃあ今日この後何が起こるのか予言してあげましょう!」

「ほう、それはおもしろそうだ。もしも予言が当たったらもうちょっと真面目に聞いてやるよ」

「ゆずちーが登校してきて教室の入り口で転ぶ。それでスカートがめくれて真っ白なパンツが丸見えになります!」

「……事実なら結構酷いな」


 そして時はきた! いらっしゃ~いゆずちー! さあ、スカートの中身をぶちまけろ!


「きゃあっ!?」

「……本当に転んだな。ゆずちーと組んであたしをドッキリにはめようとしてるんだろ?」

「ねえくーちゃん。現実を見ましょう。ゆずちーパンツ丸出しで超泣きそうだよ」

「しかしだな……」

「くーちゃんはあたしにドッキリをしかけるだけの頭脳があるって真面目に思ってるんだね!!」

「………………」


 何その沈黙!? あたしだってやろうと思えばくーちゃんをトラップに誘い込むことくらいできるよ! 多分ハニートラップとかもやれるよ!


「まだだ、まだ信じるには早い。もっと予言ネタを出せ!」

「フッフッフ。過去6日分だよ。6回も繰り返して7回目だよ。さすがにいっぱい覚えてます!」

「しかし7回目になって初めて気付くあたりはたしかにみっちゃんだよな。私ならどんなにボケてても3回目で気付く自身がある」


 確かに7回目でやっと気付いたのは不覚だったけどさ……! そもそも同じ日を繰り返してるなんてそんなバカこと起こるわけがない――って思うのは普通でしょう。それに気付いても何かできるだけの情報がなかっただろうし……。


「あ、そうだ。今日の数学でミニテストがあるんだよ」

「なん、だと……問題は!! 問題の中身を言えっ!!」

「あたしを誰だと思ってるの!? そんなの覚えてるわけないでしょう!!」

「繰り返してるくせに使えねええええええ!!」

「あと給食の中身分かる」

「コンダテ見ればだれだって――」

「今日の給食、一品だけコンダテ表のものから変わるんだよ」

「マジか……」

「うん。ミネストローネがクラムチャウダーになるの」

「なんとうことだ……。クラムチャウダーってホタテ入ってるやつじゃないか。あんなまずいもの食べれるかっ!!」

「くーちゃんのママに言ってください!!」


 激怒したくーちゃんは自分の机に戻って寝てしまいました。酷いよくーちゃん、話を聞いてよ!


「お、おはようございます。みっちゃん」

「純白パンツのゆずちーおはよー」


 ゆずちーも机に突っ伏して寝てしまいました。仕方がないのであたしも寝ようと思います。いつかこのループが終わることを信じて。


 そしてクラムチャウダーを食べ終わったお昼休み。


「さて、ゆずちーの犠牲などなどでみっちゃんが1日をループしていることが明白になったわけだが」

「………………くーちゃん、もう、言わないで」

「ごめんごめん。取り敢えずだ、この場合みっちゃんが死んだらどうなるんだ?」

「待って、待って! どうしてあたしを殺そうとしてるの?」

「純粋に疑問に思っただけだ。死んでもループするのかそこで終わるのか。もしもそこで終わるのならループは単純に意識だけじゃないってことになる」

「はあ……? くーちゃん、子どもにも分かるように言ってくれないと……」

「いや、もういいよ。どうせほっとけば直るだろ。ゆずちー、放課後クレープ食べにいかないか?」


 むぅぅぅ……。寝よう。今日はもう終わりにしましょう!


「こらこら、寝てもどうせ次の授業前に起こされるだけだぞ」


 ○月△日 金曜日


「ねえ、くーちゃん。あたしは何か大事なことを忘れている気がするんだよ」

「なあ、みっちゃん。今日は金曜日なんだよな? 土曜日じゃないんだよな?」

「何言ってるのくーちゃん。その若さでついにボケたの? 介護がいりますか?」

「介護してくれるのならしてくれたまえ。私は今日盛大に混乱している!」

「ど、どうしたのくーちゃん!」

「君を殺して私も死ぬというのはどうだろう?」

「待って、待って! 殺すのならゆずちーにして! あたしは雪花堂の新作スイーツを食べるまで死ぬわけにはっ……!」

「しょうもない理由だな……。しかしだ、みっちゃん。私はみっちゃんが昨日あんなに必死だった理由がやっと分かった。こういう気分だったんだろう?」

「……? くーちゃんが何を言っているのかよく分からないんだけど、昨日のあたしってそんなに必死だった? そんなに死にそうになりながら何か頑張ってましたか?」

「…………あれ? なあ、みっちゃん。昨日は何曜日だ?」

「やっぱりボケたのくーちゃん? 木曜日に決まってます!」

「いや、待て待て。だってみっちゃん昨日金曜日が無限ループしてるって……」

「うん……? くーちゃん、エンドレスなんとかっていう夏休みを繰り返すアニメでもみたの?」

「あっれー!? まさか今度は私の番ってことかっ!? どうやってみっちゃん脱出したんだよ!? だってみっちゃん、君が言ったんだろう。ゆずちーが登校してすぐに転んでパンツ丸出しになるって!」

「ゆずちーがパンツ丸出しになるの?」


 とあたしが言ったら、ゆずちーが教室の入り口で派手に転んでスカートがまくりあがっていました。凄いよ、くーちゃん!! なんだか分からないけど予言ってやつだよね今のって!! どういうこと!?


「きゃああああああああ」

「ぎゃああああああああ」


 ゆずちーの叫びが教室中に響く中、くーちゃんも叫んでいます。


「助けてけろみっちゃん」

「言葉がおかしいよくーちゃん!?」


 そして、あたしとくーちゃんの大冒険が始まっ……た?


 ○月△日 金曜日


「あ、あれ……? みっちゃんの局所的時間異常を修復したつもりだったのですが、間違えてくーちゃんに移ってるなんて……。ど、どうしましょう……!? バレたらお母さんに怒られます……!!」


 なんてゆずちーが呟いていたことをあたし達は知らない。だってこの時間の出来事はぜーんぶなかったことになっちゃったから。


 ○月△日 金曜日


「おはよーくーちゃん」

「おう、おはよう。みっちゃん」

「今日ゆずちーに悲劇が起こりそうな気がする」

「……ん? 君も同じこと思ってたか。私もなんだか今日はゆずちーが辱めを受けそうな気がするんだよな。なんでかわかんないけど」


 その日ゆずちーは教室の入り口で転んで純白の下着を露出しました。でもどうしてかゆずちーは泣かないで笑顔でした。


「いつもなら泣いてそうなのに」

「ゆずちー、ついに何か変なものに目覚めたのか?」


 笑顔の理由をあたし達は知らないし、『前の日』にゆずちーがどれだけ頑張ったのかを知ることもないのです。世界の仕組みをあたし達が知るのことになるのはまだずーっと先のこと。

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