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#29 エルフの話

 天気は全国的に晴れの予報なのにこの辺りは曇りだったんだよね。だからもしかするととんでもなく嫌な出来事が発生する前触れかもしれない! と気を引き締めて歩いていたら、


「やあ、みっちゃん。元気にしてるかな?」


 後方から音もなく出現した暗殺者じゃなくて、変質者……予備軍みたいな人!


「おや、ポンちゃんではありませんか。あたしはいつだって元気です! あたしから元気を取ったら、天才しか残りません!」

「元気吸い取った方が世のためか……」

「えっ!?」


 あたしから元気を吸い取ってどうするつもりですか! 集めて玉にしてどこかに投げつけるんですか!? それとも元気のない人に分け与える元気義賊にでもなるんですかっ!? 元気の塊を瀕死の人に与えても復活はしないと思います!


「実はだ。昨日海深さんに会って、エルフについて語り合ったわけで」

「なんでお姉ちゃんとエルフの話? ポンちゃん的に考えてエロフの間違いではないでしょうか?」

「みっちゃんはお姉さんのことをなんだと思っているのかな?」


 この場合の「お姉さん」ってポンちゃんのことですか!? それともお姉ちゃんのことですか!? 二重に意味が取れる言葉はよく詐欺師が使うってテレビで言ってました!


「そんなことよりもエルフってあれだよね、耳が長い人!」

「まーいいや。そうそう。耳が長くて美形が多くて弓の扱いに長けてる森の住人、それがエルフ!」


 ゲームとかマンガとかにたまーにエルフって出てくるんだよねっ! なんでも精霊と呼ばれる正体不明の存在と仲良しらしいです。精霊は基本的に目に見えないのできっと幽霊みたいなものだと思います。


「ところでエルフってどこの森に住んでるの?」

「外国やね。それでもって今はエルフも森から離れて仕事してるって知らないかな?」

「えっ!?」

「お姉さんの調べによると、ニュージーランドでキャビンアテンダントしてる」

「なんだってー!?」


 キャビンアテンダントってあれだよね、アレアレ! 飛行機の人! あたしはてっきり今も昔も森の住人だと思ったたんだけど、エルフ社会も現代にちゃんと対応してきてるんだねっ!?

 ところでニュージーランドってどこにあるの? 大陸? 島国? それとも実は宇宙!!?


「エルフさんは巨乳説もあれば貧乳説もある不思議な種族! お姉さんは後者のエルフさんを前者に成長させるお手伝いをしたいと常々思っている」

「じゃ、さよなら!」


 あたしはこの後ポンちゃんに襲われることを予見して、さっさと逃げることにしました。ポンちゃんの犠牲になるのはゆずちーだけでいいと思うんです! だからあたしじゃなくてくーちゃんと一緒にいるはずのゆずちーを襲ってください!! そしてゆずちーをCの領域に導いて!!


「みっちゃんや、お待ち。お姉さんは変なことしたりしないから」

「前科がありすぎて信用できない言葉ってこの世にあるんだよねっ! 今のポンちゃんの言葉とか! 魔王に世界の半分をくれてやろうって言われるくらいに嘘っぽいよね!」

「お姉さんは世界の半分なんてあげないよ。精々妥協して町一つくらいだよ。戦闘担当の脳筋勇者じゃ町一つ統治できないと思ってる」

「ポンちゃんに征服された世界なんて最悪なんだよっ! 男の子に生まれたかった!!」


 ダッシュで逃げたらあっさりと並走されてあたしは驚愕だよ! ポンちゃんは違う意味で世界を狙うべきだと思いました!!


「待ちや、待たんとスカート脱がす」


 それはとんでもない脅迫でした。屈したあたしを誰が責められるんですかっ!! こんな公衆の面前で(人いませんが)ストリップなんてしちゃったらあたしは社会的に死んだも同じ! 田舎に引っ越してひっそりと一生を終えるしかなくなるんですっ!!


「実は海深さんに会った時に海深さんのおっぱいを揉んであげようと後ろからこっそり手を回したんよ」

「ついにはお姉ちゃんまで毒牙に……」


 年上であっても問答無用で手を出すポンちゃんに恐怖を感じずにはいられません! 早く大学生あたりに手を出して警察に捕まればいいと思います! たとえ同性でもやっていいことと悪いことがあるんです!


「そしたら、柔道か空手か合気道かなんだか分からんうちにお姉さん組み伏せられてな」


 良かった!! お姉ちゃんはポンちゃんに毒牙をへし折っていたみたいです!! でもお姉ちゃんって別に護身術とか習ってません。中途半端に空手やってるポンちゃんに勝てるような実力はないと思うんです!

 おそらくポンちゃんはお姉ちゃんの持つ2つのマシュマロに夢中になりすぎて、油断したんだと思います。


「で、脅されたんや。『海々ちゃんに同じような事をしたらこの腕をへし折ります』って」


 お姉ちゃんのことなので無表情でそういうことを言ったんだと思います。うん、想像してみると実に怖いシーンですね。本当にやるかどうかは分かりませんけど、言うだけならタダです! そしてタダより怖いものはありません!


「だからお姉さんはみっちゃんのおっぱいは諦めて、花梨って子を狙うべきだと思ってる」

「それがいいと思います。あたし以外なら概ね誰でも」


 くーちゃんを生贄に捧げて、あたしは助かる道を選びます。誰だって一番大切なものは自分自身。たとえ感情で恨まれたとしても、頭では分かってくれるはず。


「ところでエルフは魔法にも精通していたり、精霊と会話できたり、植物となかよかったりと特殊性がぱないわけだけど」

「どうしてポンちゃんはそんなにエルフにばっかり拘ってるのかな、かなっ!? ドワーフはダメなの!?」

「ドワーフもホビットも美しくないね。会話のネタにするのなら美形の方がいいんよ」


 ドワーフはなんとなく分かります。イメージ的にはちっちゃくて毛むくじゃらで鉱山で仕事したり、鍛冶屋で刃物作ったりしてるヒト! でもホビットってどんな形状の生き物ですか! 聞いたことありますけどイメージがまったくわきません!


「魔法少女なゆずちーはエルフの血が混ざってるのかな? 大人になったらさぞ美人さんや」


 美人さんになるはずのゆずちー、告白多数、未だ彼氏なし。どういうことなの?


「ゆずちーは魔法少女だけどエルフじゃないと思います。耳が普通すぎるし胸も普通だし! 彼氏いないしっ!」

「日本にエルフさんはいないのかっ! どうだいみっちゃん、いっそのこと君がエルフにならないかっ!」


 怖いことを言い出しました! ポンちゃんはあたしを改造してエルフにするつもりのようです!! ゆずちーママでさえそこまでのことはしなかったのに!!


 『いないなら、作ってしまえ、エルフさん』 海沼海々


 アウトです! あたしはまだ10年ちょっとしか人間やってないんです!! 人間卒業式はあと50年くらいまってくれませんか!?


「それは卒業式やなくて、葬式やん……」

「人間の寿命はもうちょっと長いと思います!」

「汚染物質、放射能汚染、酸性雨、地球温暖化、食物連鎖の末の有害物質摂取、健康に悪いコンビニ弁当やカップ麺各種。間食する若者達、運動から室内ゲームへとシフトする遊び。昔はともかく、お姉さん達の寿命はきっとそんなに長くないと思うな」

「それでもあたしは人間でいたいんですっ!」

「人間として生を全うしたいと?」

「そうです!」

「それまで地球が持つかな? ここはエルフさんに自然環境を改善してもらうべきだ。よってみっちゃんにはポンプロジェクトの一環としてエルフ化の手術を受けて貰うとして……、大丈夫、あとのことはお姉さんのお任せ!」


 あたしがエルフになってしまったら人類としては多大な損失だと思うんです!!


「大丈夫。エルフになっても人間世界で生きていけるから」

「ポンちゃんがエルフになればいいと思います!」

「お姉さんはエルフさんになりたいわけじゃないんよ。エルフさんを観賞したいんだよ!!」

「あたしもエルフさんを観賞したいので他の人を改造してください!」

「ゆずちーはすでに魔法少女や。よってこれ以上の属性は不要。仕方ないね。くーちゃんだ。貧乳エルフのくーちゃんを巨乳に導いちゃうよ」


 何かを揉むかのように手をにぎにぎしているポンちゃんから目をそらしました。仕方なかったんですくーちゃん。あたしは友達を犠牲にして前に進むことにします。さようならくーちゃん!!


「そういえば、海深さんから聞いたんだけど、エルフズステイクなんとかって知っとるかい?」


――エルフズステイクステージ、エルフ種の持つ固有ギフト、声を発することで発動する異能


「聞いたことあります。でも誰から聞いたのかは覚えてません!」

「なら話は早い! エルフさんになろうみっちゃん! そうすればみっちゃんも超能力者だ!」

「な、なんだってー!!」


 ゆずちーの魔法、くーちゃんのワープときてるからあたしも確かに何かそういうスペシャルな能力が欲しいとは思っていました。でも、人間をやめるのは……!


「ポンちゃんに1つ言っておきたいことがあります!」

「聞こう」

「あたしをエルフさんにしたかったらまずはお姉ちゃんを説得してください! 勝手にあたしを改造したらきっとポンちゃんも改造されてしまいます!」


 お姉ちゃんですから、「海々ちゃんを酷い目にあわせたのですから、貴女も酷い目にあうのがいいでしょう」とポンちゃんをポンカンにしてしまうかもしれません!!

 エルフさんになったあたしを大変に気に入って、ポンちゃんにご褒美をあげる可能性もありますけど、リスクが大きすぎるでしょう。


「ちぇっ……。相手が悪すぎる。今回は引き下がろう。だが、次こそまでには海深さんを説得し、みっちゃんをエルフにするであろう。それまでつかの間の平和を味わっておくがいい!」


 そしてポンちゃんは走り去っていきました。


「あたしがエルフさんになるよりも先にポンちゃんが魔王にでもなった方がいいと思います」


 当然のようにあたしの呟きは米粒みたいなサイズになっていくポンちゃんには届いていないのでした。でもやっぱりポンちゃんに世界を征服されても嫌なので、お姉ちゃんに倒してもらいましょう。


 勇者海沼海深伝説が近いうちに始まるかもしれません! えっ? 勇者のお供はエルフさんなんですか? いえ、そのエルフさんはあたしじゃありませんってば!!

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