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#27 ◆Walpurgisnacht Party phase2: 主催者の話

 全世界にお住まいの関係者の皆様へ本場ワルプルギスの夜をプレゼント! メイフェアまでの10時間、死者との宴をゆっくり楽しんでいってね♪ うっかり死者になってしまってもそれは自己責任で! それでは偽りの神秘をご堪能あれ~♪


――『境界式』のアナウンスより


「と言うわけでクソ面倒なことになっているぞ、譲葉」

「ううっ、誰ですか……我が家を幽霊屋敷にしたのは……」

「『境界式』の悪魔による『些細』な悪戯だろう。見事に守護結界をひっくり返された。お陰でうちだけではなく、結界を張られていた場所は全て内部にゴーストタイプが犇く結果になっている」


 お寺とか神社とか教会とか神殿とか完全に滅茶苦茶じゃないですかっ!! どうしてこう人類を超越した存在というのはおかしなことばっかりしかしないんですかっ!!


「貴女がソレをいいますか。中途半端に『甘さ』を消したり、中途半端に『時間ループ』を引き起こした貴女が」


 聞こえません、聞こえません! ゴシックロリータ少女の言葉なんて私の耳には届きません!!


「なんとかしてください」

「明日の朝まで待てば収まるだろう」

「それじゃあパーティに間に合いません! 今日なんですよ! この後すぐなんですよ!」

「そんなことは分かっている。携帯電話を貸せ」


 どこに電話をするつもりなのか分かりませんけど、何か対処してくれそうなので渡しました。


「私だ。紫光院紫だ。久しぶりだな海深。今夜の件みっちゃんから聞いてはいるだろう? うむ。今夜はコスプレパーティに変更だ。みっちゃんにネコ耳でもつけさせてくれたまえ。無論、お前さんのコレクションにその手のものはあるのだろう? うむ。どうやら利害は一致したようだね。ではそれで頼む」


 みっちゃああああああああん……。


「なんの電話してるんですかぁぁぁぁっ!!」

「お前さんにも『人外』のコスプレをしてもらうぞ」

「な、な、なんの意味があるんですかっっ!」

「幽霊に悪さをされるのは人間だけだ。ここでパーティをするのなら全員が人ならざる者になればいい。そのくらいの認識阻害なら私が実行してやるからお前さん達は外見を整えろ」

「くーちゃんの方にも連絡しておいてやるからお前さんは適当な衣装でも……」

「ところで兄さんは……?」

「光月はこの手の怪異抵抗力が低すぎるから安全な外に追い出した。ネカフェで一泊くらいして帰ってくるだろう。そうだ、アマリリス。お前さんの衣装を譲葉に貸してやってくれ。サイズはほぼピッタリだろう」

「ええええええええ!!」


 今まで『無言』でグレープジュースをワインのようにゆらゆらしていた私と同年代に見える女の子、アマリリス。お母さんの知り合いのアガシオンだそうです。飲食ができて、怪我もして、風邪まで引くというのにその実体は人形という不思議な子です。


「それは別に構いませんがここで服を脱げというのですか。この変態百合ババア」

「やって貰おうじゃないか、はっはっは」

「はっはっはじゃありません! どうせ回避できないのなら私の部屋にきてください。服は貸しますから!」

「どうせ人形だろう、何も恥ずかしいことなどない」

「黙れ年増。貴女のような魔女には私のこの成長しない乙女な体の良さがまるで分かっていません」

「生憎と私は百合好きではあっても、ロリでもペドでもないのでな。そおそもお前さん乙女なのか?」

「あんまり変な話しないでくださいっ!!」

「ちなみにうちの変態マスターは来ません。アルコールのでないパーティに出るくらいなら大人しくネトゲしてた方がいいそうです。ちなみにその馬鹿なら私が鈍器で殴ってきましたので明日までお休みしていることでしょう」

「明日までに死者になっていなければ、な」

「ハイビスカスがいるので大丈夫でしょう。ま、別に死んだところで誰も悲しみませんけど」


 アガシオン……「実体を持たない使い魔」にここまでボロクソ言われているマスターってどんな人なんでしょう?


「行きましょう譲葉さん。服をお貸しします。私の裸を見ても興奮しないでくださいね」

「しませんから……」

「紫光院紫……その手に持っているカメラはなんですか?」

「気にするな、これは――」


 指を一振りしてお母さんの持つ記録装置を破壊。電気でちょっとくらい感電するかと思いきやお母さんはピンピンしてました。


「………………中々いい魔力制御だ。だが魔法の力を破壊に使うのはあまりよろしくないぞ」

「放電系の魔法というのは空気中では使い勝手が悪いと聞きますが、やりますね譲葉さん。願わくば成長してもこんな変態になって欲しくはないものですが」

「安心してください。私はあの人を反面教師だと思っています」


 そんなわけで私はゴスロリドレスを着ることになりました。こんな服、今までに一度も着たことないのに。今後着る予定もなかったのに……!! リビングに戻ってみたら、お母さんが狐巫女になっていました。ですから歳を考えてください!!


「くーちゃんは吸血鬼になるらしいぞ。認識阻害状態のトマトジュースでもがぶ飲みして貰おう」

「トマトジュース、ですか……」


 私、トマトの加工品は基本的に大丈夫なんですけど、ジュースだけはダメなんです。生のトマトとは違う濃厚な味が気持ち悪さへと直結して吐いてしまいます……。


「今回の怪異に限っては効果時間終了まで待つしかないだろう。あるいは……対応してみるか譲葉? お前の魔法ならば過去の改変も一応は可能だろう」

「……ううっ、どうせまた失敗して余計に混乱するだけですよっ!!」

「アマリリスはどうした?」

「私の部屋でアニメでも見ているそうです」

「あれは本当にアガシオンか? 自立度が高すぎるだろう? そのうち反逆とかするんじゃないのか?」

「自業自得だと思います。大切にしてあげれば絶対にそんなことはありません」

「まあいい。アマリリスはあれで人形だ。『境界式』の影響は受けないだろう」

「他に何かすることってありますか?」

「適当に塩でもまいて飾りつけでもしておくといい。私は料理の準備でもしておこう」


 そんなわけで本日は急遽コスプレパーティをすることになりました。まあ、パーティと言っても集まってご飯食べる程度のささやかなものですけど。その小さな幸せすらぶち壊しにくるというのならば、私は戦います!


 結界はお母さんが適当に書き換えたので、私は家の中にペタペタとお札を貼っていきました。ないよりはマシだと思います。

 それと同時に見えた存在感の強い霊体は太陽に属する光の魔法を照射して消去。これは時間操作系魔法の担い手である私の反則技。

 明日、五月祭の太陽の光を先取りすることで無理矢理幽霊を消しているのです。ですがこの手の魔法は正直魔力がいくらあっても足りません……! 無限リポップする幽霊が相手では正直不利すぎます……。

 この幽霊退治でEXPがたまってレベルアップでもするというのであれば凄くいい狩場なのに。現実世界もアップデートしてEXP制を実装すべきです!


「もういい。お前さんは頑張った。そろそろ2人とも来る頃だろう。そんな疲れた顔をしていないで少しくらいは休んでおけ」

「はい。でも、本当にパーティなんてしてて大丈夫なんですか?」

「問題ない。お前さんはまだまだ子供。大人を頼って当たり前の年齢だ。この件は私に任せておけ。私はまだまだ魔法使いを引退するつもりはないからね」


 部屋に戻って少し休むことにしました。


「お疲れ様です」

「ありがとうございます」


 私が着ている漆黒のドレスの本来の持ち主であるアマリリスさんからねぎらいの言葉を頂けました。どうやら私があれこれしていることはばれてたようです。


「何かあれば私も手を貸しましょう。七大驚異のうちの一つ『境界式』、面白いことをしてくれます。いずれは会ってみたいものですね」

「……また、私の周りで事件が起きてしまいました」

「今回の件は譲葉さんを狙ったものではありません。全世界が対象なので気にしない方がいいでしょう」

「でも……」

「人間が七大驚異に対抗できるだけの力を身につければあるいはこんなくだらない悪戯はなくなるかもしれません」

「私に期待しているんですか?」

「別にただの小娘に期待などしていません。ただ、相応の覚悟があるというのであればやってみればいいでしょう。期待など所詮は他人の戯言。悪口の亜種です」


 そんなことより、とアマリリスさんは続け、


「このアニメの3話はどれですか? 次のDVDが見つかりません」


 なんて……言うんです。


「たった一つを極めるのか、色々手を出してみるのかは貴女の自由。貴女は魔法使いではありますがアニメの主人公ではありません。適当にやっていては絶対に壁にぶつかります。ですから目的を持って行動しましょう」

「はい。努力することは苦になりませんから頑張ります!」

「頑張るのは構いませんが、体を壊したらただの馬鹿です。休むことも覚えてください」

「……はい」


 しばらくベッドに倒れこんでいたら、ピンポーンというチャイム音。


「お友達が来たようですね」

「はい、それでは行ってきます」


 私達のワルプルギスの夜はまだまだ始まったばかり。デビルホーンを頭につけて玄関へと向かいました。

 異変があったら私がみっちゃんとくーちゃんを護ります! どうかお2人が今日のパーティを何事もなく楽しんでくれますように!


――Walpurgisnacht Party/ワルプルギスナハトパーティ 了

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