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#20 アニメの話

「ゆずちーが見てるという謎の夜アニメ鑑賞会をすべき。あたしの知らないアニメーションがこの家にあるんだよっ!」


 ゆずちーの家に押しかけての第一声がこれです。


「えっ!?」

「よしっ、それだっ!」


 ゆずちーの部屋には謎の白いディスクがいっぱいありました! ふっふっふ、実は謎でもなんでもありません。あれは録画用のブルーレイディスクです! うちにもあるから知っています!! ホワイトレーベルとかいうやつで印刷したり、マーカーで文字書いたりできるんです!


「よしっ、適当に再生しよう」

「く、くーちゃんそれはダメっ!!」

「みっちゃん、ゆずちーを押さえつけておくんだ!」

「ラジャッ!」


 慌てるゆずちーの声を空しく、再生されるアニメディスク。適当に早送りした後に1倍速再生された映像は、女の子がピンクのキラキラ光る背景で裸?になってどこからともなく出現した服が自動的に装着されるシーンだったんだよ!

 つまりは、えっと、ね……魔法少女の変身シーンでした!


「さすがゆずちーだ! ゆずちーは私達の期待を裏切らなかった!!」

「おおおおおお!!」

「ああああぁぁぁぁ……」


 その後は魔法少女が敵を魔法で爆破してエンディングへ。……いつの間にかゆずちーがアニメになっていました。


「あはははは、面白かったなみっちゃん」

「だねっ、次はこれにしよう」

「よしっ、スロットイン」

「待って、待ってください。それはダメです」

「みっちゃんゆずちーを押さえておくんだ!」

「イエスマム」


 美少女達がお風呂で戯れるシーンでした。無駄に湯煙がいっぱい! なんなんですかあれは! あれじゃあよく見えません!


「そうだっ! 温泉に行こう、あたし達3人で!」

「夏休みにか? 保護者同伴じゃないと無理だろ」

「ゆずちーママなら忙しくてもきっとついてくるような気がするんだよ!」

「いや、待て待て。私はあの人苦手なんだよっ! 保護者役なら海深さんでいいだろう」

「あたしがピンチな気がするんだよねっ!」


 次の映像ディスクは、ラブコメ?でした。ポロリなシーンでおっぱいに謎の白い光が入って視聴者たる我々には「見せられないよ!」状態になってるんですけど! どういうことなの!? これが最近のアニメなの!?


「取り敢えずゆずちーはむっつりスケベということでオッケー?」

「えっ!? ど、どうしてそういう判断に……!?」

「さっきからエロエロだよアニメ!」

「今時のアニメはこれが普通なんです! 勘違いしないでください!」

「そうなのくーちゃん?」

「そんなことはどうでもいい。それよりもなんだあの光は!? 規制なのか!? お色気シーンは地上波じゃお見せできませんってか!? だったら放送するなよなー! そんなのOVAでいいだろ!」


 なるほど、これが噂に聞く規制というやつですか! 初めてみました! 邪魔ですね! 子供に悪影響を与えるとかそんな理由だって聞いた気がしますけど、そもそも子供は深夜アニメを見るのでしょうか!? いいえ、見ません。あたしは寝ます!

 え? ゆずちー? ゆ、ゆずちーはあたし達よりも大人なので大丈夫です!


「………………」


 次のディスクを入れたらくーちゃんが無言になりました。うーーーむ、これはないとあたしも思いました。


「キャアアアアアアアッ、な、な、なっ、なんですかこのアニメは!!」


 ディスクの所有者であるはずのゆずちーも絶賛混乱中。

 現在、映像の中では女の子2人が裸になってベッドで「あんあん」プロレスごっこ(比喩)中です。


「ゆずちぃぃぃぃ、アウトォォォォォ!!」

「違います、これは私のブルーレイじゃありません!」


 正気に戻って停止ボタンを押し、ディスクを抜き取る。


「消毒だあああああああああ!!」


 ゆずちーの手からくーちゃんがディスクを奪い取ってパキッとへし折りました。


「悪は滅びた。で、ゆずちーのじゃないなら誰のだって言うつもりだ!!」

「母のです!!」

「なるほど……じゃあ別にいいか」

「はい」


 いいのかなと思いつつも次のアニメに目を向け「このアニメ面白いなー」「このシーンいいでしょう」と口先だけの会話を交わす。みんなさっきの光景をなかったことにしたいんですね、分かります。


「ねえねえくーちゃん、ゆずちー! 今のアニメの主人公みたいな人、うちの学校にもいたよねっ!?」

「どっちの意味でだ!? 容姿が似てるのか!? それともフラグ的な意味でか!?」

「あっ、あー……隣のクラスの宮下君のこと、……だよね」


 宮下!?

 この前、「またお前か宮下!」という怒鳴り声を聞きました!


「誰だそいつはっ!? 男子の名前なんて覚えてないわーっ!」

「名前は知らないけどこの前ゆずちーの目の前で転んでゆずちーのスカート脱がせた人じゃないかとあたしは予想します」

「みっちゃん!! そういういらない情報は外部に漏らさないでください!! お願いしますからぁ……」

「そいつは他にもそんなラッキースケベを実行してるというのかねみっちゃん?」

「体育の授業で女子を押し倒してたのをあたしは見てるんだよねっ!」


 そして宮下氏は複数の女子に囲まれることになりましたとさ。その後彼がどうなったのかは知りません。


「よしっ、そいつは危険だ。今のうちにポンに粛清してもらおう」

「この前ポンちゃんに殴られてたよ。凄いポンちゃん怒ってた」

「すでにやらかした後だったか……。凄いなそいつ、リアルにそんなやつがいるとは。社会に出たら即効で逮捕されるんじゃないのか?」

「でもアニメに出てる人は逮捕されないんでしょう?」

「主人公だからな」

「宮下なる人物も主人公かも!」

「なんの主人公ですか……。宮下君はただちょっと運が悪いだけで普通の人です」


 宮下某のことはまた今度にしましょう。さて、次のディスクをいれて、再生っと。


「爽やかテニスアニメかと思いきや、途中から必殺技とか出てくる謎のアニメでした」

「スポーツもカバーとかゆずちーは見てるジャンルが広いな」

「あ、こっちのやつは知ってる。合唱部作って歌うアニメだよね」

「このタイトルは少年漫画のバトルモノだな」

「ゆずちー本当にいろいろ見てますね。面白いんですかっ!?」

「そ、それなりには……。たまにハズレもあって、そういうのは3話くらいで切ってしまいますけど……」

「ところでアニメってどうやって作るの?」


 あの絵が動いてるのって不思議なんだけど。


「一番簡単なのだと1枚ずつ絵を描いて、それを連続して表示するってやつじゃないのか?」

「な、なんとー!? 1秒間に何枚の絵が必要なのっ!?」

「そこまでは知らんわー!」

「ゆずちー!!」

「えっと、1秒を24コマに分けるのがセオリーで、3コマにつき1枚なので、1秒では8枚ですね」


 1秒のために8枚も絵を描くなんてあたしには無理です!


「30分アニメだと14400枚も!?」

「みっちゃん、オープニング、エンディング、CMがあるので恐らく10000枚くらいです」

「10000枚!? 1週間で10000枚もあたしには用意できません!! 1日1000枚描いても終わらないなんてとんでもない地獄です!! 死ぬぅっ!!」


 はっ、絵を用意し終わっても音がない!! キャラクターが全員無言ですよっ!?


「声とかはアフレコでいれるわけで」

「アフレコって何? 旅レコの親戚?」

「違います……。アニメと旅行を混ぜないでください。アフレコというのはアフターレコーディングの略で、まずは音のない動画を作成して、後から音声をいれることを言います」

「紙芝居はアフレコですか!?」

「えーっと……、まあ、その、そうです」

「ゆずちーが投げたぞ……」

「ちなみに音声を先にとって、それを元にして動画を作るプレスコという方式も存在します。しますけど、今のアニメは大部分がアフレコ方式です。動画が出来上がってないと声優さんが分かり難いというのもあるみたいです」

「ゆずちーはやっぱりアニメには詳しかったようです!」

「そりゃそうだろう。ゆずちー自身がアニメ化してるくらいだしな」

「してません!」

「ん? でもこのDVDは……?」


 くーちゃんが見つけたDVDを再生したら、タイトルが魔法少女プリチーゆずちーでした。


「ええええええええええええええええ!?」

「ほ、本当にゆずちーがアニメ化してる……!」

「おいおいゆずちー……このDVDいくらで売ってるんだ? 通販で売ってるなら買うぞ」

「ちっ、違います。こんなものを勝手に作る人がいるとしたらうちの母くらいしか!!」

「ゆずちーママいい仕事してますね」

「停止ですっ、停止!」

「待て待て! 中身が超気になるんだ! 最後まで見せてくれ!!」

「くーちゃん、これ4時間あるよっ!」

「長いなっ!!」


 ゆずちー全力の抵抗によってこの日のプリチーゆずちー上映会は中止となりました。

 なりましたが、後日ゆずちーママに直接交渉したところ、例のDVDを1枚2000円で譲ってもらえることになりました! お、お金が、足りません……!


 あたしは生まれて初めてアニメのためにお金を貯めようと思いました! 絶対にDVDを手に入れて見せます!

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