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#2 雲の話

「私、くもになりたいです」


 8時15分。眠くて机に突っ伏していたらいつの間にか登校してきていたゆずちーがそんな発言をしました。


「えっ? ゆずちー蜘蛛になりたいって!? いくらなんでもそれはない! ゆずちーは蝶々にしておきなさい! 蜘蛛になるのはみっちゃんで十分!」


 あれ? いつの間にかくーちゃんもいる!?


「なにそれ? あたしが超器用ってこと? 腕6本分の仕事します、的な?」

「蜘蛛の足は8本だろ常識的に考えて」


 えっ? あれ? 昆虫って6本足じゃなかったっけ? あれ? あれっ!?


「う、腕が6本、足2本だと思います! 現実的に考えて!」

「みっちゃん……もっと現実見よう」

「あの……私の言っているくもは……空の雲なんですけど」


 空の蜘蛛……もとい雲。あの白いワタアメみたいな雲かぁ。雨の源であり、あたしをびしょ濡れにする元凶でもあるにっくき雲!! なんで!? どうして雲になりたいの!? いずれは地上に激突して死ぬ運命だよ!!


「ゆずちー考え直そう! 死ぬのはまだ早いよ!」

「えっ? どうしてそういう風になったのか分かりませんっ!?」

「まあ、待てみっちゃん。まずは理由を聞こうじゃないか。ゆずちー、一体君はなぜ雲になりたいんだ? 原稿用紙2枚分くらいで話してごらん」

「そんなに話すことありません! ただ、ゆったり流れてて気持ちよさそうだなぁって思って」

「そういう理由ならあたしはずっと寝てるイメージしかない猫になりたい! 背中撫でて!」


 よーし、と言いながらくーちゃんがあたしの背後に。そして、肩を思いっきりぎゅっと!!


「いだだだだだだだだ!!」

「朝だぞ、おきろおおおおおお!!」

「ぎゃあああああああああーっ!?」


 しばらく玩具にされてあたしはもうダメ……。雲のように流れて消えたいです……。


「だ、大丈夫ですか? みっちゃん……」

「ゆずちー、今ならあたし……雲になりたいよ」


 心配してくれてありがとうねっ! そしてよくもやったなくーちゃん! このお返しは……そう、一ヶ月くらい後にねちねちとしてやるーっ! そうだっ! 体育の授業中の柔軟体操で酷い目にあわせてあげます!


「二人とも考え直せ! 雲は、白くてゆったりしてる雲以外にも、真っ黒でゴロゴロ言ってる危険な雲だってあるんだぞ! 感電するんだぞ! 救急車だぞ!」

「え? 何? くーちゃん雷が当たって感電したの?」

「昔な、コンセントにクリップいれてバチッとなってから電気はトラウマだ! 分かったか。雷なんて死んでしまえっ!」

「くーちゃん、危ないことはやめましょう、ね?」

「昔の話だよっ、今はやってないよ! 精々虫除けスプレーにライターで火点けて火炎放射とかしてるだけだって」

「きゃーくーちゃんカッコイイ!」

「今度くーちゃんのお母さんに言いつけます」

「ごめんなさい、もうしません。だからそれだけ勘弁してください」


 くーちゃんが土下座してるところなんてとっても久しぶりにみたかも。


「よしっ、さっきのお返しに言いつけます!」

「絶交だ! みっちゃんとはもう絶交だ!」

「くーちゃん、ちょっとジュース買ってこーい。そうしたら黙っててあげますから」

「くそっ、上からモノを言いやがって……!」

「みっちゃんが虐めてたってみっちゃんのお母さんに言いつけます」

「ごめんなさい嘘です、ちょっとした冗談だったんです、お許しくださいゆずちーさま! どんな過激な命令でも聞きますからどうかチクリだけはっ……!」

「みっちゃん、どんだけ必死なんだ……!」

「えっと、その、じゃあ……くーちゃんを虐めないでください」

「イエッサー!」

「そこはマムがよかったんですけど……」

「ゆずちー、みっちゃんの頭に一体何を求めてるんだ? サーがわかってもマムなんて分かるわけないだろう?」

「もしかして今、あたしのことそこはかとなくバカにされてたりする?」


 正直何を言ってるのかよく分からなかったけど、多分あたしのことをバカにしてると思う。ゆずちーならともかく、くーちゃんにバカにされるのは納得いきません! テストの点数だって似たようなものなんです! ゆずちー視点でならくーちゃんも立派なバカにカテゴライズされるんだから!


「そうそう、富士山の上の方まで上ったことがあるんだけどさ」

「くーちゃんのバーカ、くーちゃんのバァァーカ!」

「みっちゃん唐突にどうしたの……!?」


 あたしの問いを無視して新しい展開に持ち込ませるわけにはいきません!


「その通り、私はバカだ。でだ、富士山の上まで行ったんだけどさ」


 あっれー? 流れが止まらないよぅ……!? これはもしかして流れに乗らないと乗り遅れてハブられるパターンですかっ!? じゃあ乗っかります!


「上ってどこ? 頂上まで行ったの? 宇宙まで行ったの?」

「いや……車で行けるところ。お土産売ってる店があるところだよ」

「あれ? あたし富士山のお土産貰ってません!! どういうことなのくーちゃん!」

「みっちゃん落ち着いて……!」

「何言ってるんだ君は? 前に土産話してやっただろう」

「それはお土産じゃないと思います!! 物理的な物を要求します!」

「私もそれはちょっと違うと思います。あ、いや、別にお土産をねだってるわけじゃなくて、ですね……」


 土産話って大抵はいいなぁとか羨ましいなぁとか、妬みとかしか生まないけど、物理的なお土産は感謝と笑顔を生むんだよ! だからあたしの笑顔成分を補充するためにも真っ当なお土産が必要なんです!


「分かった分かった。今度どこか行ったら買ってくる。だから今は話を聞け。とにかく上の方まで行ったんだけど、そこまで行くと雲が近くをびゅんびゅん猛スピードで飛び回ってるんだよ」

「つまり実際にはゆったりと流れてはいないってことでしょう?」

「そういうことだ、つまり……」

「雲になりたいってことは、全力疾走で走り続けるってことだねっ!?」

「ええええええええええ!?」


 今のえええはゆずちー魂の叫びである。


「そういうことだ! しかし今のゆずちーを見ろ。筋力も持久力もないこのほっそりとした体!」

「チョイ待ち。胸の辺りには多少の弾力がありますよ隊長!」

「あんまり変なこと、言わないで……」

「胸がない我々に対するこの余裕……」

「え? あたしには今のゆずちーに余裕があるようには見えませんけど?」


 いつ泣いてもおかしくないような顔してるよっ!? あたしの発言が恐らく原因なんだろうけど、でもそのおっぱいはちょっとずるいと思いました! あたしも早くボーンと大きくなって欲しい!


「とにかくだ。ゆずちーはまずは走るべきだ! 分かったなゆずちー! お昼休みはマラソンだ! 校庭20周だ!!」

「に、にじゅう……そんなにはしれ、ません……」


 泣きそうな表情のまま青くなっていくゆずちー。まるで雲じゃなくて青空だね。……そんなわけないですよねー、真っ黒な雲って表現した方がピッタリですよねー。


 そしてゆずちーはお昼休みに校庭で給食を吐いた。


「ううっ……わたし、雲になんて絶対になりたく、ありません……」


 保健室行きのゆずちー、職員室で怒られる我々。


「雲、恐ろしいな」

「だね、くーちゃん」

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