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#10 ◆ハロウィンの話

 今、あたしはダッシュで逃げていた。車より早く、ダチョウよりも早く、チーターよりも早い。きっと今のあたしは女豹ってやつなんだと思う。なぜ逃げているのかと言うと、


「トリックオアトリート!」


 家からダッシュでゆずちー家を目指していたところポンちゃんを見かけたので声をかけてみたよっ! ハロウィンだしね、これが挨拶で問題ないと思う。

 それにしてもせっかくのハロウィンなのにカボチャの1つすら見かけないってどういうことなの!! もうちょっと広い通りに行けば1つや2つ見かけるとは思うよ。でもねっ、違うんですよっ! あたしが言いたいのはもっとこうみんなが積極的にやってほしいということなんですよっ! せめて仮装くらいしませんかね!? 私服のあたしが言っても説得力ゼロだけど、ゼロだけどさっ!


「なんや? お菓子か悪戯かお姉さんに選べと言うんか?」

「そうそう」

「お菓子は持ってない。だからかわりに悪戯をプレゼントしようと思う」

「えっ!? それは違うよっ! お菓子をくれなきゃ悪戯するぞーって言うのはあたしの――」

「お菓子がなければ悪戯すればいいじゃない! 時のマリーアントワネットは仰った」

「誰だか知らないけどそんなこと言った人は歴史にいないと思うよっ!」

「トリィーーーック!!」


 以上である。ゆずちーの家の近くでなんとかポンちゃんを撒くことがことができた。はぁ、よかったぁ。もう少しで人様にはお見せできない悪戯をされてしまうところだったねっ! 危ない危ない! この歳で社会的に抹殺されるのはごめんだよっ!! 捕まるならポンちゃんだけにしてねっ!


「おじゃましまーす。ゆずちーさっきぶり」

「みっちゃんいらっしゃい。まだくーちゃんはきてませんよ」

「りょーかい。それよりも水をくれませんか。さっきポンちゃんに襲われて逃げてきたところなので」


 ゆずちーに麦茶を貰って喉を潤している間にくーちゃんが出現。テレポーテーションかっ!?


「待たせたな諸君。シャワー浴びてたら遅くなった」

「今のあたしは走ったせいですごくシャワー浴びたいです……」

「何だ? ダイエットでもしてたのか? みっちゃんが? ありえん!」

「ポンちゃんが悪戯するって言ってずっと追いかけてきたんですよっ!」

「……そうか。頑張ったなみっちゃん。ゆずちー、警察に電話して不審者がいるって言っておいて」

「えっ、……でも……えっ? 本当に?」


 いくらなんでもポンちゃんが警察に捕まるのは可哀想すぎる。ポンちゃんにはゆずちーの胸をAランクからBランクまで昇格させた功績があるんだしね! ハロウィンのカボチャに免じて許してあげよう。


「あのカボチャ、ジャックオランタンって言うんだぞ」

「なんで?」

「いや、なんでって……それは知らん」

「くーちゃんは相変わらずのにわか知識だねっ!」

「君にだけはそういうこと言われたくないわっ!」

「まあまあ……」


 ジャックだかクイーンだか知らないけどそれはまた今度! 今日のメインはそれじゃあないんだよっ!


「ゆずちー! トリックオアトリート!」

「はい、どうぞ」

「やったあぁぁぁぁぁ!」


 ゆずちーお手製クッキー袋入りを手に入れたあたしが大喜びするのは当然。当たり前。自然の真理!


「おお~う、あま~い」


 これぞ今日のメイン! トリックオアクッキーだ!!

 お姉ちゃんにさっきトリックオアトリートって言ったら、凄いことになってしまいました。


「お菓子か、悪戯か、ですか?」

「そうだよっ、お菓子を出すといいと思うんですよ」

「お菓子はありません。海々ちゃん、さあ、私に存分に悪戯をしなさい!!」

「えっ!?」

「さあ、トリックオアトリック!! 悪戯してくれないと悪戯してしまいますよぉー!」


 あたしがゆずちー家にダッシュしていた理由である。


「食べるの早いな」

「くーちゃんもどうぞ」

「おう」


 そしてくーちゃんもゆずちーに顔を向け、


「トリックアンドトリート!」

「はい……って、あれ?」


 クッキーを手渡してから何かがおかしかったことに気づいたゆずちー! あたしも適当に聞いていたわりに気が付いたよ! オアっていうところをアンドって言った。絶対に言いました! みっちゃんイヤーに間違いはありませんっ!


「お菓子をくれても悪戯しちゃうぞー!」

「きゃあっ!? きゃあああああああああ!!」

「これが我々の目指すべき壁、Bカップかっ!!」

「やっ、やめっ!!」


 さっきポンちゃんに捕まっていたらそうなっていたんだろうなぁという光景が目の前に広がりました。くーちゃんがゆずちーを襲撃。両手で揉みまくっております。ゆずちーが涙目になったところで特別公演は終了しました。


 あたし……大人になってもああはなりたくないなぁと思いました。


「……くーちゃん、あとで、覚えていてくださいね」

「魔法で呪殺されるって!」

「ま、魔法少女はそんなヤバイ魔法は多分使わない! いや、でも魔砲で狙撃される可能性は……!!」


 なんだかよくわかりませんけど、くーちゃんはソファの陰でぶるぶる震えだしました。


「みっちゃんも……さっきのことを学校で喋ったりしたら、とんでもなく悪夢をプレゼントします……」

「喋りませんっ、絶対に喋りません!! なんだか今日のゆずちーは怖いよっ!!」


  低い声で急に言われて背中が寒くなったよ……。


「よし、復活。私へお仕置きしたいのならすればいい。だがな、ゆずちー。先にこの話はしておこう」

「なんの話ですか? くーちゃんの胸が一生Aカップになってしまう呪いの話ですか?」

「ちょっ、待て待てゆずちー!! いくらなんでもそれは代償としては大きすぎないかっ! せめて中学卒業するまでくらいの期間になりませんかねっ!?」

「……どうでしょう?」

「ゆずちぃぃぃぃ!! 後生だ! なんでもするからお許しを!!」


 土下座までし始めるくーちゃん。……名前の由来はクールなのに全然クールじゃないよね、くーちゃんって。


「ところでくーちゃん、何の話をしようとしてたの? あたしにも関係ある話?」

「ある。すごくある。もちろんカウンターハロウィンの話だ」

「いつも通りでいいよねゆずちー」

「はい。ワルプルギスの夜にお願いします」


 ハロウィン――10月31日にあたし達がクッキーとかを貰うかわりに、あたし達はワルプルギスの夜――4月30日にお返しをする。それがいつの間にかルールになっているんです。


「ハロウィンにワルプルギスか。日本人にはあんまり馴染みない言葉の上に意味もよくわからないんだけど、まあ別にいいか。楽しければそれで」

「そうだねくーちゃん」

「私もそう思います」

「でも来年は仮装とかするべきだと思うぞ」

「それは来年考えることにして、今はクッキーがあればそれでいいんですよっ!」


 くーちゃんがその日カボチャに襲われる悪夢を見たらしいけど、ゆずちーは関係ないと思う。まさかゆずちーの復讐だなんてそんなことあるわけないよね……あは、ははははは……。

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