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#1 カレーライスの話

「ところでみっちゃん、カレーライスは好きかね? 私は辛すぎなければ好きだ!」

「何? くーちゃん? カレーに告白でもするの? だったら少しくらい駄目なところも許容してあげないと嫌われます!!」

「ちげーよ! 食べ物の話だよ! カレーだよライスだよ! お米だよ!」


 給食のカレーを飲み込んだ後にスプーンを振り回しつつお米を連呼しているくーちゃん。


「あのですね、ご飯が跳ぶので……、スプーンぶんぶんするのはやめて欲しいな、と……」

「と、ゆずちーは言っています。どうするんですかくーちゃん」

「だが断る! と、くーは言いました!!」


 くーちゃんとゆずちーは幼稚園からの幼馴染で、3年生の時からずっと同じクラスという腐れ縁。中学生になった今でも同じクラスだしね。


「いいかね、カレーライスというのはインドが発祥の和食なんだよ」

「ごめんなさい、何を言っているのか分かりません……」

「つまり、ラーメンの仲間だってくーちゃんは言いたいんだねっ!?」

「みっちゃん、それも違うと私は思うんですけど、あれっ……? 私の知識が間違ってるのでしょうか?」

「とにかくインドで生まれたんだ、分かったかみっちゃん、ゆずちー」


 確かにカレーとインドが結びつくことは多いです。インドがどこにある国なのかはよく分かりませんけど! でも知らなくても困らないし、カレーを食べられなくなるわけでもありません。じゃあ、問題ないよねっ!


「カレーはこうやって、ご飯の壁でルーを押すようにしてすくって食べていくと最終的にお皿はこんなに綺麗になります」

 カレーをどばっとかけたはずなのに真っ白なお皿がある!! くーちゃんならともかく、ゆずちーがお皿をなめるわけないし、凄い技です!

「おおっ、ゆずちー凄い! 職人技だねっ!」

「えっ、そ、そんなに凄い技じゃ……」

「待ちたまえよ、君達。確かにその技術は修得するのに10年の修行がいるだろう」

「そんなにいりませんっ!」

「しかしだ!」


 ゆずちーの抗議を無視する形でくーちゃんは続ける。


「そんな食べ方で本当にカレーがうまいのか! 好きなように食べてこそ本当の美味しさを味わえるんじゃないのか! 型にはまった食べ方なんて精神的苦痛以外のなんでもない!」

「じゃあくーちゃんはまず、スプーンを捨てて、フォークで食べてみるべきです!」

「待て待て、どうしてそうなる。確かに完全にアウトサイドな食べ方だけど、フォークはさすがにありえないだろう。だってカレーは飲み物に分類されてるんだ。飲み物はフォークじゃ無理だ」


 そっか。飲み物ですか。確かにスープをフォークで飲むのは難しいよね。じゃあ、


「はい、牛乳についてたストローです」

「お、おう……」


 震える手であたしのストローを受け取るくーちゃん。


「くーちゃんやめましょう、それは流石に無謀だと思います」

「お、女には決戦の時というのがっ!」

「そういうのは好きな男子に告白する時とかにとっておきましょうっ!?」

「うわっ、ジャガイモがストローに詰まって吸えないぞおおおおおお!!」

「くーちゃんは討ち死にしてしまったでござる」

「ちくしょー!」


 くーちゃんはあたしのストローを投げ捨て……ようとしてから、立ち上がり教室の隅にあるゴミ箱まで捨てに行きました。ああ、あたしのストロー……牛乳どうやって飲めばいいんですか?

 パックの牛乳をしばらく観察した後、角の方を立たせてからはさみで切ったら、いい感じの飲み口になりました。みっちゃん天才!


「あたしがカレーライスの雑学を教えてやろう。心して聞くように」

「もうカレーはいいからチョコレートの話をしましょう」

「黙って聞け。チョコレートは放課後だ」

「えっ? 給食からお昼休みまで全部カレーライスの話をするんですか?」

「私はそこまでカレーライス大好き人間じゃないぞ!」

「カレーとチョコレートって色が似てるよねっ、そう思わないゆずちー」

「そうはさせん。まずは私の話をきけえええええええ!!」


 くーちゃんが机をばんばん叩いて騒ぐのであたしのゆずちーもこの流れを変えるのは無理だと判断して大人しく話を聞くことになりました。


「昔、日本の偉い人がインドに行ったんだ」

「何しに?」

「多分、ほら修行とか、だろ」

「つまりは知らないんですね」

「ゆずちー、話の腰を折るな」

「ごめんなさい……」

「とにかくインドに行ったんだ。そこで本場のカレーライスを食べてみようって話になって、インドの料理店でカレーライスを注文したら」

「日本語が通じなかったっていうオチだねくーちゃん! 私でもそのくらい分かるよ!」

「違うわっ、いや、ある意味そうなんだろうけど違うんだよ! カレーライスを注文したら、なんとだな、ヨーグルトご飯が出てきたんだよ!」

「なんで?」

「いや……なんで、って言われても……。カレーライスって英語だろう? だからインド語だとヨーグルトご飯を指す言葉だったんだろ?」

「インドだと多分カレーではなくて、カリー……だと思います」

「あ、カリー聞いたことある。インドカリーって聞いたことある! そっか、インドだとインドカリーって注文しないといけないんだねっ!」

「そ、そうなんだよ。なっ、分かったか」

「あのね二人とも、真実を知ってる人がこの中に誰もいないのが一番の問題だと思うのですが」

「興味があるのなら調べてみるといい。私の言っていることはほぼすべてが、……いや30%くらいが真実だ!」

「70%も嘘があったら困るよねっ! もしかしてくーちゃんの名前も70%が嘘で、性別も70%が嘘で、カレー好きも70%が嘘なんじゃないかって疑っちゃうよね!?」

「君は間違いなく脳ミソの70%はバカだと思う」

「つまり30%って天才ってこと? 凄い! あたし天才だってゆずちー!」

「えっと、みっちゃんがそれでいいのならばいいのではないでしょうか……」

 微妙な笑いを浮かべながらそんなこと言われても……。あたしの構築したロジックのどこにミスがあるというのかっ!

「しっかし、給食のカレーはあまりうまくないな。シェフを呼べ!」

「給食費を考えると、一食あたり200~300円くらいなので、あまり贅沢は……」

「待ちたまえゆずちー。100円のレトルトカレーの方が美味しい気がする。納得がいかない。シェフを呼べ!」

「作ってるのはシェフじゃなくて給食のおばちゃんだとあたしは思うのでした」

「よく考えたら給食のおばちゃんってうちの母親じゃないか!? なぜに手作りカレーはレトルトカレーを超えられないのか」

「そんなことはないと思いますけど……個人の好みの問題や、作ってる人の技量もあるんじゃないかと……あの、変なこと言ってごめんなさい」


 ゆずちーはもっと自分の発言に自信を持っていいと思う。このメンバーの中では一番頭がいいんだし、あたし達の中で間違いが出てきたら、それを直すのはゆずちーの役目だと思うんだよね。


「……うちの母親が料理下手でごめん。家庭内だけならよかったのに給食に影響まで出して本当にごめんなさい」

「えええっ!? く、くーちゃん急に土下座とかしないでください。ほら、イスに座って、ねっ、ねっ!?」

「仕方ない。あたしが美味しいカレーを作ってあげましょう!」

「みっちゃんが? 目玉焼きを炭化させた伝説の料理人みっちゃんが?」

「ゆでたまごを電子レンジで作ろうとして爆発させたくーちゃんに言われたくはないんですけど!」

「待て待て、私はちゃんと電子レンジで作れるって情報を手に入れてだな……」

「レシピは記憶していなかったんですね……」

「とにかくっ、今は黒炭のみっちゃんでも、将来はカレー屋のみっちゃんになってるから! 期待しててねっ!」

「そこまで言うのなら期待させて貰おうか。最低でもレトルトカレーは超えてみせろみっちゃん!」

「ふぁ、ふぁいとですみっちゃん!」

「うおおおおおおおおおっ!!」


 15年後、立派なパティシエールになっているみっちゃんことあたしの姿が!


「なんでだよっ! 中学の時うまいカレー作るって意気込んでたのになんでお菓子職人ルートに入ったんだよ!」

「そんなこと言ったっけ? くーちゃんの記憶違いでしょ。それにあたしは女の子だし、辛い物よりも甘い物の方が普通に好きだよ」

「カレーが食べたいのなら私が作ってあげますから……」

 唯一結婚してるゆずちーは凄く料理上手な奥様としてご近所さんに知れ渡っていたりします。

「つまり明日はゆずちーの美味しいカレーとみっちゃんの崩れたお菓子が食べられるわけだな」

「崩れてないよっ、性格も頭もこんなだけどあたしはちゃんと職人してるよっ!」

「どうだか」


 あたし達の関係はもしかすると一生こんな感じなのかもしれない。

 でもいいよね、ずっと変わらない友人って。

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