第八話『平和は簡単には来ないのです』
名「…痛々しいね。」
隆「誰のせいだ誰の!!」
谷「普段の俺の扱いを思い知れ!」
谷津冶が病院送りとなってから早一週間、THE STEGOでは変わらない日々が送られていた
そして、ラウンジでも相変わらずの面々によりしょうもない会話が繰り広げられている
「そういえば、そろそろ梨田は退院する頃じゃないのか?」
ふと思い出したように涅月は向かい合いに座る高上に尋ねる
「まあ別に帰ってこなくても構わなくもないんですけどね~あっ!そうだ!」
高上はわざとらしく手をポンと合わせ、離れたテーブルに腰掛けている人物に声をかけた
「変態先輩、何か知りませんか?」
「……その呼び方、いつになったら止めてくれるんだ?」
「君が星になったらじゃない?あっそうだ!いっその事やけになって違う女装をしてみる?」
「止めてくれ、これ以上やれば俺は社会的に死んでしまう……」
同席している名似何からのとどめを受け、変態改めて雷堂隆次はガックリと肩を落とした
質問の返答を期待できないと悟った涅月は自分の隣に座る柳垣に同じ質問をした
「で、どうなんだ?」
おそらくもう二日はかからないだろうと二人が踏んでいたが、柳垣からの答えは予想を裏切る物だった
「あと一週間はかかりますね。」
「えっ!?ただの食中毒ですよね。」
「なんか、新しく相部屋になった人がニトログリセリンが好きだったらしくて、爆発を止めさせようとしたら逆に自分だけ巻き込まれちゃったらしいんですよ。昨日一人で様子を見に行ったんですけど、完全にミイラ男みたいになってて面白かったですよ~」
笑いながら柳垣が見せた全身包帯姿になった谷津冶の写真を見た涅月と高上は互いの顔を見合わせる
「………ニトログリセリンってあの危険薬品、だよな?」
「私はまだ習ってませんけど、確かドゥーンさんがよく作ってました。」
そう言って二人は事務員のスペースにいるドゥーンを見つめる
視線に気づいたドゥーンは机の上の書類を放り出してラウンジの二人に近づく
「何だお?おっちゃんの顔に何か付いてるかお?」
「もしかして今ニトログリセリンを持ってたりするのか?」
「そんなん持ってないと思うんだけどね、普通」
どうせだからと思い二人が尋ねてみると
「う~ん、違うのならあるお…………あっ、あったお!」
ドゥーンは胸元のポケットから出したのはよくわからない小瓶だった
「ん?なんだなんだ?何か始めんのか?」
「面白そうだね」
気になった上級生二人がゆっくりと近づき、ドゥーンの説明が始まった
「これはおっちゃんが作った特殊薬物だお。」
「ほう、一体どのような効果があるんだ?」
「それは聞かない方が良いと思うよ~」
先ほどまでとは態度を一変した名似何の忠告が聞こえないまま隆次が食いつく
そんな反応に喜んだドゥーンは元気良く説明を続ける
「これはおっちゃんが作った自白剤だお。飲めばたちまち」
「「言わなくていい」」
名似何と涅月に止められたドゥーンは自分の席に戻り、テーブルの上には問題の自白剤が残されている
「私、少しお花を摘んできますね」
「分かった。ならそろそろ私も明日の予習でもしようかな?」
「そういえば涅月達は明日から化学の授業がありましたね?」
「まあ、どうせだから海にでも行きたいんだけどな」
柳垣はどこかに行ってしまい、涅月と高上は世間話を再開しTHE STEGOに平和が戻った
かのように見えたが、どうやら隆次と名似何は何やらこそこそと内緒話をしている様子だ
「どうする隆次?やるなら今だぞ」
「やるって、何をだよ?」
「今あのテーブルには柳垣の飲みかけのコップがある。自白剤を入れるなら今が絶好の機会だ」
名似何の発言に隆次は驚きのあまり激しく咳込む
「ば、馬鹿を言うなよ!そんな事しちまったら俺までもが病院送りになっちまうよ!」
「大丈夫さ、きっとお前なら生きて帰ってこれるよ。…だってあいつと、約束したじゃないか」
「物騒なフラグを立てるのは止めてくれ!それに、柳垣に聞く事なんてお前あるのか?」
「まあ、幾つかはね。」
「ならお前が入れればいいじゃん。」
隆次が正論を言うと名似何は深々とため息をつく
「分かってないな~谷津冶がいない今一番死なない確率が高いのは君だよ、隆次。そんな君が行かなくてどうするのさ」
空になったコップにお茶を入れる名似何を隆次は恨めしそうに見ながら呟く
「深い切り傷を一晩で治して翌日平然とやってきたお前が一番強いと俺は思うが……」
「ふうん、反論するのは良いけど偶然君の女装写真が私の手元にあるんだけど、あそこに置いてこようかな~」
名似何が指差したのはTHE STEGO現最高責任者が座っている事務員のスペースだった
「わ、分かった。要求を飲むからその写真を」
「いつやるか?今でしょう!」
「おおおお!」
某先生の名言を背に受け隆次は雄叫びを上げながら涅月達のテーブルに行き自白剤を柳垣のコップの中に注ぎ込んだ
「………何してるんだ、雷堂?」
「先輩、とうとう受験勉強のし過ぎで頭がおかしくなっちゃったんですか?」
自分の行動の一部始終を目撃し少し距離までも置きはじめた二人に白い目で見つめられ隆次は視線で名似何に助けを求めるが
「突然だが、私は眠くなったので少し仮眠を取る事にしよう。それじゃあ人間の皆さん、良い夢を」
名似何から完全に見捨てられ成す術無しになってしまった隆次にさらなる試練が訪れる
「あれ?何かあったんですか?」
柳垣(魔王)招来!
「そういや俺、この後授業があったな~そろそろ行こうか」
「なんて言って逃げるつもりはないよな?」
「ひぃっ!」
逃亡を図った隆次は涅月に腕を掴まれた
「あれれ~?おかしいですね~私のコップの中身が少し緑色ですよ~雷堂君、何か知りませんか?」
某漫画でお馴染みの効果音『ゴゴゴゴゴ』を背中に見に纏い柳垣が目の前に立ち塞がる
「まっ、待ってくれ!言い出したの名似何なんだ俺は脅されて」
「私は提案しただけだよ。実行したのは隆次だ」
最後のツテすら失った隆次に三人の修羅が迫り来る中一人の希望が現れた
「フハハハハ!どうしたというのだ諸君?目が血走ってるぞ!」
「蒲生!?ちょうどいい!助けてくれ!」
「むむむ?俺の名を呼ぶのはお前か雷堂?フハハ!ようやく俺の才を理解したか!いいだろう!今こそ俺の力をかい」
ドガッ!!
喜んで右手を振り上げた希望は無言の涅月に吹っ飛ばされ壁に減り込んだ
「がっ蒲生ーーーー!!」
慌てて駆け寄ろうとした隆次は背後の殺気に気づき身動きが取れない
「良かったな隆次、君の理想のモテモテ状態じゃないか。夢が叶ったな」
「こういうのはモテとは言わないだろう!ってま、待ってくれ、これには訳が………あーーーー!」
「なんて事が今日あったんだお」
場所が移り、ドゥーンは今病院の谷津冶の部屋にいる
「そいつは大変でしたね。隆次はどうなりましたか?」
「大丈夫だお。ちゃんとおっちゃんが処置したから明日には元気になるお。そうそう!今日はこれを私に来たんだお」
そう言いつつドゥーンが置いたのは一枚のDVD
「……これ、何すか?」
「呪いのDVD」
「それ……洒落になんねえよ…」
身構える谷津冶をよそにドゥーンはただニヤつく
「まあこれは後で見ればいいお。あとついでにこれを渡しとくお」
ドゥーンから渡された本にはTHE STEGOと書いてありどうやら英語のテキストのようだ
「また宿題かよ………」 谷津冶が恨めしくテキストを睨みつける隣でドゥーンは身支度を始める
「それじゃ、おっちゃんは明日から有給だから頑張るお」
「確か、海に行くんすよね?あ~あ、俺も行きてーなー」
「受験生なんだからちゃんと勉強するお!それじゃ行くお、お大事にするんだお」
そう告げるとドゥーンは病室から出て行った
「フルッフー!良い友人を持っとるのお!」
「何のようだ、エボン?」
声の出所には点滴を腕につけた男『エボン』が隣のベッドで横たわっている
「いや別に。今度は彼らも実験に協力してもらおうかと考えてな」
「言っとくが……あいつらは俺よりも人外に近いぞ」
「構わん、協力者は腐るほどいるからの」
「今度は何を爆発させんだよ?」
「安心せい俺はもう爆発に飽きたわい。次はガスの時代だからのう。フルッフー!楽しくなりそうだ」
愉快に笑うエボンとは対照的に苦笑いしか込み上げてこない
「頼むから俺が退院するまで大人しくしててくれ」
「フルッフー!それは保障出来んな~何せお前は初めて俺の作った爆弾から生き延びた男だからのお。しばらくは実験に付き合ってもらうぞい」
「…言っとくが、俺はパンピーだからな。昨日のは偶然出くわしただけでお前を止める気なんて微塵もなかったんだぞ」
必死な弁明虚しくエボンには通用しない
「フルッフー!お前がパンピーなら世の中の人間は皆虚弱体質になってしまうのう」
「………早く退院したい」
「フルッフフー!」
こうして新たな友人?を手に入れた谷津冶は明日に不安を抱きつつ眠りにつくのだった
えー…どうも。伊崎です。
実は高上は、私が設定やら性格やらを頑張って作り上げたオリキャラです。
隆次も……そんな感じです、多分。
ですのでこの2人にはどうしても愛着が……
うぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああくぁwせdrftgyふじこlp!!!
これじゃただのわがままだ!これじゃただのわがままだ!
大事な事なので二回言いました…。
感情移入は絶対にしないと!あれだけ!心に誓ったのに!!
はぁ…生まれてごめんなさい…。
〜自己嫌悪タイム終了〜
まぁ、何はともあれ今後ともそれなりに頑張って行きます。後悔のない様に頑張って行きますので、よろしくお願いします。
あと、江生氏や夢色氏のお二人ともキャラ紹介を出していますが、何とか私も出しました…。よろしければご覧ください。
それではご機嫌よろしゅう。
原題:変わったようで全く変わらない物