第LⅢ話「目覚める電脳世界の住人なのです。」
シャ「最近現代文の成績にブレが出てきましたわ…」
メイド「それは、お嬢様ではなく問題の方が悪い…ということですね。」
シャ「いやそこまでは…」
冥土「私にお任せください!今から文科省へ行って参ります」
シ「やめなさい。」
翌日。THE STEGOラウンジにて名似何は机にカバンを置くなり銀色のヤカンくらいの大きさの物体を取り出していた。
「…とりあえず、バッテリーもちゃんと充電してきたし、これで谷津冶達にも見せれるね。」
「うぃーす。」
「噂をすれば何とやら…。」
コーラとコンビニの袋を持って谷津冶がラウンジに現れた。
「あれ、隆次は?」
「さっきコンビニ近くで見かけたけど…何か急いで走り去って行ったな。」
「そう?まあいいや。これが昨日言ってたナスーレ。」
と言いながら名似何は喋るホログラムを起動した。
…ヴォン…
といういかにも映像が浮かび上がっている様な音と共に、白色に光る小さな人影が浮かび上がった。
「…スタンバイ…起動三秒前…二…一…。オハヨウゴザイマス。ナスーレ只今起床シマシタ。」
「おはよう。俺は梨田 谷津冶だ。よろしくな。」
「初メマシテ、谷津冶様…ヨロシクオ願イシマス。」
「おお、本当に会話した。」
「基本的な日常会話は問題ないと思うけど、まだ開発されたばかりだからそんなに会話できないかも。」
「じゃあこれから色々話していくって感じだな。」
「そ。」
「しかし、話すったって何を話せばいいんだ?」
「普段私達が話していることを話せばいいんじゃない?」
「…普段ねぇ。」
谷津冶は少々考えた後、ナスーレにこう言った。
「なぁ、ナスーレ。リア充ってどういう意味だと思う?」
「ワタクシニ内蔵サレテイマス辞書機能ニハ『”リアルが充実している者”の略』ト記述サレテイマス。」
「そのまんまやないかい!」
…シーン…。
「…なんでツッコミ入れたの?」
「…すまん。ノリを間違えたみたいだ…。」
「コノ場合ノ応答ノ仕方ハプログラムサレテオリマセン。」
「ナスーレ、この場合は何も言わずに温かい目で見てあげるってのが正しいと私は思う。」
「温カイ目…」
「人がスベった時の対処法なんか教えんでいい!」
「温カイ目!」
その瞬間ナスーレの目から眩い光線が放たれた!
「ちょ、あっ、熱っ!?」
「ホログラムがビーム出した!?」
「コレハ光ヲ一点ニ集中サセ放ツ、名称『目カラビィーム!』デス。」
「名前が安直だな…」
「開発者のセンスなんじゃないかな…」
「実際ニハ、目カラデハナク機械カラ出テイマス。」
「でしょうね…」
「機械が、ビーム出してるナスーレの、ホログラムを出してるって事か?」
「多分そう。で、ビームのとこだけなんやらして熱くしてるんでしょ。」
「ソノ通リデス。」
「かがくのちからってすげー!」
それから暫く二人はナスーレと会話をしていると、突然玄関のドアが大きな音を立てて開かれた。
「逃がしません!勝つまでは!」
「戦時中の標語みたいだな…そこのメイド…。」
そう言って谷津冶は半ば鬱陶しそうにメイドに声をかけた。
「そんな事は些細なことです。ここにいつもの馬の骨が来ませんでしたか?」
「いつもの馬の骨?」
「多分、隆次のことじゃないかな。私は今日は見かけてないけど…。」
「隆次なら、このすぐ近くのコンビニの前で見たぞ。…1時間以上前だけど…。」
「コンビニ…了解しました。情報提供感謝します。」
「しかし、今回はなんでそんなに血走ってるんだ?」
「急いでるので手短に話しますが…あれはお嬢様と私がここに来たとき…2時間程前のことです。」
「「(あ、長くなるな…)」」
〜回想中〜
「メイド。今日は現代文をやりますわ。」
「では、直ちに問題を用意致します。」
「助かりますわ。」
「センターか二次かどちらの問題に…」
「センターを2年分くらいお願いしますわ。私は自習室で待ってますので。」
「畏まりました。」
そう言ってメイドは持っていた、俗に言う赤本とやらを持ってコピー機へ向かった。
「ん?メイドか。」
「…お退きなさいませ。凡骨様。」
「そんな邪険にすんなよ…先に使ってるだろ?」
先客として隆次がコピー機を使用していた。THE STEGOは割と小さめの塾である為、コピー機が1台しかない。しかし何故か順番待ちをすることがあまり無いという不思議な現象が普段は起きているのだが、今回は珍しく起こった様だ。
「…よし終わった。使っていいぞ」
「言われなくともそのつもりです。」
そう言ってメイドは手に持った赤本をコピー機に入れてボタンを押した瞬間、ピー、ピー、という耳障りな音が鳴った。
「…?どうした?」
「…どうやらインクが無くなったようですね。」
「じゃあスタッフの人呼んでくる。」
「あ、待ってください。それ、何を持っているのですか?」
「センターの問題だが…それがどうかしたか?」
「それってもしかして現代文の問題を2年分程だったりしますか?」
「ああ。20○○年と20○○年だが…」
「今、それを寄越せば命の保証は致しましょう。寄越さなければ、ここで死んでいただきます!私のお嬢様為に!」
そう言ってどこからともなく一本のサバイバルナイフを取り出した。
「え、何で俺こんなに脅されてるの!?」
全くである。
「お嬢様の好感度を上げるためなら羽虫の1匹や2匹なんて造作もありません。」
「ちょ、俺人間!!」
と言って隆次は一目散に駆け出した。
「その後、上手い具合に撒かれてしまって…。不覚を取りました…。」
「(こいつ怖ぇぇぇえええ!!)」
全くもってその通りである。
「要するに隆次のせいでコピー機のインクが無くなったから隆次のコピーしてた問題用紙を頂こうと…」
「その通りです。では、私はこれで…」
「あ、うん。(言えないなー、おかしいなんて…言ったら私まで狙われそうだし。)」
そう言ってメイドは立ち去ろうとしたその時。
「おーっす。」
玄関から隆次が入って来た。
「「あ、終わったな。」」
「げ、メイド…いや、冥土。」
「さぁ、早くその手に持っている問題を寄越しなさい…。」
「待て待て目が怖い怖いから…!」
「お嬢様!もう少々お待ちください!今すぐ問題をお持ち致しますので!」
メイドのナイフが隆次に襲いかかる!!
「ストップ!ストーップ!ほらこれ!」
振り下ろされる直前、隆次が2枚の紙をメイドに突き出した。
「ほら、コピーしてきてやったから、な?これで勘弁してくれ…。」
隆次が突き出した手には現代文のセンター試験の問題が握られていた。
「……これは?」
「わざわざコンビニまで行ってコピーして来たんだぞ!ありがたく思えよな。」
「あ、ありが……馬骨もたまには気が利きますね。」
「どやっ」
「隆次ー、そこでドヤ顔は台無しだよー色々と。」
「ではこれをお嬢様の元へ…」
「メ〜イ〜ド〜?」
メイドがプリントを貰おうと手を伸ばしたとき、突如メイドを呼ぶ苛立ち気な声が聞こえた。
「あ、お嬢様。只今問題を…」
「貴女、問題を印刷するのにどれだけかかってますの…?」
「え、あ…。」
「あまりにも遅かったのでミキから借りた赤本をコンビニまで行ってコピーしましたわよ…。しかも、もう1年分終わってしまいましたし…。」
「あ、あのえーと、申し訳ありませんお嬢様これには事情が…」
「あら、リュージ御機嫌よう。何を渡してますの?」
「ん?センターの問題だ。現代文の。」
「もしかして、リュージがコピーしてくださったの?」
「まぁ、そうだな…。」
「わざわざ迷惑をかけましたわね…。頂いても宜しいかしら?」
「あいよ。」
「ありがとう。…で、メイド。何故2時間も帰ってこなかった挙句リュージにコピーさせたのかしら?」
「あ、あぅ…。」
「…はぁ…。いつもの働きに免じて見逃して差し上げますが、今回きりですわよ?」
「はい。申し訳ありません…。」
「では、私は自習室で残りをやってますわ。」
「いってら〜」
「いってらっしゃいませ…。」
主人の姿が見えなくなる頃にはメイドは傍から見てすぐに分かるくらいに、しゅんとしていた。
「…メイドの好感度じゃなくて寧ろ隆次の好感度が上がったね。」
「しかもメイドの好感度若干下がったっぽいぞ?……まぁ自業自得というか…。」
「……じゃあ、俺も問題を…って名似何何だそれ!?」
隆次は名似何の手元にあるホログラムを指差し訪ねた。
「ああ、これがナスーレだよ。(ずっと喋ってなかったから忘れかけてたよ…)」
「ヨロシクオ願イシマス。」
「おう!ヨロシクな!で、ついでにあそこで落ち込んでるのがメイドだ。本名は知らん!」
「ヨロシクオ願イシマス。」
「……。」
メイドはここにあらずな表情をしていた。
「コノ場合ハ何ヲ言エバヨイノデショウカ?」
「そーだな…。温かい目で見てるだけでいいんじゃね?」
「温カイ目…」
「「げ…」」
「温カイ目!!」
その瞬間、ナスーレの目から眩い光線が放たれた!
「きゃっ!あつ、熱っ!?」
「何かビーム出たぞこいつ!?」
この後、名似何と(何故か)谷津冶はナスーレを持ってメイドから散々逃げ回る羽目になるのであった。
どうも伊崎です。
いつもは江生氏→夢色氏→私→江生氏→(ryという順番でリレーを回しているのですが、今回は諸事情により江生氏→私→江生氏→夢色氏→私と夢色氏の番を一回休んで回すことになりました。
今回はメイドの話でしたが、私の中ではメイドは色白で三白眼のキャラだと思っているのですが、皆様やあの2人はどんな風に思っているのか気になるところでございます。はい。
それでは皆様ご機嫌よろしゅう。